第18話∶最強の叔父 vs 炎の剣、勝ち目ゼロの戦い
ルーベンスは微動だにせず、ただ冷ややかに俺を見ていた。
「……気に入らないか?」
低く、静かな声。
だが、その声には確かな重みがあった。
「帝国の紋章をつけた私の姿が」
俺は息を呑む。
だが、言葉が出ない。
「貴様はまだ理解していないのだろうな」
ルーベンスはゆっくりと剣を構えた。
まるで、それが当然であるかのように。
「お前の存在が、もはや不要なのだということを」
まるで首筋に刃を当てられたような感覚が走る。
「……叔父上、あんたは"俺からすべてを奪った"という自覚はあるのか?」
俺の声はかすれていた。
ルーベンスは微笑んだ。だが、それは温かさのない、氷のような笑みだった。
「ああ、当然だとも。だからこそ……お前は"不要"なのだ」
──次の瞬間、視界が一閃した。
──ギィンッ!!
閃光のような一撃が、俺の目の前に突き刺さる。
「っ……!」
反射的に魔力を展開し、無詠唱で炎の壁を作り出す。
瞬間、凄まじい衝撃が全身を貫いた。
(な、なんだこの重さ……!?)
防ぎきったはずなのに、腕が痺れる。
盾ごと吹き飛ばされそうになるのを、なんとか踏みとどまる。
だが、ルーベンスは微動だにしない。
まるで「当然の結果」と言わんばかりに、冷えた瞳で俺を見下ろしていた。
「ほぅ……本能だけで防ぐか」
低く、嘲るような声。
憎々しげに目を細めながら、唇がゆっくりと動く。
「エルヴァントの至宝……」
その言葉に、背筋が凍る。
「おまえのそういうところが……昔から気に食わなかったのだがな」
──ズバッ!!
次の瞬間、ルーベンスの姿が一瞬にして霞む。
(消え──!?)
気づいた時には、目の前にいた。
「チッ──!!」
ヒュッ!
閃光のような剣閃が俺の視界を切り裂く。
(はやいッ!!)
背筋に悪寒が走る。
思考よりも先に身体が動いた。
俺は咄嗟に後ろへ仰け反り、白刃を 髪の先ギリギリで かわす。
だが、頬に熱い痛みが走った。
(今の……避けたはずなのに!?)
恐る恐る触れると、頬から 一筋の血が滲んでいた。
心臓が爆発しそうなほどに脈打つ。
息が詰まる。
このままでは──殺される!!
「クソが……!」
頭を振り、無理やり思考を整える。
動揺している場合じゃない。
(大人しく殺されてたまるか!!)
俺は腰の剣を抜き、 炎の魔力を纏わせる。
剣が瞬く間に燃え上がり、灼熱の刃となった。
「──燃え尽きろ!!」
一気に踏み込む。
振り抜いた剣が空気を灼くほどの熱を帯びながら、ルーベンスを貫かんとする。
しかし──
「無駄だ」
ルーベンスは微動だにせず、ただ一振り。
キィンッ──!!
たった一撃で、俺の炎の斬撃が 掻き消された。
「……ッ!?」
信じられない。
俺の炎が、まるで何事もなかったかのように霧散した。
「その程度か?」
ルーベンスは冷たく言い放つ。
「ならば、終わりにしよう」
──瞬間、ルーベンスが再び姿を消した。
(ッ──どこだ!?)
反射的に振り返った、その刹那。
「甘い」
凍てつく声とともに、俺の腹部に衝撃が走った。
「ぐはっ……!」
地面に叩きつけられる。
肺から空気が絞り出され、まともに息ができない。
(クソ……、負け……る……!?)
──いや、違う。まだ終わってない。
俺は 無意識に、剣を逆手に握った。
(……? なんだ、この感覚は)
違和感があった。
これは俺の剣の握りじゃない。
だが──"馴染む"。
(……昔も、こうやって……)
ルーベンスが トドメを刺そうと剣を振り下ろした、その瞬間──
「……ッ!!」
本能のままに、全力で振り上げた剣が、ルーベンスの 左肩をかすめた。
──ジュッ……
焦げた布の匂いが鼻を突く。
(……!?)
ルーベンスの表情が、わずかに変わった。
驚愕ではない。だが 「僅かに興味を持った」 かのような、冷たい目線。
「……ほう」
彼は、ゆっくりと視線を俺に落とした。
「やるじゃないか」
俺の意識が、そこで途切れた。
◆
──長かった。
この瞬間を、どれほど待ち望んだことか。
意識を失ったキースクリフを見下ろしながら、ルーベンスは静かに息を吐いた。
血を流し、地に伏したまま動かない。
だが、確かに息はある。
(……まあ、いい。まだ芽のうちに摘める。)
あと数年……いや一年も経てば、こう簡単にはいかなくなるだろう。
今この場で終わらせる。それで十分だ。
ルーベンスは 剣をゆっくりと持ち上げる。
高く、確実に。
今度こそ、その息の根を止めるために。
「……やっと、おまえを殺せるぞ、キースクリフ」
ゆっくりと、迷いなく振り下ろす──
──バサッ! バサバサバサッ!!!
突如、上空から影が急降下してきた。
「──!」
ルーベンスの瞳が僅かに揺れる。
「キース!!」
鋭い声と共に、 "それ" が 一直線にルーベンスの目を狙って 飛び込んでくる。
(なに……!?)
とっさに刃を引き戻し、剣を横に払う。
キィンッ──!!
鈍い衝撃とともに、飛来した影が空中で跳ねるように身を翻す。
「まさか……」
ルーベンスの目が 大きく見開かれる。
「……レギオンか?」
白銀の翼が、暗闇に輝くように揺れた。
──契約は、未完成だ。
レギオンを見てルーベンスは確信する。
小さい。
力が足りぬ。
つまり、こやつは キースクリフとの契約を完全には結べていない。
(そうか……未熟な主には、未熟な竜か)
右手をかざす。
瞬間──黒い魔法陣が、レギオンの周りに展開された。
バチバチバチッ……!
漆黒の鎖が奔る。
影が蠢き、 レギオンの羽根を絡め取る。
「ギャアッ……!!」
小さき竜が 苦しげに羽ばたくが、無駄だ。
魔力の差は 絶対。
「……"偽りの契約" など、王の証に値しない」
ルーベンスは冷酷に告げる。
「破棄してやる。真の王に仕えよ、レギオン」
その双眸には 支配者の光 が宿っていた。
──さあ、片をつけよう。
キースクリフ。
今度こそ貴様を殺す。
その無防備な体に剣を振り下ろす。
刃が、血に染まるはずだった。
が。
──ぴたり。
刃が止まる。
(……?)
何だ?
視線を移す。
"何か" が、こちらへと歩いてくる。
──ゴォ……ッ
風が、巻き上がる。
まるで 大気そのものが、"何か" に警戒しているかのように。
ザッ……ザッ……
だが、その足音は異様だった。
軽い。無駄がない。
戦場を知る者の、それだった。
男だ。
腰に剣を差しただけの軽装。
だが、雰囲気は違う。
右目の上を額から頬にかけて真一文字に走る傷跡。
若いな…… いや。違う。
見た目だけなら、せいぜい三十路前後といったところか。
だが、そこにある 魔力の密度。殺気の質。歩く所作。
(……こやつ、見た目とは違うな)
長く生きた者特有の 「重み」 がある。
そして何より──
(この気配……まさか……)
ルーベンスは 目を細め、問いを発する。
「おまえ……龍族か?」
"龍" の一語が、静寂の中に響き渡った。
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