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第27話∶【経済戦争】魔族の契約──闇に差し出す代償


ギルド長の机の上に、金貨の入った袋が無造作に置かれていた。

袋の口が緩み、数枚の金貨がこぼれ落ちる。


淡い光を反射し、燦然と輝く金貨――だが、何かがおかしい。


俺は無意識に金貨を見つめ、考えを巡らせた。


(帝国内のインフレ、物価の高騰、税の上昇……。)


単なる経済の乱れか、それとも――。


ふと、一枚の金貨をつまみ上げた。


「……ん?」


指先に違和感が走る。


金貨を転がし、光にかざす。

表面の刻印は精巧だが、妙に艶が鈍い。


試しに指で弾く――


コンッ


乾いた、どこか軽い音がした。


(……軽い?)


金貨はもっと重いはずだ。


「天秤を借りてもいいか?」


ピリッと空気が張り詰めた。


ギルド長やナディアが、一斉に俺を見た。


「天秤?」

ナディアが眉をひそめる。


「あるが……何に使う?」

ギルド長が警戒するように言った。


ノクスが棚から天秤を取り出し、俺に手渡す。


「実験だよ」


俺は水差しを手に取り、コップに水を注いだ。


「金は、体積の割に重い物質だ」


「……ちょっと待って、何の話?」

ディアナが困惑する。


「まあ見てろよ」


俺は天秤の片方に金貨を、もう片方に分銅を乗せる。

次に、コップになみなみと水を注ぎ、金貨を沈めた。


溢れた水を慎重に別の容器へ移し、体積を測る。


(アルキメデスの法則……ってやつだな)


計算結果を見つめ、俺は眉をひそめた。


「……純金の比重は19.3」


沈黙が広がる。


「でも、この金貨の比重は17.5しかない」


ギルド長の表情がこわばる。


「つまり、純金じゃない」


その瞬間、場の空気が一気に変わった。


ノクスが低く呟く。

「どこから仕入れた?」


ギルド長はわずかに言葉を詰まらせる。


「帝国貴族の商隊経由よ」


ナディアが冷ややかに笑った。

「じゃあ、このギルドの誰かが、帝国と繋がってるわね」


ギルド長の指がピクリと動く。


「まさか、そんなはずは――」


「帳簿を見せてもらえるか?」


ギルド長の表情が揺れる。


「……出せないなら、もう答えは出てる」


沈黙が降りる。


ナディアがゆっくりと口を開いた。


「ギルドを守る? それとも、帝国貴族と心中する?」


ギルド長は拳を握りしめ、そして――


「……ノクス」

ギルド長は低く唸る。


だが、もう逃げ場はなかった。


しばらくの沈黙の後――

「帳簿を、持ってきなさい」


その声は震えていたが、もはや抗う術はない。

彼女の拳がわずかに握り締められる。


敗北の重みが、その身にのしかかっていた。

俺たちの勝ちだ。


--


ノクスが分厚い帳簿を持ってきた。

ギルド長は何も言わず、ページをめくる。


「……確かに、不審な取引があるわ」


ノクスが金貨を睨みつける。

「帝国が通貨を操作してたってことか……!」


ナディアが冷ややかに笑う。

「まあ、これで確定ね」


ギルド長は苦々しげにため息をついた。

「まさか、こんな形で気づくとは……」


俺は指で金貨を弾く。


コンッ


「これが"真実"だ」


ナディアがじっと俺を見て、ふっと笑う。


「キース、あんた、どうしてこんなことが分かったの?」


「……確かに」

ギルド長も視線を向ける。


ディアナが興味深そうに問いかけた。

「普通の人は、こんな実験、思いつかないわ」


俺は金貨を指で転がす。


「俺は……少し、特別な知識を持っているんだ」


ナディアがじっと俺を見つめ、呟く。

「この知識、売れるわ……」


「いや、売れねーよ」


俺はうんざりしたように肩をすくめた。


──これはただの兆しに過ぎない。

だが、帝国の土台は確実に揺らぎ始めている。

あとは、どう崩すか――それだけの話だ。




---



──その頃、帝国宮殿の奥深くでは、一人の男が呪いに蝕まれていた。



俺の頭を蝕むように、ジンの呪いは囁き続ける。


幻覚、耳鳴り、虚ろな影。


視界に映るものすべてが揺らぎ、かつての誇りも、信念も、溶けるように失われていく。


このままでは、王どころか、自分すらも見失う。


そんな時だった。


「──ずいぶんと追い詰められてるな、ルーベンス」


部屋に満ちる闇の気配。


振り向くまでもなく、俺はその主を知っていた。


ザハール──魔族の使者。


「……いつからそこにいた」


「お前が"必要とした"時からだよ」


男は扉も開けず、ただそこに"現れた"。


黒衣を纏い、その瞳には赤黒い光が宿っている。


「……ずいぶんやられてるな」


「貴様に関係のないことだ」


冷たく言い放つが、ザハールは微笑を崩さない。


「関係ない? へぇ……じゃあその顔はなんだ?」


「……」


「ジンの呪いってのは厄介だからな。刻まれたら最後、意志も誇りも全部喰われる。お前のそれも、もう時間の問題ってわけだ」


「貴様の言いたいことは分かっている」


俺は目を細め、低く言った。


「フッ……察しがいいな。"契約"だ」


ザハールは満足げに笑う。


「お前が王を目指すなら、道を示してやる。呪いに抗うだけの負け犬になるか、それを従えて覇者になるか……選べよ、ルーベンス」


「……」


俺は静かに考えた。


この呪いを克服できるのなら、それは俺にとって王への道を開くことになる。


だが、安易に魔族に屈するつもりはない。


「一つ、条件がある」


「ほう?」


「レギオン以外の龍を喰わせる。それが契約の条件だ」


ザハールの目が細まる。


「レギオンだけは譲れない、と。つまり、"王の証"だから手放せないってわけだ」


「あれは王の証だ」


「フハ……いいじゃねぇ。その傲慢さ、俺は嫌いじゃない」


俺は冷たくザハールを睨む。


「魔族の手を借りるが、貴様らに従う気はない。王となるのは、俺だ」


ザハールの唇がわずかに吊り上がる。


「……面白い」


次の瞬間、契約の魔紋が足元に浮かび上がった。


禍々しい魔力が渦を巻き、空間が歪む。


これが、俺の選んだ道。


たとえ地獄に足を踏み入れようとも、俺は必ず、王となる。


ザハールが呟くように言った。


「ようこそ、闇の祝福を受けし者よ──」


その言葉とともに、契約が結ばれた。


俺は魔族に屈したわけではない。


この力を手に入れ、呪いを制し、王になる。


それが俺の── "正しき道" なのだから。


 


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