第二十五話 奥向きの不穏と、城代の“真の試し”
第二十五話
奥向きの不穏と、城代の“真の試し”
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◆ 仮許可の翌朝
やよいが薬草を仕分けていると、奥向きから使者が来た。
「奥向きで……そなたの名が出ております」
胸がざわつくまま奥向きへ向かうと、女中たちがひそひそと囁いていた。
「やよい殿が城代様に気に入られたとか……」
「そんなはずないわ……でも仮許可が出たのは事実……」
(……違う……そんなこと、あるわけない……)
御年寄・大崎局が呼び寄せた。
「“城代様がやよいを特別視している”という噂が流れておる」
やよいは震えた声で否定したが、大崎局は静かに言った。
「誓いを守っても、周りには見えぬ。誠実さで示すしかない」
そのとき、廊下の奥から低い声。
「噂など風のようなものだ」
城代・内藤信正の声だった。
「誓いを守り、医を尽くす者はいずれ認められる。
次の診療で、そなたの真価を見せよ」
やよいは深く頭を下げた。
(……逃げへん……命を救うためにここにおるんや……)
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◆ 二度目の仮許可診療
翌朝、使者が来た。
「本日、奥向きより診療の呼び出し。城代様の立ち会いがございます」
(……城代様が……立ち会う……これは本当の試しや……)
奥向きは緊張に満ちていた。
案内されたのは奥向きの要、中臈・於千賀の部屋。
於千賀は胸を押さえ、苦しげに息をしていた。
やよいは脈に触れた。
(……細い……熱はない……これは“気逆”……責務の重さで気が上に昇りすぎてる……)
「これは病ではありません。心と気が乱れているのです」
ざわめく女中たち。
やよいは薬草を選んだ。
- 柴胡:気を下げる
- 香附子:滞りを散らす
- 薄荷:呼吸を楽に
- 甘草:緊張を和らげる
台所で火を調整しながら煎じる。
(……柴胡は火が強すぎたら苦い……薄荷は香りが飛ぶ……ここや……)
薬湯を飲ませると、於千賀の呼吸が深くなり、脈が整い始めた。
「……胸が……軽くなりました……」
御年寄は静かに言った。
「見事だ。そなたの医は本物だ」
退出しようとしたとき、廊下の奥から声。
「二度目の診療、確かに見届けた。
次は“そなた自身”を試す」
やよいの胸が震えた。
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◆ 城代との面談
翌朝、使者が告げた。
「本日、城代様より“面談”の命がございます」
(……診療やない……ほんまに“わたし自身”を試すんや……)
奥向きは沈黙に包まれていた。
案内された一室には、鋭い目をした城代・内藤信正が座っていた。
「そなたの医は確かだ。だが“奥向きに入れる者”であるかは別だ」
やよいは拳を握った。
「——なぜ奥向きに入りたい」
やよいは胸の奥から言葉を絞り出した。
「命を救いたいからです。
奥向きの女中様方は外へ出られず、声を上げられない方もおられます。
わたしは……その方々の命を守りたい。
それが……わたしの誓いです」
内藤は長い沈黙ののち、静かに言った。
「……そなたの言葉、嘘ではない。
ならば“第三の試練”を与える」
巻物が開かれた。
「奥向きの中で“ある者”が病を隠しておる。
その者を探し、診よ。
ただし——誰が病かは教えぬ」
やよいは息を呑んだ。
「そなた自身の目で見極めよ。
それができれば正式に認めよう」
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◆ 新たな試練へ
奥向きに戻ると、女中たちが不安げに見つめた。
「やよい殿……どうでしたか……?」
「……第三の試練を受けることになりました。
奥向きの中に、病を隠している方がおられるそうです」
ざわめく女中たち。
御年寄・大崎局は静かに言った。
「やよい。そなたの目で見極めよ。
それが……そなたの道を開く」
やよいは深く頷いた。
(逃げへん。
わたしは……命を救うためにここにおるんや……)
——こうして、
わたくしは“第三の試練”へ歩み出したのである。




