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第24話∶魔王の座なんぞくれてやる


俺は、初めて「力」を求めた。


マリアを奪うため。結界を打ち破り、彼女を俺のものにするため。


そのためなら、魔族の掟だろうが、世界の理だろうが、全部ひっくり返してやる。


そんな時、俺の前に魔王の使者が現れる。


「ルキフェルド殿。魔王陛下が、お前を呼んでいる」


折しも、魔王が次期魔王候補に俺を指名したのだ。


「……魔王候補?」


今まで、強さに意味を感じたことはなかった。

だが――マリアを手に入れるためなら。


この力を、初めて“使う理由”ができた。


魔族どもの頂点に立ってやろうじゃないか。

そして正面から彼女を迎えに行こう。


そう決めた俺は、ただマリアを迎えに行くためだけに魔王候補として戦い、序列を上げていった。



---


そして――数年後。


屋敷の扉を蹴破り、堂々と踏み込む。

中は静まり返っていた。

広間の奥、美しいステンドグラスを背に、ひとりの男が立っている。


ヴァルト・レグナス――序列二位の魔族公爵。

"魔力を喰らう剣"、魔剣ラグナを手に、何百年もこの座に君臨してきた老獪な魔族だ。


だが——今日で終わりだ。


俺はまっすぐ奴を見据え、口角を上げる。


「公爵ヴァルト、おまえを引きずり降ろしに来たぜ」


ヴァルトは喉を鳴らし、薄く笑う。


「威勢のいいことだな、青二才が」


ステンドグラス越しの夕陽が、ヴァルトの赤い瞳を妖しく照らした。

そして——


ギィンッ!!


ヴァルトがラグナを抜いた瞬間、広間全体の魔力が震えた。


(……こいつ、魔力を"喰らって"やがるのか!?)


刹那、ヴァルトの剣が唸りを上げ、斬撃が襲いかかる。

俺は剣を抜き、交差する刃を受け止めた——が。


(——魔力が……抜けていく!?)


ラグナが脈動し、俺の魔力を吸い取っていく。

剣を握る腕が妙に重くなり、体がじわりと冷える感覚があった。


だが——


(……クク、面白ぇじゃねぇか)


ニヤリと笑い、刀を振り払う。


「その魔剣は魔力を喰らうが——」


ヴァルトが再び斬りかかる。だが、今度は受け止めない。

俺は一歩踏み込み、刃を紙一重で避ける。

そのまま剣を返し、ヴァルトの懐へ鋭く突き出した。


「魔力を喰らわせなきゃ、ただの剣だろうが!!」


ヴァルトが咄嗟に体を逸らす——が、完全には避けきれない。

俺の剣先が頬をかすめ、浅い傷を刻んだ。


「……ッ!?」


ヴァルトの表情が僅かに揺らぐ。


「くぅっ……! 魔族が魔力なしで戦うつもりか……?!」


「剣の腕で俺に勝てると思うなよ、老いぼれが」


ヴァルトの表情が歪む。


俺は剣を逆手に構えた。

ヴァルトはラグナを振るい、魔力を喰らおうとするが——


「その手は二度と喰えねぇよ」


瞬間、俺の剣がヴァルトの懐に滑り込む。


——ガキィィン!!


ヴァルトは咄嗟にラグナを盾にする。

しかし、次の瞬間——


ズバァッ!!


俺の剣が軌道を変え、ヴァルトの肩を深く裂いた。


「ぐぅっ……!!」


ヴァルトが苦悶の声を漏らし、後退する。


「何百年もその座にふんぞり返ってたくせに、ずいぶん鈍ったな」


ヴァルトが再びラグナを構え、怒りの一閃を放つ。


(遅ぇよ)


俺は体を沈め、刃の軌道を見極める。

そして——


一瞬の隙を突いて、刃を跳ね上げた。


ガキィンッ!!


ヴァルトの手から、ラグナが弾き飛ばされる。


「……馬鹿な……!」


ヴァルトの瞳が大きく揺らぐ。


そのまま、俺は肘を突き出し、ヴァルトの腹に叩き込む。


「がっ……!!」


ヴァルトの巨体が吹き飛び、広間の床に叩きつけられた。

ラグナがカランと音を立て、床を転がる。


「さぁ、魔族の"序列"を更新する時間だ」


ヴァルトは剣を杖代わりに立ち上がろうとしたが、その足はもう支えを失っていた。


俺は深紅の瞳でヴァルトを見下ろし、静かに言い放つ。


「長い間、俺のための椅子を守ってくれてご苦労だったな」


その言葉とともに、俺の剣がヴァルトの胸を貫いた。


魔族は、強さこそ正義。


こうして、考え方も戦い方も全てにおいて異端な俺が、序列第二位の新公爵となった。

 

俺は魔剣を見下ろし、低く呟く。


「……魔力を喰らう剣か。他の奴らが持つ魔剣の力も喰らえるかもしれねぇな」


その瞬間——


ギィ……


ラグナが"蠢いた"。

刃の紋様が妖しく光り、まるで"喰らわせろ"と主張するかのように。


「……チッ、こいつ……制御が難しいな」


舌打ちしながらも、俺は不敵に笑った。


——暴食の魔剣ラグナ。

新たな主を得た刃が、さらなる"強者の血"を求めて蠢く——。


――あと一歩で、魔王になれる。

あと一歩で、マリアを迎えに行ける。


そう、信じていた。


だが——


マリアが、死んだ。


報せを受けた瞬間、世界が揺らぐ。


「……嘘だろ?」


鼓動が、不快な音を立てる。

戦えば必ず勝つ。力を示せば、手に入らないものなどない。

そう信じていた。


なのに――俺は、マリアを救えなかった。


目の前が真っ白になる。

まるで時間が止まったようだった。

 

(何のために、強くなった?)


静寂。

無音の空間に、ただ自分の呼吸だけが響く。


もう……何もいらない。

もう、何も——


「……マリア様は、子を残していました」


静かな声が、沈みかけた意識を引き戻す。


「……子?」


「あなたの血を引く娘、ディアナ様です」


——ディアナ。


マリアが、俺のために残したもの。

俺の、たったひとつの「繋がり」。


「……無事なのか?」


「王都の神殿――ルーヘルム王家の庇護が及ぶ場所におります」


目を閉じる。

脳裏に浮かぶのは、あの微笑み。


「どこにいても、ここが私の居場所だって思えるの」


マリアは、もういない。だが、彼女の遺した命は、まだこの世界に残っている。


俺は、ゆっくりと目を開いた。


「——魔王の座はくれてやる」


使者が息を呑む。


「何を……?」


「俺はもう、魔王になど興味はない」


 そして——


(ディアナを、この手で取り返す)

 

——たとえ、どんな障害があろうとも。

 

 

 

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