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第二十四話 城代の時代——やよい、深い病と再審査と仮許可の診療に挑む

第二十四話

城代の時代——やよい、深い病と再審査と仮許可の診療に挑む


忠明公が去った翌朝、大坂城は魂を抜かれたように静まり返っていた。

女中たちは囁く。


「新しい城代様は……とても厳しい方だとか……」

「奥向きはどうなるのかしら……」


御年寄・大崎局がやよいを呼んだ。


「今日からは“城代の時代”だ。覚悟せよ」


胸がざわつく中、昼には新たな一行が城へ入った。

初代・大阪城代 内藤信正。

忠明とはまったく違う、冷静で無表情、秩序そのものの男。


その夕刻、奥向きに通達が届いた。


「外部の者の出入りは原則禁止。

 奥向きへの出入りはすべて再審査とする」


女中たちがざわめく。


「やよい殿も……入れないの……?」


やよいの胸が締めつけられた。

忠明の時代に積み重ねたものが、すべて白紙に戻るかもしれない。


そのとき、奥向きの入口から声が響いた。


「曲直瀬やよい殿!

 城代様より“再審査”の命が下った!

 明朝、登城願いたい!」


玄道が静かに言った。


「恐れるな。そなたは誓いを守り、命を救ってきた。それを示せばよい」


---


◆ 城代・内藤信正の“再審査”

翌朝。

やよいは薬箱を抱え、冷たい空気の中、大坂城へ向かった。


奥向きは沈黙に包まれ、女中たちの顔には不安が浮かんでいた。


「今日は……本当に大事な日です……」

「どうか……誓いを忘れずに……」


案内された一室には、鋭い目をした男が座っていた。

——城代・内藤信正。


「そなたが曲直瀬やよいか」


やよいは深く頭を下げた。


「女人医者として奥向きで診療を務めておりました」


内藤は巻物を開き、冷静に言う。


「忠明公の時代の話だ。

 幕府の城で女人医者を入れる前例はない。

 そなたを認める理由はどこにもない」


胸が締めつけられた。

だが、やよいは静かに顔を上げた。


「わたしは……ただ命を救いたいだけです。

 奥向きの方々は外へ出られません。

 声を上げられぬ病もあります。

 わたしは、その命を守りたいのです」


内藤の眉がわずかに動いた。


「誓いは守ります。

 秘密は漏らしません。

 規律も破りません。

 どうか……診療の機会をお与えください」


長い沈黙ののち、内藤は言った。


「……そなたの言葉、嘘ではないようだ。

 だが、すぐには認めぬ。

 まずは“仮許可”とする」


やよいは息を呑んだ。


「必要な時のみ奥向きへ呼ぶことを許す。

 立ち会い三名以上、診療後は即退出。

 城内の構造を見てはならぬ。

 誓いを破れば即刻追放」


やよいの目に涙が滲んだ。


「そなたの医が本物なら、いずれ正式に認めよう」


---


◆ 仮許可の診療——城代時代の厳しさ

その翌朝、やよいは“仮許可”の条件を読み上げられた。


「一、診療は必要な時のみ

 二、立ち会い三名以上

 三、即退出

 四、構造を見てはならぬ

 五、誓いを破れば即追放」


(……忠明公の時とはまるで違う……

 これは……ほんまの試練や……)


奥向きに入ると、女中たちは緊張した面持ちで迎えた。


「今日は……城代様の目が光っております……」


案内された一室には、若い奥女中が苦しそうに座っていた。


「胸が……苦しくて……息が……」


やよいは脈に触れた。


(乱れてる……でも熱はない……

 これは“驚悸”……

 強い不安と緊張で気が乱れてるんや……)


「これは病ではありません。

 心が揺れたために脈が乱れているのです」


女中たちは驚いた。


やよいは薬草を選んだ。


蘇葉、遠志、甘草。

気を巡らせ、心を落ち着かせ、緊張を和らげる。


台所で火を読み、匂いを嗅ぎながら煎じる。


(遠志は火が強すぎたら香りが飛ぶ……

 甘草は弱すぎたら出ぇへん……

 ここや……)


薬湯を飲ませると、奥女中の呼吸が深くなった。


(……揺れが整ってきた……)


「胸が……軽くなりました……」


御年寄・大崎局は静かに言った。


「見事だ。やよい。そなたの医は本物だ」


退出しようとしたとき、廊下の奥から声がした。


「……仮許可の診療、確かに見届けた」


城代・内藤信正の声だった。


「次も誓いを守れ。

 それができるなら……道は閉ざさぬ」


やよいの胸が震えた。


(……わたし……まだ前に進める……)



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