第15話∶避雷針無双~帝国兵に落雷したら面白すぎた件
夜の闇に沈んだ渓谷を吹き抜ける風が、雨の匂いを運んでくる。
「あのヴェルフェンの王子様の身代金、どれぐらいになるか賭けようぜ?」
「いやいや、首だけ送りつけるのも面白ぇんじゃねぇか?」
崖上から帝国兵たちの野営地を見下ろす。奴らの下品な笑い声が響き、その中心には縄で縛られた男──あれがリカルドか。
せっかく手に入れた『龍の血』は、既に奪われたらしい。
唇を噛み締める。屈辱に震えているのが遠目にも分かる。
(あんな連中に捕まれば当然か……)
隣でローブ姿のレオンが夜空を見上げた。
「キース、一雨きそうだぞ」
ちらちらと稲光が雲間を走る。
「ああ、これなら試せそうだ」
口元を緩ませ、改めて作戦を整理した。 この地形、この気候、帝国軍の位置──条件は揃っている。
前世の俺は雷が怖かった。
小さな部屋の隅で膝を抱え、閃光と轟音に震えていた。
だが、ある日の授業で教師がさらりと言った言葉が、俺の世界を変えた。
『避雷針というのは、雷を誘導し、安全な場所へ逃がす道具だ』
その言葉が俺の中で響いている。
雷はもう恐怖じゃない。 ──俺の武器になる。
「おい、お前、悪い顔してるけど何する気だ?」
レオンが楽しげに覗き込む。俺は不敵に返した。
「つけあがった帝国軍に、文字通り雷を落とす」
「雷を?」
「ああ、雨雲が厚ければ、雷は狙って落とせる」
レオンは目を丸くし、やがて面白そうに笑った。
「マジかよ、お前が言うと説得力あるな!」
「ああ、見てろよ」
レオンと別れ、俺は崖を降りフードを被って帝国兵に紛れた。 雨音に胸の鼓動が速まる。
(冷静に、慎重に……)
リカルドの前に歩み寄ると、彼は警戒し身を固めた。 怒りのこもった鋭い視線。
「シッ。リカルドだろ?」
落ち着いた声で問いかけると、彼は不思議そうに俺を見つめた。 帝国兵ではないと気付いたようだ。
すぐ縄に触れ、魔力を流し込む。拘束が解け落ちた。
「なっ……」
彼は驚きと戸惑いの目で俺を見つめる。 とりあえず敵ではないと分かったようだ。
背後で兵士が騒ぎ始める。ちっ、もう気付かれたか。
「説明はあとだ」
リカルドの腕を掴み、振り返る。
「死にたくない奴は、今すぐ逃げろよ!」
「貴様、ヴェルフェンの護衛か!」
俺は答えず空に手を掲げた。魔法陣が展開し、一本の黄金の杖が浮かび上がる。
「何だあれは!?」
俺は口の端を上げた。
「雷は高いところに落ちる性質がある。あの杖は魔力を帯びた金属で、雷を引き寄せる仕掛けだ」
雲の切れ間から稲妻が走り、杖を目掛け落ちた。
──ズドォォン!! 渓谷が轟音に包まれる。
「ぎゃあああ!!」 兵士たちが逃げ惑う。
リカルドを庇いながら、俺は呟いた。
「避雷針スゲーな」
―――
土砂降りの雨が渓谷を叩く中、レオンは帝国兵の野営地入口に立った。
「ったく、キースのやつ、本当にうまくいくんだろうな?」
指を弾けば足元に魔法陣が淡く浮かぶ。 保護結界だ。
「雷が落ちるから結界はっとけ、水溜まりにも注意しろって……感電って、なんだよ」
キースの言葉を反芻しながら、帝国兵の様子を眺める。
帝国の連中は、足元の水溜まりも気にせず火を囲んでいた。
その瞬間──
眩しい閃光が渓谷を包む。 間髪入れず、轟音。
「うおっ、本当に落としやがった……!」
驚愕と興奮が混じる。
帝国兵たちは混乱し、慌てふためいている。
「おっと、こっちも始めねぇとな」
口角を吊り上げ、指を構える。
──大量の水を瞬時に高温にして霧を発生させる。
信じがたいが、ここまで来たらやるしかない。
水溜まりに意識を集中し、無詠唱で魔力を放つ。 白い霧が吹き上がる。
帝国兵たちがさらなる混乱に陥る。
「よし……次はこれを爆発させろ、だっけ?」
キースの「お前にしかできない攻撃だ」という台詞を思い出す。
(まったく、そんなことお前に言われたくねぇけどな!)
指を突きつけ、魔力を集中。 指先の炎を放つ。
その瞬間──
轟音とともに視界が白い爆風に覆われ、渓谷全体が震えた。
帝国兵たちの悲鳴と怒号が響く中、口元が緩む。
「ああ、最高に気分がいいぜ! 感謝しろよ、帝国の馬鹿ども」
―――
閃光と落雷に続く轟音に、渓谷から少し離れた森の入り口にいるディアナは息を飲む。
(あの二人……本当にすごいわ)
それに比べてゼファルドは。
「俺は基本傍観だ。若者共で頑張れ。お姫さんは俺から離れるなよ」
木陰でうたた寝している。 ディアナは頬を膨らませた。
(私だって戦えるのに……!)
その刹那、背筋が凍るような殺気が背後から放たれる。
「っ!」
反射的に振り返ると、木立の奥から帝国兵の鎧を纏った男が現れる。 手には白銀の抜き身の剣。
男はディアナの顔を認め、冷酷な笑みを浮かべた。
「女か……これはまた、良いものを見つけたな」
刹那、男の剣が月光を浴びて鈍く煌めいた。
読んでいただきありがとうございます!
面白かったら ブクマ&感想 をもらえると
とても励みになります!




