第20話∶金色の瞳の誓約
闇の中に、光が揺れていた。
燭台の炎が、ぼんやりとした輪郭を描く。
天蓋から垂れる薄布が、月光を透かしている。
風がかすかに流れ込み、静かな部屋に穏やかな波紋を生んでいた。
——俺は、そこにいた。
……いや、違う。これは"俺"じゃない。
横たわるのは、銀髪の男——シグル。
その名が、脳裏に浮かぶ。
なぜか分からないが、それが正しいと理解できた。
シグルはゆっくりと息を吐く。
全身の力が抜けていく。まるで、燃え尽きた灯火のように——
(……こいつは、死ぬんだ)
それだけは、確信できた。
「……ふっ」
疲れたようにシグルが目を細める。
(なぜ、俺はこの情景を知っている……?)
疑問が浮かぶ。
だが、夢は容赦なく続いていく——。
---
「……レギオン」
ふと、シグルが誰かの名を呼ぶ。
直後——影が揺れた。
寝台の傍らに、黒いシルエット。
金色の瞳が、静かにこちらを見下ろしている。
「ここにいる」
低く、深い声。
まるで魂に直接響くような、そんな響きだった。
(……龍?)
いや、違う。
これは——龍王だ。
「お前、ずっとそこにいたのか?」
「当然だ」
レギオンの声には、迷いがない。
「お前が逝く時、私は傍にいると決めていた」
——なぜか、胸がざわつく。
何かを思い出しそうで、思い出せない。
記憶の奥底に埋もれた"何か"が、必死に這い出ようとしているような——
「……大袈裟なやつめ」
シグルが、かすかに笑った。
「そうまでして、俺の死を見届けたいか?」
「当然だ」
レギオンは即答する。
(……なんだ、このやり取りは?)
シグルとレギオン。
この二人の関係は何だ?
契約者? それとも、もっと別の何か?
——なぜ、俺はこの会話を知っている?
---
「お前の魂が、どこに転生しようとも——」
レギオンが、静かに言葉を紡ぐ。
「私は必ず、お前を見つけ出す」
——背筋が凍った。
(……何を言っている?)
「そのときは、再び私と契約してくれ」
誓いのように。
それが"絶対"であるかのように。
レギオンの金色の瞳が、シグルを射抜いている。
(……違う)
その視線は——
"俺"に向けられているのか?
---
「……お前なぁ」
シグルが、小さく息を吐く。
「俺が死ぬってのに、そんなこと考えてたのか?」
「そうだ」
即答。
シグルは思わず吹き出す。
「ははっ……お前は本当に……」
その笑い声が、どこか懐かしく感じる。
まるで、自分もそれを知っているかのように——。
---
シグルは、ぼんやりと天井を見つめた。
「……俺を見つけられたらな」
不意に呟く。
「お前の好きにしろよ」
その瞬間。
レギオンの瞳が、一瞬だけ揺れた。
「……約束だぞ」
低く、それでいて揺るぎない声。
(……これは、夢のはずなのに)
なのに、痛いほどリアルだ。
---
次の瞬間——
レギオンが、シグルの手を取った。
指先が重なり、金色の光が揺れる。
ふわりと、紋様が浮かび上がる。
まるで、魂そのものに刻み込まれるように——。
---
「……ちっ」
シグルが舌打ちする。
「だからお前は執着がすぎるんだっての」
「これで、お前の魂を見つけられる」
レギオンは静かに告げた。
「私が約束を破ることはない」
「……まったく」
シグルは苦笑する。
「じゃあ、せいぜい頑張るんだな」
「当然だ」
そう言ったレギオンの瞳には、微かな安堵があった。
---
——視界がぼやける。
光が滲む。
風が静かに吹き抜ける。
何かが、俺の中で"崩れた"。
「……必ず見つけ出す」
静かで、けれど絶対的な声。
「お前がどこにいようと」
金色の瞳が俺を見つめる。
(……誰だ?)
「だから、待っていろ。シグルーー」
その名前が呼ばれた瞬間——
---
「っ……!!」
俺は飛び起きた。
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