表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした  作者: ゆきのひ
2章 公爵領編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/81

偽りの悪女

 ノルマンが不在の間、特にすることもなかった私は、また城の中を見て回ることにした。まだ、足を運べていない場所がけっこう残っていたからだ。

 カーラは「ご一緒します」と言ったけれど、「城の中だから大丈夫よ。外に出るつもりはないから」と断って、一人で出てきた。正確には、猫のルオンがついてきたけれど。


 城の上まで昇ると、領都が見渡せた。そのはるか先にぼんやりと見える山並みの中に、ノルマンが向かった鉱山がある。


「さすがに、これだけ歩くと疲れた……」


 王城に匹敵する規模のモントロー城は、いちいち細かく見て回れば数日では足りないほどだ。うっかりヒールのある靴で部屋を出てきてしまったせいで、足が痛む。

 腰かけられる場所を見つけて、靴を脱いだ。足裏にあたる石の冷たさが、なんとも気持ちいい。


「お嬢様、こちらでしたか」


 一人の騎士がこちらに走ってくる。


「セザール卿、何かあったの?」

「モルガンから、お嬢様に至急お伝えするようにと。実は今、ジュール様のところに客人が訪ねてきているのですが……その……」


 言いづらそうに頭を掻くセザール卿は、ノルマンが自分の留守の間、私の護衛を命じられている。


「そのお客様とは? 私にとって、あまりいい人じゃないみたいね」

「王都からの客なんですが……実は、ロベル・ショワジー小伯爵だと」

「えっ……?」


 意外な人物の名に、思考が止まる。


「なのでモルガンが私に、お嬢様が鉢合わせすることのないよう、くれぐれも気をつけるようにと言いまして」


 ああ、そういうこと……。

 でも、ロベルの名を聞いても、不思議と何の感情も湧いてこない。それほど私にとって、もはや彼はどうでもいい存在になっていた。

 いや、なぜロベルがここに? 


「わかりました。……ところで、小伯爵は、ジュール様と以前から親しかったの?」

「いえ、それはないようです。小伯爵は、バレリー・カミユが連れてきたようですから」

「カミユ……? ああ確か、モントロー公爵家の傍系筋の子爵家でしたか?」


 その家名は、書庫にあった一門の家系図に見た覚えがある。


「さようです。バレリーは、その子爵家の三男です。ですが、あまりいい噂は聞きませんね。ふらふらして、遊び人を気取ってる奴ですよ。カミユ家ではいないも同然の扱いだとか。そう言えば、王都に何のためかは知りませんが、よく出かけていると聞いたことはありますね」


 ならば、王都でロベルと出会ったということか。


「二人は、何のためにジュール様に会いに来たのか、わかる?」

「いえ、そこまでは……。ですが、使用人をすべて応接室から出したということです。単なる世間話の類ではないでしょう」


 ジュールは、理由はわからないけれど私に敵意を抱いている。そんな彼とロベルが顔を合わせるなんて。とにかく、私としてもロベルと顔を合わせるなんて御免だ。


「では、私はお客様がお帰りになるまで、ここにいることにします。セザール卿は、戻って彼らの様子をうかがっておいていただけませんか。そして、お客様がお帰りになったら、ここまで知らせに来てくれると助かります」

「承知いたしました」


 セザール卿が戻っていくのを見て、小声でつぶやく。


「ルオン、今の話、聞いてたよね?」

「もちろん! 探ってくればいい?」

「よろしくね」


 猫のルオンは、セザール卿の後を追って駆けていった。


 ◆◆◆


「なんだって? それは本当なのか?」


 ジュールは、バレリー・カミユが連れてきた男の話に憤った。


(やっぱり、怪しいとは思っていたが、その通りじゃないか)


 兄上は騙されている、あの女に。

 今、バレリーの隣にいるロベル・ショワジーという男は、あの女の元婚約者だ。


「ディアは、本当は僕のことがまだ忘れられずにいるんです。僕とディアの婚約は、家同士が決めたものだと思われていますが、実は違います。ディアは、僕を子どもの頃からずっと慕ってくれていたんです。それなのに……」


 ロベルはジュールに訴える。そんなロベルの肩に親しげに手を置き、バレリーも言う。


「僕も、ロベルから聞いて驚いたよ。社交界での噂とはまったく違っていたからね。だからさ、兄上思いのジュール様に、このことはぜひ伝えておかないとなってことで、彼を都からはるばるモントロー領にまで連れてきたってわけ。本人の口からじかに聞くのが一番信用できるだろ?」

「わかった。……カミユ子爵家の忠心に感謝しよう」


(気に入らない奴だけど……)


 本当は、このバレリーという胡散臭い奴も、どこか計算高いカミユ子爵家も、ジュールにとってはそう易々(やすやす)と信用できる相手ではない。

 でも、今回は別だ。まさに当事者であるロベルという男が、自分の口で話したことなのだから。これより確かなことはない。


 ロベルは、自分が望んで婚約破棄をしたわけではなかったと言った。自分には、そんなつもりは毛頭なかったが、あの女が先に言い出したことだと。

 ディアロッテというあの女は、ロベルという元婚約者が今も心にありながら、兄上の公爵という身分につられて婚約を承諾したのだ。いや、兄上の婚約者探しをモンタナ侯爵夫人がしているのを聞きつけて、恥知らずにも自分から名乗り出たに違いない。


「公爵様と婚約するために、ロベルとの婚約を破棄したってことなんだろうよ。サルグミン嬢は、損得で考えたんだろうな。ロベルもそう疑ってるんだろ?」

「ええ、まあ……」


 バレリーの言葉に、ロベルは少し返事を濁す。目をそらしたのは、何かやましいことがあるからか?


 とはいえ、やはりあんな怪しい女を、兄上と結婚させるわけにはいかない。公爵夫人の権威を得たら、どんな勝手な振る舞いをするか、わかったものじゃないから。


 だが、執事のモルガンや使用人たちの話では、兄上はあの女をどういうわけか気に入っているらしい。

 だとしたら、ジュールがいくらあの女を追い出したほうがいいと訴えても、兄上が聞いてはくれることはないだろう。いつものように穏やかな笑みを浮かべて、「大丈夫だ、お前は何も心配しなくていい」と言うはずだ。

 だからなおのこと、ジュールだけでも騙されることなく、兄上のためにできることをしなければ。


「それで、小伯爵。あなたはどうしたいんだ?」

「僕は……ディアを取り戻したいんです。そしてもう一度、婚約をしたいと思っています。そのためなら何でもします」

「へえ……いい覚悟じゃないか、ロベル」


 バレリーが口を開いた。


「だったら、少し手荒だが、確実な方法があるぞ。どうする? やるかい?」


 バレリーの「手荒」という言葉に、ロベルは少しだけ躊躇する様子を見せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ