第14話∶帝国が襲った理由が龍の血? だったら俺がぶっ潰してやる
「……龍の血だと? そんなもののために?」
俺は思わず呟いていた。
離宮の執務室に緊張が走る。
帝国軍がナディアの弟、リカルドを襲った理由を聞き、俺の中で小さく怒りが膨らんでいった。
セツが戸惑った顔で言葉を継ぐ。
「はい。不老不死の龍の血……それをリカルド様が手に入れたとの情報が帝国に漏れまして……。
帝国は交渉を持ちかけましたが、リカルド様は断りました。その結果、帝国は強行策を選び、キャラバンを襲撃したのです」
俺は肩のレギオンが小刻みに震えているのに気づき、そっと手を伸ばして小さな背中を撫でた。
「大丈夫か、レギオン?」
「きゅ……」
いつもはのんきなこいつの瞳が、今はどこか悲しげに見えた。やっぱり『龍の血』という話題に、こいつも不安を感じているのだろう。
「心配するな。俺が必ず守る……龍を道具みたいに扱う連中は許せねぇ」
レギオンはふっと俺の顔を見上げ、安心したように小さく鳴いた。
(だから龍族は乱獲されて数が減ったわけか。吐き気がするぜ)
セツはさらに言葉を続けた。
「リカルド様は、今回の取引で偶然手に入れた龍の血を、ヴェルフェンの王位継承の足がかりにしたいお考えでした。ヴェルフェンは実力主義。
自身の価値を示すために、これほどの希少品を手放すことはなさらなかったのです」
ナディアは唇を噛んでいた。
「だからって……弟を、あの子を帝国に殺させるわけにはいかない」
レオンがリカルドからの手紙をセツに返し、こめかみを強く押さえながら苛立ったように吐き捨てる。
「めんどくせぇな、帝国め……。
これ、絶対俺に救援軍の指揮が回ってくるヤツだろ?」
俺は苦笑しそうになる。だが――
控えの間から現れた王宮の使者は、俺の目の前に立ち頭を垂れた。
「キース様。陛下がお呼びです」
「……俺を?」
◆
王宮の執務室。王は机の上で指を組み、俺を見据えた。
「帝国の横暴が目に余るのでな。そなたが帝国と戦う気なら、兵を預けても良いが?」
「いえ……兵はいりません」
俺は首を振った。
意外そうに眉を上げる王に、俺はゆっくりと言葉を続ける。
「その代わり、ゼファルドを貸して頂きたい」
ゼファルドは傍らで愉快そうに笑い、迷いなく頷いた。
「いいぜ。面白そうだしな」
◆
離宮へ戻ると、早速ディアナが勢いよく駆けてきて詰め寄ってくる。
「私も一緒に行くわ!」
「お前なぁ……王になんて説明するつもりだ?」
苦笑するゼファルドに、ディアナは不敵な笑みを浮かべた。
「なら、言わなきゃいいのよ!」
――こいつ、やっぱり無茶苦茶だ。
俺がため息をつく間もなく、今度は向こうからレオンが歩いてくるのが見えた。その琥珀色の瞳はいつもの気だるげなものではなく、鋭く真剣な光を帯びている。
「キース、お前が行くなら俺も行くぞ」
「レオン……お前、こういうの嫌だったんじゃないのか?」
俺の問いに、レオンは軽く肩をすくめた。
「嫌に決まってるだろ。だがな――」
腹立たしげに続ける。
「龍の血やら不老不死やら、くだらねぇ話で動き回る帝国の連中には、そろそろ痛い目見てもらわねぇとな。
ことごとく俺の自由を邪魔しやがって……」
そこで不敵な笑みを口元に浮かべ、レオンは琥珀色の瞳を冷たく細める。
「そろそろツケを払ってもらおうじゃないか……俺を敵に回したことを後悔させてやる」
皮肉げに笑うレオンに、俺もまた小さく笑った。
「そうか、なら決まりだ」
俺は肩のレギオンを撫でながら皆を見回した。
「じゃ、みんなで助けに行こう」
全員が頷いた。ゼファルドは肩を鳴らし、ディアナは拳をぎゅっと握る。レオンは腕を組み、目を細める。
そんな中、レギオンがふわりと俺の肩から降り立ち、皆を見上げるようにして告げた。
「キース、みんな……やる?」
「ああ、やるぞ。帝国には龍の血も、ナディアの弟も、絶対に渡さねぇ」
◆
同じ頃、国境沿いの渓谷の谷底――
岩陰から息を潜めてリカルドは外を覗く。
帝国兵が冷たい鋼の鎧を鳴らしながら、少しずつ彼の潜む岩場に近づいてきている。
「おい、この辺りに隠れているはずだ! 徹底的に探せ!」
帝国の将校の冷たい声が響き、リカルドの心臓が激しく高鳴った。
(くそ……もう少し遠くまで逃げられれば良かったのに!)
慌てて周囲を見回すが、この狭い裂け目にこれ以上逃げ場はない。
リカルドは冷静に拳を握り、呼吸を整えた。
(絶対に死んでたまるか……姉さん、早く来てくれ!)
リカルドは冷静に頭を回転させる。
「龍の血さえ守れれば、まだ巻き返せる……」
◆
その頃、谷の頂き――
吹き抜ける風が、一人の男の美しい銀髪を揺らした。
帝国軍の将軍、ルーベンスは渓谷の岩の上に座り、ヴェルフェンの王子が逃げ込んだ谷底の裂目を冷ややかに見下ろしている。
その青く冷たい瞳は、逃げ惑う鼠を狙う鷹のように鋭かった。
「ルーベンス様、王子が谷底に逃げ込んだとの報告です。いかがいたしますか?」
傍らに控えていた副官が丁重に尋ねる。ルーベンスは軽く目を細めて、退屈そうに告げた。
「この程度のこと、いちいち私に報告するな。鼠一匹捕まえるのに手こずるなよ。早く済ませろ」
「はっ、直ちに!」
慌てて敬礼し去っていく副官の背中を冷ややかに見送り、ルーベンスは薄く笑った。
「まあ、せいぜい踊って楽しませてくれ、ヴェルフェンの王子とやら」
誰に言うでもなく呟く。
(……龍の血なぞ飲んでも不死にはなれんというのに)
帝国の連中は、そんなものを必死になって手に入れようとしている。
(無知とは滑稽なものだ。本当の不老不死の力は――龍王レギオン……あの龍と契約する者だけが手にできるというのに……)
ルーベンスの冷たい笑みが、風に溶けて消えた――。
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