表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/53

第二十五話 奥向きの不穏と、城代の“真の試し”

第二十五話

奥向きの不穏と、城代の“真の試し”


---


◆ 仮許可の翌朝

やよいが薬草を仕分けていると、奥向きから使者が来た。


「奥向きで……そなたの名が出ております」


胸がざわつくまま奥向きへ向かうと、女中たちがひそひそと囁いていた。


「やよい殿が城代様に気に入られたとか……」

「そんなはずないわ……でも仮許可が出たのは事実……」


(……違う……そんなこと、あるわけない……)


御年寄・大崎局が呼び寄せた。


「“城代様がやよいを特別視している”という噂が流れておる」


やよいは震えた声で否定したが、大崎局は静かに言った。


「誓いを守っても、周りには見えぬ。誠実さで示すしかない」


そのとき、廊下の奥から低い声。


「噂など風のようなものだ」


城代・内藤信正の声だった。


「誓いを守り、医を尽くす者はいずれ認められる。

 次の診療で、そなたの真価を見せよ」


やよいは深く頭を下げた。


(……逃げへん……命を救うためにここにおるんや……)


---


◆ 二度目の仮許可診療

翌朝、使者が来た。


「本日、奥向きより診療の呼び出し。城代様の立ち会いがございます」


(……城代様が……立ち会う……これは本当の試しや……)


奥向きは緊張に満ちていた。

案内されたのは奥向きの要、中臈・於千賀の部屋。


於千賀は胸を押さえ、苦しげに息をしていた。


やよいは脈に触れた。


(……細い……熱はない……これは“気逆”……責務の重さで気が上に昇りすぎてる……)


「これは病ではありません。心と気が乱れているのです」


ざわめく女中たち。

やよいは薬草を選んだ。


- 柴胡:気を下げる

- 香附子:滞りを散らす

- 薄荷:呼吸を楽に

- 甘草:緊張を和らげる


台所で火を調整しながら煎じる。


(……柴胡は火が強すぎたら苦い……薄荷は香りが飛ぶ……ここや……)


薬湯を飲ませると、於千賀の呼吸が深くなり、脈が整い始めた。


「……胸が……軽くなりました……」


御年寄は静かに言った。


「見事だ。そなたの医は本物だ」


退出しようとしたとき、廊下の奥から声。


「二度目の診療、確かに見届けた。

 次は“そなた自身”を試す」


やよいの胸が震えた。


---


◆ 城代との面談

翌朝、使者が告げた。


「本日、城代様より“面談”の命がございます」


(……診療やない……ほんまに“わたし自身”を試すんや……)


奥向きは沈黙に包まれていた。

案内された一室には、鋭い目をした城代・内藤信正が座っていた。


「そなたの医は確かだ。だが“奥向きに入れる者”であるかは別だ」


やよいは拳を握った。


「——なぜ奥向きに入りたい」


やよいは胸の奥から言葉を絞り出した。


「命を救いたいからです。

 奥向きの女中様方は外へ出られず、声を上げられない方もおられます。

 わたしは……その方々の命を守りたい。

 それが……わたしの誓いです」


内藤は長い沈黙ののち、静かに言った。


「……そなたの言葉、嘘ではない。

 ならば“第三の試練”を与える」


巻物が開かれた。


「奥向きの中で“ある者”が病を隠しておる。

 その者を探し、診よ。

 ただし——誰が病かは教えぬ」


やよいは息を呑んだ。


「そなた自身の目で見極めよ。

 それができれば正式に認めよう」


---


◆ 新たな試練へ

奥向きに戻ると、女中たちが不安げに見つめた。


「やよい殿……どうでしたか……?」


「……第三の試練を受けることになりました。

 奥向きの中に、病を隠している方がおられるそうです」


ざわめく女中たち。

御年寄・大崎局は静かに言った。


「やよい。そなたの目で見極めよ。

 それが……そなたの道を開く」


やよいは深く頷いた。


(逃げへん。

 わたしは……命を救うためにここにおるんや……)


——こうして、

わたくしは“第三の試練”へ歩み出したのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ