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第23 話∶それは、ルキフェルドの退屈を壊す恋


生きるのは、退屈だ。


ルキフェルドは、いつもそう思っていた。


魔族にとって強さはすべて。

力を示し、序列を上げ、誰よりも上に立つ――それが、"常識"ってやつだ。


だが、そんなもん、俺にとっちゃどうでもいい。


闘えば必ず勝つ。

だが、勝ったところで何になる?


ただの順位付けに、何の意味がある?

 

だから俺は、争いとは距離を置き、ただ気まぐれに生きてきた。



---


今日は、森を走る気分だった。


木漏れ日が揺れるルーヘルム王国の森を、俺は 漆黒の狼の姿で駆け抜ける。


──そこへ、不躾な声が響いた。


「はぐれ狼か!?」「回り込んで仕留めろ!」


どうやら、王侯貴族の狩り場に紛れ込んだらしい。


背後から 蹄の音が迫る。矢が次々と飛んでくる。 だが、そんなもん、ただの そよ風みたいなもんだ。


俺は軽やかにそれをかわしながら、ふと思った。


(たまには狩られる側ってのも、悪くないか?)


退屈しのぎにはなるかもしれない。 だが、ただ逃げ回るだけじゃ 面白くねぇ。


(いっそ、手負いにでもなってみるか)


適当に動きを鈍らせた瞬間、矢がかすり、黒い毛並みに血が滲む。


……が、それだけだった。


期待したほどの刺激もなく、痛みもほぼ感じない。


「つまんねぇな」


ため息をつきながら、狩人たちを撒いた。


そして――


俺は、勢いそのままに崖の端へと跳び出す。


風が耳をかすめる。空が逆さになり、世界が回る。


宙を舞いながら、 狼の姿を霧散させる。

次の瞬間、地に降り立った俺は、漆黒の髪と深紅の瞳を持つ青年の姿へと戻っていた。


魔族にとって、強さはそのまま美しさに繋がる。

俺の漆黒の髪も、深紅の瞳も――それが、俺が強い魔族である証だ。

 

「……さて、帰るか」


腕の傷口を見下ろし、どうでもよさそうに呟いた、その時――


「怪我をしているの?」


静かに響いた声に、俺は振り返る。


そこにいたのは―― 金色の髪の少女 だった。


陽光を浴びて、柔らかく揺れる金の髪。 澄んだ琥珀色の瞳。


俺は、一瞬、息をするのを忘れた。


(……女神か?)


胸の奥が、不自然なほど強く跳ねる。


退屈だった世界に、突然、鮮やかな色が差し込まれたようだった。


少女は、俺の傷口を見つめ、申し訳なさそうに眉を寄せた。


「流れ矢に当たったの? ごめんなさい。お兄様達ったら……」


「……お前は?」


「マリアよ」


穏やかな声が、森に溶ける。


「マリア……?」


俺が名を呟くと、彼女は ふわりと微笑んだ。



---


王城の夜は静かだ。


人気のない回廊を抜け、俺は窓辺に降り立つ。

これでもう何度目だろうか。


「……今夜も来たのね」


月明かりに照らされた金の髪が、そよ風に揺れる。

マリアは窓の外を眺めながら、俺の気配に気づいていたらしい。


「お前が待ってる気がしたからな」


冗談めかして言うと、彼女はくすっと微笑んだ。


「どうかしら。私は、待ってなんて――」


言葉とは裏腹に、マリアは俺を見つめたまま、動かない。


俺は、そっと近づき、窓辺に寄りかかる。

月明かりに照らされた彼女の横顔が、妙に綺麗で――思わず手を伸ばした。


「……ルキフェルド?」

彼女が俺の名を呼ぶ。

 

「……」


指先が、金の髪を軽く梳く。


「なんだ?」


「……何でもないわ」


マリアは少しだけ頬を染め、視線をそらす。


この距離なら、彼女の鼓動が微かに聞こえそうだった。


「……お前、部屋に忍び込まれるの、慣れてるのか?」


わざと軽い口調で言うと、マリアがむっと頬を膨らませた。


「慣れてないわよ。こんなふうに、誰かを待つのは……あなたが初めてよ」


「……そうか」


不意に、胸の奥が熱を帯びた。


マリアが俺だけを許している――

そう思った途端、妙な衝動に駆られる。


俺は、彼女の手をそっと握った。


「……マリア」


「なぁに?」


「……お前は、本当にいいのか?」


ふざけるつもりだった言葉が、思った以上に真剣になった。


マリアは、微かに息を呑む。


「……何が?」


「こんな時間に、男と二人きりで。しかも魔族の俺と」


「……あなたとだから、いいのよ」

囁くような声。

俺の心臓が、僅かに跳ねる。

「……そっか」


ふと、マリアがそっと俺の手を握り返した。

俺は少し驚いたが、彼女はただ静かに俺を見つめている。

「あなたといると、不思議なの。……どこにいても、ここが私の居場所だって思える」

「……」

こんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。

その言葉が、やけに心に刺さる。

 


ただ、マリアの手の温もりを感じながら、静かな夜の風に吹かれていた。


――――

ルーヘルム王国の御前試合。  

優勝者には「何でも望むもの」が与えられる。


会場に立った俺の姿を見て、観客や王侯貴族たちが驚きと畏怖の混じった声をあげている。


だが、そんなことはどうでもいい。


俺は、一人の剣士として参戦した。

魔力は一切使わず、剣一本のみで戦う。


ただ、彼女を手に入れるために。


結果は――圧勝。

誰一人として、俺に敵う者はいなかった。


ふと観客席を見やると、マリアが唇を結び、そっと両手を胸元で重ねているのが見えた。

誰にも気づかれぬように、ただ静かに祈るように。


優勝の瞬間、俺は堂々と言った。


「マリア王女を、俺の妻として迎えたい」


俺の宣言に、会場が静まり返る。

マリアはわずかに目を潤ませ、俺を見つめていた。


だが――


「魔族に娘をやるつもりはない」


ルーヘルム王の言葉とともに、空気が震えた。

次の瞬間、強烈な拒絶の気配が大気を満たし、俺の足が止まる。


(……結界か?)


魔族の侵入を阻む"退魔の結界"。

力の強い魔族ほど弾かれ、王の領域には踏み込めない――そういう術式だ。


「チッ……!」


力を込めて前に進もうとするが、見えない壁に押し返される。

まるで、マリアがすぐそこにいるのに、決して触れられないかのように。


(冗談じゃねぇ……!)


拳を握りしめる。

俺は、何もできないのか?

たかが「人間の結界」に縛られるだけの存在なのか?


ならば――

「奪うまでだ」

低く呟く。


この屈辱を晴らすには、一つしかない。

もっと強くなる。それだけだ。



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