表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/40

第34話∶幸運の龍


帝国を出てから、もう何日が経っただろうか。


深い森の中を歩きながら、俺は考えていた。


龍を探す──あてのない旅。


だが、何の根拠もなく確信していた。

この森の奥に、俺の探すものがあると。


そして、それは突然現れた。


「お前、魔族に気に入られたのか?」


静寂を破る声。


俺は咄嗟に剣に手をかけたが、それよりも早く目の前に「少女」が立っていた。


琥珀の瞳。黄金の光を宿した髪。


それは美しい少女だった。


だが──違和感。


(龍の気配……?)


俺は目を細める。


彼女はただの少女ではない。だが、獣のような威圧もなければ、畏怖すべき存在というわけでもない。


ただ、そこに佇む姿は──「人を見下ろす神」のようだった。


「……龍の娘、か」


少女は顎に指を当て、じっくりと俺を観察する。


「全く、レギオンは何をしているやら」


(──レギオンを知っている?)


眉をひそめる俺を気にもせず、少女はさらに距離を詰めた。


「……ジンの呪いに、魔族の契約か」


「!?」


俺の瞳が驚きに揺れる。


見抜かれた? しかも、一目で?


「龍の娘、お前、これが分かるのか?」


「当たり前だ」


少女は淡々と答え、肩をすくめる。


「こんなに満身創痍のエルヴァントは、初めて見たがな」


その言葉に、俺の奥歯が軋む。


「……何者だ、お前は」


少女は答えず、ふっと顎をしゃくった。


「こっちだ。お前に会わせたい奴がいる」


唐突な言葉に、俺は目を細める。


「お前が“会わせたい”? 俺の意志は無視か?」


「ついて来るかどうかは勝手だ」


少女は興味なさげに言い放ち、くるりと背を向ける。


少し考えたが……結局、俺は無言で後を追った。



---


森の奥深く。静寂に包まれた空間に、焚火の匂いが混じる。


少女に連れられ辿り着いたのは、古びた庵だった。


(まさか、龍がこんな場所に……?)


違和感を覚えながらも、扉をくぐる。


そこにいたのは、端正な顔立ちの男だった。


白銀の髪に、深い琥珀色の瞳。


どこか人ならざる威厳をまとっている。


そして、彼がふと笑った瞬間──


「やっと来たか」


穏やかで、懐かしさすら覚える声。


「会えるのを楽しみにしていたよ、ルーベンス」


俺の目がわずかに細まる。


「……俺の名を知っているのか?」


「当然だろう。お前の血が、我らと深く繋がっていることを忘れたか?」


グレイス──それが彼の名だという。


かつてレギオンの前に龍王の座にあった者。


「まるで昔から俺を知っていたような口ぶりだな」


俺が低く問いかけると、グレイスは微笑を崩さぬまま、ゆっくりと手を組んだ。


「昔から知っていたさ。お前が生まれるずっと前からな」


意味深な言葉に、俺は眉をひそめる。


「まあ、ゆっくり話そう」


グレイスはそう言いながら、茶を淹れ始めた。


俺は少女──アズィールの様子を窺う。


彼女は興味がないのか、さっさと部屋の隅に腰を下ろしている。


(……まあいい。聞きたいことは山ほどある)


俺は静かに椅子に腰を下ろした。



---


夜になり、アズィールは寝息を立てていた。


俺は庵の外に出る。


月は冴え冴えと輝き、森の静寂が深まっていた。


そんな中、グレイスが静かに歩み寄る。


「……ジンの呪いは、不解呪だ」


開口一番、そう告げられた。


俺は眉をひそめる。


「つまり、打つ手なしということか?」


「いや、“上書き”することはできる」


グレイスの言葉に、俺の眉がさらに動く。


「……どういう意味だ」


「龍の血によって、呪いを“押さえ込む”のだ」


「龍と契約しろというのか?」


「その選択肢もある、という話だ」


「龍と血の契約を結ぶことで、お前の中にある“ジンの呪い”の力は抑えられるだろう」


グレイスの視線が、俺の魔紋が刻まれた腕へと向けられる。


「完全ではないが、今よりはずっと楽になる」


俺はしばらく沈黙した後、口を開く。


「……その話を、アズィールは知っているのか?」


グレイスは少し考え込むような素振りを見せる。


「さあな。だが、いずれ彼女はお前に“選ばせる”ことになるだろう」


「選ばせる?」


「アズィールの能力は“幸運”だ」


俺は目を細める。


「幸運……?」


「そう。契約者の望むものを得るために、ありとあらゆる幸運を引き寄せる」


「……それはすごいな」


「だが、それには代償がある」


グレイスは続ける。


「幸運が大きければ大きいほど、相応の不幸が起こる」


俺は息を飲む。


「……下手をすれば、契約者の命に関わるかもしれん」


「だからアズィールは、今まで誰とも契約しようとしなかった」


「それでも、お前がここへ来たということは……」


グレイスは俺を見つめ、静かに微笑んだ。


「彼女にとっての“変化”なのだろうな」


俺は夜空を仰ぐ。


(……俺が、ここに来たことが“変化”……か)


そして俺は問いかけた。


「王とは何か──」


その答えを、俺はまだ知らない。


沈黙を破り、俺は口を開いた。


「……一つ聞きたいことがある」


「なんだ?」


「幼い頃、レギオンにこう言われた。"お前は王になる。しかし、私の王ではない"と」


グレイスの目がわずかに細まる。


「その意味を知っているのか?」


しばらく俺を見つめ、グレイスは静かに言葉を紡ぐ。


「レギオンは"未来を視る龍"だ。お前も、薄々気づいているのではないか?」


俺は拳を握る。


(……俺は王だ。しかし、"王ではない")


「お前は王の器を持つが、それに囚われている」


グレイスの声が、夜の闇に溶ける。


「王とは何か──いずれ、お前自身が答えを見つけるだろう」


夜風が肌を撫でる。


(俺は……何を選ぶ?)


まだ答えは出ない。


だが、この出会いが"何かを変える"のは、確かだった。




読んでいただきありがとうございます!

面白かったら ブクマ&感想 をもらえると

とても励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ