あたしが可愛いと言えば可愛いのだ
鈴空の鈴理視点/恋人同士の頃
自分で言うのもなんだが、あたしの容姿は男に声を掛けられやすい。
黙っておけば淑やかな女に見られがちなのか、ナンパというものもよくされる。
口を開けば、引かれることもあるが、その前にナンパ男などあたしの鉄槌で散らすのだがな。
ナンパなんて、まずされて誰が喜ぼう?
あたしはナンパをしたい人間なんだ! されたい人間ではない! ……ふふん、まあ自分の嗜好が、世間体の女とやや違っていることは否定しないさ。
引かれようが、気色悪いと罵倒されようが、あたしは男のポジションを欲する女だ。ヒロインではなく、ヒーローのように格好いい女になりたい。
守られる女ではなく、守り通す力のある女だと自負したいのだ。
とはいえ、世間では、男がリードすることが常識とされるがゆえに、あたしの持論は異端とされるのだが。
「ねえ、俺達と遊ばない?」
……さてと、そろそろシカトを続けている男どもの相手をしなければならない、か。
空と放課後の公園デートをしている真っ最中。
あいつが手洗いに行くその隙を見て現れた、いかにも下心あります、という顔で声を掛けてくる二人の大学生であろう男に吐息を零す。
高校生に手を出す男とは如何なものか。いや、あたしに手を出されたい男だとしたら、む、少々この考え方を甘く見てやらんでもないが。
ベンチに深く腰掛け、ガン無視して思考を回していると、ひとりの男が馴れ馴れしくあたしの肩に手を置いてきた。
振り払う前に、もうひとりの男がこのようなことを言ってくる。
「さっきの男、君の彼氏? 全然イカしていないじゃないか。公園でデートとか、俺達ならカラオケとか、ゲーセンとか、もっと盛り上がれる場所で」
「ほう、今の言葉、もう一度言ってみろ」
「だから、俺達ならもっと盛り上がれる場所」
次の瞬間、あたしの拳が男の腹部に入り、更に驚愕するベタベタ触れてくる男に回し蹴りをして制裁を下す。これは正当防衛だ。
手を叩き、ばあやのお松を呼んで男達を公園の外まで一掃してもらう。
なあにがイカしていない、だ。
今日のデートはな、今日のデートはな、空が一生懸命に考えてくれたデートなんだぞ!
あいつはあたしに金うんぬんの気を遣わせないよう、だが少しでも楽しんでもらおうと近所を散歩し、あたしに庶民の世界を教えてくれているのだ!
空の家事情はあたしだけが知っている。
何も知らない奴が空の悪口を叩くなど言語道断。
あいつはあたしの所有物、良し悪し関係なく、あいつのことを軽々しく評価していいのはあたしだけなのだ。
「先輩、お待たせしました。見て下さいよ、そこの自販機に俺の好きなイチゴミルクオレがあったから、つい買ってきちゃいました」
ナンパされていることなど露知らず、空は自分の大好物であるイチゴミルクオレのパックを二つ手に持ってベンチに戻って来る。
馬鹿者め。あたしは知っているのだぞ。トイレに行ったついでに、あたしのために何かしようと飲み物を買って来ていたことは。
まったく、小銭を出すのも苦しいだろうに空ときたら。
あたしは体で払ってもらえれば、それで良いというのに。いつになったら食わせてくれるんだ。
「はいこれ」
締まりのない顔で差し出してくる草食男子を見上げ、先程のナンパ男達と比較してみる。
確かにイカした男でもないし、カッコイイ男でも、イケメンでもない。
しかし、愛嬌のある笑みはついついついつい押し倒したくなる。ナンパ男どもなど足元にも及ばない。
「先輩?」
いつまで経っても受け取らないあたしに、空の首が傾げる。
「戻って来る礼儀の挨拶は、キスと決まっているのだよ」
「な、なんっすかそれ」
「このあたしを待たせたのだから、」
戸惑う彼の両頬を包み、「それくらいは当然だろう」屈んでいる空の顔を引き寄せて強引に唇を奪う。
言葉にならない悲鳴を上げる相手の顔は、真っ赤っか。首まで赤い。
「こ、こんなところでしなくとも。む、向こうには親子連れがいるんっすよ! もしも、み、見られていたら」
「む。これを見た子供達は将来、立派な攻め女。受け男になるだろうな」
「そういう意味じゃなくってっ」
「なにを恥ずかしがっている。二人きりになれば、もっと恥ずかしいことをするのに「シャラァアアプ!」
「先輩がエスい」その場にしゃがんで身悶える空は本当に可愛い。なんで、そんなにも可愛いんだ。
恋をしているからだろうな、あんたがそんなにも可愛く見えるのは。
「空、期待していろ。二人きりになったら、もっとキスをしたい。あんたともっと触れたい。デートなんだ、それくらいの欲を口にしても許されるだろう?」
口をへの字に曲げ、それでもあたしを想ってくれる草食くんは一言。
「許されます」
蚊の鳴くような声で返事した。
欲の度合いは違えど、触れあいたい気持ちは一緒、そう思ってもいいよな。空。
照れに照れて顔を始終紅くしている空と、公園でまったり過ごし、その足で空の住むアパートに向かう。
道中で、先程のナンパ男どもが屍になっていた。
空は喧嘩だろうかと憂慮を向けていたが、あたしはハメを外したのだろうと答えた。ナンパのことを空に伝えるつもりはない。言ったところで不快になるだけだろうし、あたしも不快だ。
何度も言うが、あたしは男ポジションに憧れる女。ナンパはしたい側だ!
ついでにナンパされた女は助けたい彼氏をやってみたい!
だから。
「ねえ、そこの君。ちょっとそこの喫茶店で」
「ええい、空にナンパするな不届き者め! 空にナンパしていいのはあたしだけだ!」
「え゛、いや彼じゃなくって君へぶっ!」
顔面に拳を入れられた男は、ふらっと前方に倒れてしまう。
「せ、先輩」
今のはあたしに対するナンパなのでは?
空の問いは正論だが、あたしの理想の展開ではない。勿論、彼氏の言葉は否定する。
「いいか空。もっと警戒心を持っておかないとダメではないか。あたしがいなければ、今頃喫茶店でお茶をした後、やーんなホテルに連れ込まれていた筈だ!」
「いやいやいやいや、ナンパした相手は男。俺も男。今のはどう見ても先輩のナンパじゃないっすか!」
「ええい煩いぞ空。あんたはあたしの彼女なのだから、ナンパされたのは空なのだ! 空と言ったら空なのだ! 助けたのだから、礼を言うのが筋だろう!」
「り、り、理不尽すぎるっす!」
ぶうっと頬を膨らませて、相手をじっとり睨めば、「ああもう」空は観念したように礼を口にした。
それで良いのだ。空はあたしの彼女でヒロインなのだから、こうして守られて欲しい。ま、土壇場になれば言うことを聞かなくなる男だがな。
「まったく、空は美味そうなオーラを出しているからな。ナンパする人間が寄って来るのだ。ちゃんと所有主がいることをアピールしておかなければ」
「もう、ツッコミどころが分からない。俺の気持ちは迷子ですよ……」
がっくし項垂れる空の手を掴み、彼を引きずるように歩く。
やがて歩調を合わせてきた草食くんは、あたしを喜ばせたい一心なのか、柄にもなく手を握りなおして小声で呟いた。
「しっかり握って置いて下さい。俺が何処かに行かないように」
あたしのために、あたしを喜ばせるために、女ポジションに甘んじてくれる空が大好きだと、本当に思う。
いや、はにかむ姿も、隣に並ぶ横顔も、手を握るぬくもりも、全部好きだ。ぜんぶあたしのものだ。
そう、堂々と胸を張れるほど、空が好きだ。大好きだ。
Fin.




