第11話∶王の試練とそれぞれの戦い
※お知らせ
SQEXノベル大賞2エントリーのため、8〜10話を先に読んでいただきたいエピソードとして挿入しました。
既にお読みいただいていた方は、順番が変わっており申し訳ありません。
試練の場。
王がそう口にした瞬間、広間の空気が一変した。
床に展開された巨大な魔法陣は、戦闘による被害を抑えるための結界らしい。
まったく……そんな仰々しい仕掛けを用意してまで、俺を前に出すとは。
「レオン」
王の呼び声に従い、俺はゆっくりと前へ出た。
ため息をひとつ吐き、肩の力を抜く。
(……やれやれ、予想はしてたけどさ)
場を荒立てるつもりはなかった。
適当に流して、さっさと終わらせるつもりだった。
だが──
視線を感じた。
あの少年──ゼファルドの弟子。驚いたような顔で、俺を見ている。
ほんの一瞬、俺の中で何かが揺らいだ。
(……まあ、興味はある)
“エルヴァントの至宝”とまで呼ばれる相手。
その実力、確かめてみるのも悪くない。
どうせ逃げられんのなら、徹底的に付き合ってやろう。
「始め!」
王の声が響いた瞬間、俺は指を弾いた。
詠唱なし。速度重視で放った魔法が、真っ直ぐキースへと向かう。
だが──
まるで風に舞う花びらでも払うように、奴は軽く手を振った。
その瞬間、俺の魔法が霧のように掻き消えた。
(……なるほど)
打ち消したんじゃない。
魔法の構造そのものを、壊してやがる。
扱いが、まるで芸術だ。
ちょっとばかし、ゾクリとした。
次の瞬間、奴が動いた。
光の粒を手元に集め、まるで編み物でもするように魔法を編み上げる。
流れるようなその所作に、思わず目を奪われた。
──ゴッ!
放たれた光の奔流。
美しさと殺気を兼ね備えた一撃が、一直線に俺を狙ってくる。
(やべっ──!)
身をひねって回避。
肩をかすめた魔力が床を焦がした。
すかさず間合いを取る。
(危ねぇ、下手すりゃ喰らってた!)
「チッ……!」
腰の剣を引き抜き、魔力を纏わせて形成する。
だが、その刃さえもキースの魔力がわずかに干渉し、形が歪む。
(……マジかよ。干渉までしてきやがるのか?)
喉が焼けるように渇いていた。
こいつ、ほんとに只者じゃねぇ。
こんな感覚、初めてだった。
「俺も……本気でいくしかねぇな!」
再び指を弾く。
風、雷、炎──怒涛の連続詠唱無し魔法。
だがキースは、まるで俺の手の内を読んでいるかのように躱し、時に打ち消し、時に練り直して返してきやがる。
(なんで……読まれてる?)
(理屈じゃねぇ。あいつ、感覚でやってやがる)
舌打ちしたくもなる。いや、もうしてた。
王族たちのざわめきが耳に入る。
「第二王子が……無詠唱でここまで!?」
「剣の才だけじゃなかったのか……!」
どうでもいい。そんな評価、今は必要ない。
(もっとだ……もっと、全力で来い!)
次の瞬間、キースの魔力が再び迸る。
俺も負けじと踏み込む。
剣と魔法が交差し、火花が散った。
「そこまで!」
王の声が広間に響いたとき、俺の剣先はキースの肩をかすめていた。
あと一歩、踏み込めば──
同時に──
「……!」
俺の胸元には、キースの掌があった。
集まる魔力が空気を震わせる。
撃たれていたら、俺は終わっていた。
互いの動きが止まったまま、視線だけが交わる。
(……マジかよ)
息を吐いて、苦笑が漏れる。
キースも、ほんの少し口元を緩めていた。
「……危なかったな」
「お前こそ、な」
互いに勝利を確信しながら、勝負は引き分け。
妙な話だが、それが一番納得できる結果だった。
王が椅子の肘掛けを軽く叩く。
「二人とも、よく戦った」
広間にはどよめきと熱気が広がっていく。
「王子と、あの少年が……互角……!?」
「神話の戦士が甦ったようだった……」
ざわめきの中、俺はちらりとキースを横目で見る。
(……いや、違う)
何か、引っかかる。
あの魔力の流れ、動き──途中から、わずかに勢いが落ちた気がした。
「……まったく、無駄に手ぇ抜きやがって」
聞こえたのは、ゼファルドの小さな呟き。
振り返ると、口元に苦い笑みを浮かべていた。
「半分も出してねぇな、あいつ」
心臓が一つ、大きく脈打つ。
(……やっぱり)
ただ、目の前の少年が、満足そうに俺を見ていたのが少しだけ気に食わなかった。
(次は、絶対に勝つ)
静かに視線を返しながら、俺は心の中で誓っていた。
***
ディアナに向けられる王族たちの視線は、畏怖と蔑みが入り混じった冷たいものだった。
幼い頃から耐えてきた眼差し──魔族の血を引く異端の王女。
(でも、私はもう……怯えない)
一歩、前へ出る。
「帝国の脅威がルーヘルムにも迫っています」
ざわめく王族たち。
だが、ディアナは揺るがない。
「王よ、私は宮廷魔導師として、この国に仕えたいのです」
王は静かに見つめる。
(……母に似ている。いや──違う)
妹は愛のため、すべてを捨てた。
だが、この娘は──
「なぜだ」
「え?」
「なぜ、ルーヘルムを捨てぬ?」
(捨てない、じゃない。捨てたくない。
私は、この国を守りたい)
王の目が何かを確かめるように彼女を見つめていた。
「ゼファルド」
「はい」
「……王女を預かれるのか?」
「もう弟子になってますけどね」
短くため息をつき、王は言う。
「好きにするがいい」
ディアナは息を呑んだ。
それだけの言葉──でも、ずっと、欲しかった。
込み上げるものを飲み込み、彼女は静かに頭を下げた。
ふと横を見ると、キースがにっこり笑っていた。
「よかったな」
その声が、やけにあたたかく響いた。
***
その夜、王の私室にて。
「……陛下」
「王女を認められたのですね?」
王はグラスを傾けた手を止め、静かに言う。
「……あれは、母とは違うかもしれん」
琥珀色の酒がゆらりと揺れた。
外では風が唸っていた。
ふと、記憶が蘇る。
──あの夜、妹は言った。
『私の選んだ道を、お兄様はきっと許さないでしょう』
私は何も言えなかった。
言葉をかける資格がなかったのかもしれない。
(……妹よ。お前なら、どうした?)
王は目を閉じ、深く息を吐いた。
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