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肉食番外  作者: つゆのあめ/梅野歩
肉食お嬢様②編
19/21

Sleeping Beauty and...and...

Sleeping Beauty and...の対となる小話(玲視点)が出てきたのでアップ。そちらを読んでいなくても大丈夫です。王子は空を虎視眈々と狙っています。


 突然、凄まじい勢いで毛布を剥ぎ取られ、僕は反動と寒気で重たい瞼を持ち上げざるを得ない。

 頭が冴えたのは、隣で寝ていた豊福が荒呼吸で上体を立たせている光景を目にしたと同時だった。


 また、彼は悪夢に魘されていたようだ。


 障子越しの月明りを浴びた彼の横顔は、目を白黒させ、次第に歪んでいく。

 隣に僕が寝ていることすら忘れているのか、片膝を抱いて、それに額を載せた。震えている背中はやけに小さい。


「どうして、俺だけ残されたんだよ。どうして」


 彼の悪夢は、幼少の過去と直結していると本人から聞いたことがある。


 豊福は自責している。

 己が生み両親を殺した原因なのだと。育ての親もいつか殺すのではないか、そう僕に吐露したことがあった。


 考え過ぎといえばそれまで。

 けれど、彼の傷心になるほど、それは酷なものだった。

 目の前で両親が轢き殺される光景を目にしたら、誰でもトラウマになる。僕だってきっと、豊福のようになるに違いない。

 物音を立てないように体を起こし、背後から腕を伸ばす。大袈裟に豊福の体が跳ねた。


 いつもだったら慌てるであろう、右耳に唇を寄せると彼は甘んじて、それを受け止める。


「先輩、俺はどうして残されているんっすかね」


 どうして自分だけ残されてしまったのか、自嘲する豊福は酷く頼りない。

 こうして腕に閉じ込めておかないと、今にも消えてしまいそうだ。そんなわけないのに、そんな錯覚に陥る。


「残された方が残酷なのに、両親は俺を残して逝った。酷い親だと憎みたいのに、それさえできない」


 原因は自分にあると信じて疑わない豊福。

 近年まで忘れていた過去を、彼は繰り返し悪夢として向かい合う。これからも、ずっと。


「両親が残れば、俺が残す方になれば」


 うわ言を呟く彼は、弱さを剥き出しにして僕に心を見せる。

 それだけ気を許してくれている証拠なのだろう。


「豊福、僕は此処にいるよ」


 孤独を抱いている彼に言えば、


「分からない。もっと傍にいてくれないと分からないっすよ」


 貪欲にぬくもりを求めてくる。

 ゆっくりと耳裏を舐める。微かな声を漏らし、体重を僕に掛けた。無防備な姫様だ。喰われるかもしれないのに。

 弱っている今こそ、心身繋がる時かもしれない。


「今日の先輩は控えめですね。攻め方が優しい」


 だけど、心は繋がらない。僕はそれを知っている。

 生意気なことをいう後輩に一笑し、「気遣っているんだよ」わしゃわしゃと頭を撫でてやる。

 力なく笑う豊福が視線を持ち上げた。


「先輩は今、俺の傍にいて幸せっすか?」


 突拍子もないことを言う。

 どうしてそんなことを聞くのか、彼に尋ねれば、質問者は答えた。


「俺は生みの親を殺し、育ての親を苦境の生活に強いたので。俺がいなければ、彼等は生きていたかもしれない。いなければ、もっと裕福な生活をしていたかもしれない。俺は、誰かを不幸にしてばっかりなので」


 今夜の豊福はとんでもないネガティブだ。

 これも悪夢と傷心が彼を弱らせている証拠なのだろう。


「僕は女だったために、両親を泣かせてばかりだった。ジジイは男の後継者を望んでいたのに、生まれたのは女の僕だった。僕も不幸にしてばかりだ」


「そんなこと」


「そう思ってくれるなら、君の御両親もおんなじことを思っているさ。もちろん僕もね。豊福、僕はもう君と出逢う前の僕に戻れないんだよ」


 腕の力を強くして、剥き出しの首筋に唇を押し付ける。


「責任取って傍にいてくれないと困るよ」


 微動する彼の体は思い出したかのように、熱を持ち始める。そういう反応をされると、ぞくっとする。


「冷たい指だね。僕の熱で溶かしてあげる」


 凝り固まった握り拳を解いてやると、長い指が積極的に絡んでくる。



 つい忍び笑い。


 ごめんね、豊福。僕は酷い女王子だ。傷心している君を目にするだけで、心が躍るんだ。

 だって君は僕を頼っている、頼り切っている。元カノじゃない、婚約者の僕なんだ。それがね、嬉しいんだよ。滑稽なことに。


 ねえ豊福、僕は君が思うほど好い女じゃない。

 いつぞや宣告したように、傷心に付け入る隙を窺うオオカミ女だよ。今も、付け入る隙を窺っている。

 繋がるのは何もカラダだけじゃない。ぬくもりを媒体に、こうした優しさで心を繋げることができるんだ。


 誰かのぬくもりを上書きすることさえも。


 僕のような女を腹黒と呼ぶのかもしれないね。


「でも、仕方がないじゃないか。欲しいんだから」


「先輩?」


「いや、なんでもない。独り言だよ」


 なんでもないと繰り返し、姫の顔に頬を寄せる。

 瞼を閉じてぬくもりを感じる彼は、本当に無防備だ。何をしても無抵抗に身を捧げそうなほどおとなしい。

 そんな彼を今、独り占めしているのは僕なんだね。


 ねえ、豊福。




 王子は策士で、自分が性悪だと自覚しています。

 女はどれだけ狡く、妖艶に、男を魅せ、己に落とすかが勝負の決め手かもしれません。

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