第13話∶俺、女の戦いに巻き込まれたと思ったら、もっとヤバいことになった
「本当にこの子が、あの伝説の龍王レギオンなの!? すごいわ!」
ナディアが興奮気味に叫び、俺の肩にちょこんと乗ったレギオンを見つめる。
「んー、そうらしいな。
まあ、俺も龍は珍しいって聞いたことはあるけど……」
エルヴァントは、建国以来「龍王レギオン」に守られてきた国だ。だが、実のところ俺自身も龍を見るのはこのチビレギオンが初めてだった。
昔は各地で龍族を見かけることもあったらしいが、今ではすっかり姿を消し、伝説となっている。
◆
場所は離宮から少し離れた森の中。
陽だまりの中に広がる花畑に、俺とナディアは腰を下ろしていた。
ナディアはすっかり元気を取り戻し、最近は暇さえあれば俺に質問を浴びせかけてくる。
「だって、キースと話してると、商売のアイディアがこう、どんどん湧いてくるのよ!」
ナディアは瞳を輝かせながら、手をぱっと広げた。
「例えばね、水を煮沸?えっと、火で一度煮立たせると安全な水になるとか? それ、絶対売れると思うの!」
「お前、本当にたくましいよな……」
可愛らしい見た目とは裏腹に、ナディアの商魂は逞しい。
どうやら 「養蜂」 も商売にしたいようで、適した場所を探す俺に「一緒に行く!」とついてきたのだった。
そんなナディアが、ふと真剣な顔になる。
「ねえ、キース。龍族の血ってさ、飲むと本当に不老不死になると思う?」
「……今、なんて?」
思わず、聞き返す。
ナディアは花畑を見つめながら続けた。
「伝説があるのよ。龍族の血を飲めば、不老不死になれるってね……。でも、それが原因で、龍族は人間に乱獲されて、数が激減したんだって」
「そんなことが……?」
俺が驚いていると、肩の上でレギオンが小さく震えた。
「きゅ……」
レギオンの鳴き声は、どこか怯えたようにも聞こえた。
(もしかして、こいつ……その伝説について、何か知ってるのか?)
何か言おうと口を開いた、その時だった。
「見つけたわよ、ナディア!!」
怒気をはらんだ声が響き、振り返ると ディアナ がこちらに向かってきていた。
◆
ナディアが少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑み、口を開く。
「あら、これは……ディアナ様でしたっけ? 私に何かご用かしら?」
「なんであんたがずーーっとキースにひっついてるのよ! もうすっかり治ったんでしょ!」
「お、おい、ディアナ。いきなりどうした? 落ち着けって……」
俺が慌てて仲裁に入ろうとするが、ナディアが ずいっ と前に進み出て、ディアナと向かい合う。
その顔から、さっきまでの愛らしい笑顔が消え去っていた。
「黙って聞いてりゃ、あんたこそ一国の姫に対しての敬称はどこへ消えたのかしら?」
バチバチと火花を散らす二人。
(いやいや、なんでこんなことに……?)
俺が呆然としていると、ナディアが 俺の腕に絡みつき、ディアナに向かって言い放つ。
「私はキースが欲しいのよ! 邪魔しないで頂戴!」
「なっ……!!?」
「は?! だからやらねーよ!」
ますます混乱する俺。
その時だった。
ふわりと俺の肩から飛び立ち、地面に降り立ったレギオンが、じっとこちらを見上げる。
「おまえたち……なんとも……ない」
「……は?」
ナディアとディアナが固まった。俺も固まった。
いやいやいや、おかしいだろ。
ついさっきまで 「きゅ?」 とか 「やる」 しか言えなかったコイツが、普通に言葉を話したぞ!?
「おまえたち……なんとも、ない……キース」
「おいおい、レギオン、お前……」
俺が驚いて声をかけると、ナディアとディアナがレギオンに詰め寄った。
「レギオン! もう一回言ってみて!」
「そうよ、詳しく説明しなさい!」
(お前ら、龍を尋問すんなよ……)
レギオンはキョトンとした顔で小さく首をかしげると、
「キース、しらん」
と、可愛らしい声で言った。
「知らないって……え、どういうこと!?」
「きゅ!」
急に初心に戻るな!?
俺がツッコむ暇もなく、今度は ふわりと花が揺れ、誰かがこちらに駆け寄ってくる気配がした。
「ナディア様!! 大変です!!」
慌てた様子で駆け込んできたのは、ナディアの侍従・セツだった。
「セツ? どうしたの?」
ナディアが訝しげに尋ねると、セツは息を切らしながら続けた。
「ナディア様の弟、リカルド様のキャラバンが……ルーヘルムの国境近くで、帝国軍に襲われ、孤立している との報告が入りました!」
「なっ……!!?」
場が一瞬で凍りついた。
ナディアの弟、リカルドのキャラバンが 帝国軍に襲われた!?
「ちょ、ちょっと待って! リカルドのキャラバンには護衛がついていたはずでしょ!? どうしてそんなことに!?」
ナディアが詰め寄ると、セツは悔しそうに唇を噛む。
「……帝国軍は、リカルド様たちを狙い撃ちして襲撃したようです。護衛は応戦しましたが、敵の数が多すぎて……現在、完全に包囲され、救援を求める伝令が来ました!」
「帝国が、ここまで動くなんて……」
ディアナが険しい表情で呟く。
「……つまり、ナディアの弟が、帝国軍に捕まるかもしれないってことか?」
俺が確認すると、ナディアは力強く頷いた。
「リカルドは私の大事な家族よ! 何があっても助け出すわ!!」
「……ったく、やれやれだ」
俺は軽く頭を掻く。
(帝国が動いた時点で、俺はもう無関係ではいられないってことか……)
だが――
「キース」
ふいに、レギオンが俺を見上げた。
「おまえ……やる?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で小さな怒りが灯る。
「……ああ、やるしかねぇだろ」
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