そのあたし様、獣につき、充電必須
アウトギリギリの艶めかしい鈴空(になっているか分かりません……)
女は攻めてナンボだと持論を掲げているのは、謂わずもあたし様のこと鈴理先輩だ。雄々しく男を喰らいたい。男を攻めたい。挙句の果てには、男ポジションを分捕りたい。
彼女の夢は常にでっかく物騒だ。
それに巻き込まれた俺のこと豊福空は、晴れて受け男としておんにゃのこな日々を過ごしている。ああ、勿論、ポジション的な意味で。
最初にキスを奪ったのは彼女。
恋愛の妥協(という名の諦め)を教えてくれたのも彼女で、人の性感帯を暴いたのも彼女だ。容赦の欠片もない攻め方に流され、いつの間にか、それを受け入れている俺がいるもんだから、もはや救いがない。本当に救いようがない。
俺はあたし様の強引な駆け引きに負け、気付けば心を奪われてしまったのだから。
「ふむ。空はどれも可愛い。一番を選べと言われたら、うむ……登校姿の空も良いが、寝顔も捨てがたい。食事をしている姿もそそられる。欠伸する姿も良いな。何が良いと問われると、やはり涙目のこの顔が」
「せーんーぱーい。何、本人を前に堂々と隠し撮りの画像を見ているんっすか!」
「馬鹿め。あんたはあたしの所有物だぞ。隠し撮りとは人聞きが悪いな」
俺には人権というものが存在していないのだろうか。
お行儀悪く歩き携帯をしている鈴理先輩に吐息をつくけれど、彼女は悪びれた様子もなく画像を眺めていた。
曰く、貴重な充電なのだと俺にそれを見せつけ、「アンタが早く食わせてくれないからこれで我慢しているのだ!」まんま言いがかりを飛ばしてくる。ひ、酷い! 俺はプラトニックラブを推奨したいだけなのに!
鈴理先輩は本能で生きているところがあるから、それじゃあ満足できないんだろう。俺も理解はしているつもりだ。一応理解は。
だから彼女のために譲歩しているところも沢山ある。それを、何故、彼女は分かってくれないのか!
しかも意味深に充電が切れそうだと言い放ってくるし。なんなのこのあたし様。
「先輩。本人がいるのに充電が切れそうって……」
「本人がいるからこそ充電が切れそうなのだよ。なにせ、我慢を強いられるのだからな。欲を抑えることに力を使い、充電が切れそうになる。分かるか? この意味。
はてさて、最近習い事詰めのせいでろくに空と会話していない気がする。今日、久しぶりに一緒に帰る約束を取り結んだが、二人きりになれるのはこの校舎のみ。迎えの車に乗り込めば、その時間もおじゃんか」
「…………」
「そういえば、もうすぐテスト期間。ああ、また空と共にいる時間が減る。可哀想なあたし。我慢ばかり強いられ、そろそろ限界なのだよ。限界のあまりところかまわず空を押し倒してしまいそうだ!」
それはいつものことだ!
「プラトニックラブに付き合っているのだから、たまにはあたしの要求に付き合っても良いのではないだろうか? いけないか? そう思うのはいけないことだろうか。あたしは好きな男に触れたいと思っているのに、空はそうではないと?!」
健気にアータの我儘に付き合っているのは俺なんですけど! 誰が好き好んで受け男をしていると……ああもう、分かりました、分かりましたよ。
だから大きな声で嘆かないで下さいって。小っ恥ずかしい! そんなに充電切れなんですか?
「先輩、いつ空いていますか? 道端で押し倒されちゃ敵いません。俺も逃げてばかりですし、たまには貴方の要求にお付き合いしますよ。ただしエッチは駄目ですからね」
念を押しつつ、俺は鈴理先輩の要求に付き合っても良いと返事した。
俺とてストイックな男じゃない。彼女と過ごしたい気持ちはある。人並みにはカレカノの時間を楽しみたいと思っている。ちゃーんと思っていますとも。
「堅物め」
何故エッチが駄目なのだとぶつくさ文句を言うあたし様に、思わずため息。
それをして、もし、大事になったら、十中八九男が責任を取るんですって。女の貴方も大変な目に遭うでしょう。
これはお互いのためです。少しはこっちの気遣いに感謝して欲しいんだけど。
どうしても二人きりになりたい肉食お嬢様のために、俺は我が家に彼女を呼ぶことにした。平日土なら両親は共働きで家にいない。お金もかからず二人きりになれるし、先輩のあらやだぁなことも、まあまあできるのではないだろうか。
ただし断固としてエッチはさせない! お互いのためだ。絶対にさせない!
それに、まあ、少しくらいなら触れても良いだろう。うん。恋人同士なんだし。うん。俺も。うん。なんでもない。うん。
この時の俺は甘く見ていた。本当に甘く見ていた。
ちょっと触れさせれば、彼女も満足するだろうと安易なことを思っていたのだ。
それが大間違いだったと気付くのは、土曜の正午。
習い事を休んでまで我が家に来た彼女は、本当に欲求不満だったらしく、家にあがるや玄関先で壁ドン。前触れもなしに耳に齧りついた。
「アイタっ、せ、先輩。いくらなんでも早いんじゃ」
俺の中ではのらりくらりと一緒にカップ麺を啜って、他愛もない話をして、それからちょーっとあらやだぁという流れを想定していたのだけど。
恐る恐る声を掛ければ、「もう無理だ」充電が切れた。本当に無理なのだと唸り、肉食お嬢様は見上げると同時に補うように唇を重ねた。
最初は触れ合うだけ。
吐息が混じることを楽しむと、体温を楽しむために口腔に舌が滑る。ディープキスに下手くそと定評のある俺は息が続かず、彼女の両肩に手を置いて、一度解放するよう態度で要求する。
息継ぎの合間に、あたし様から返事される。
鼻で息をしろ、放さない、今日は満足するまで放さない。そう言う彼女のキスは止まらない。止まる術を知らない。
彼女は体を密着させると、アップアップしている俺の表情を楽しみ、飽きるまでキスを楽しむ。受け入れる俺が喉を鳴らすと、絡みついている指と指に力が篭る。
もっと、そう言わんばかりに吐息すら奪ってしまうあたし様のせいで唾液が口端から伝う。
体が跳ねたところで、熱帯びた舌が俺の口端を舐め上げて一笑。忙しなく肩で息をする獲物の顎を掬って「もっと」
酸欠のせいで頭が真っ白になりかけている俺は、判断力が欠けてしまったのだろう。彼女の要求に素直に従い、自ら唇を重ねる。
これ以上やれば不味いことくらい自分でも分かっているのに、あたし様には抗えない。
足の踏ん張りが利かなくなったところで、キスが止み、膝が崩れる。
その場で尻餅をつくと、首筋を食まれた。痛みが走る。上がる筈の悲鳴は、小さな嬌声と色を変えて俺の口から零れた。
「空」
人に乗っかるあたし様が右の人差し指を唇に当てる。
指をしゃぶる俺が見たいのだろう。趣味が悪い。本当に趣味が悪い。それに乗るは俺は救いようのない変態だ。
「ん」長く細い指を銜える。舌を這わせてやれば、悪戯気に指がくの字に曲がる。中指が侵入すると、舌を挟まれた。二本の指で揉まれる。
「やらしい空」
そうさせているのは誰っすか。
軽く指を吸うと、彼女に暴かれた性感帯の一つに舌が伸びる。「ふぅ」そこまタンマだと指を銜えたまま、あたし様を見やる。止める気がまったくない彼女は実に楽しそうだ。
耳たぶにキスすると、生温かい舌が耳殻をなぞる。
期待で体が震えた。早く触れて欲しいと思う心と、そこに触れないで欲しいと思う心が交差する。
「うぅ?」鈴理先輩の手が人のシャツを捲った。無造作に侵入してくる悪い手が腹部を触り、脇腹をなぞって背中に回る。
油断していたら耳の中で、一番触れて欲しいところに舌が這い、濡れた水音が脳内を支配した。身構えていなかったせいで大きく声が漏れる。
顔から火が出そうだった。そしていい加減、俺はこの変態染みた指しゃぶりをやめた方がいい。銜えたままだと、口が閉じられないから声が出やすい。
いや、それが目的なのだ。指を出そうとすれば、強引に深く突っ込まれる。危うく嘔吐きそうになった。
ひゅうひゅうと呼吸、我慢できなくなる嬌声、それに歓喜するあたし様が一匹。
「可愛い。空、可愛い」これはあたしの物だと得意げに謳い、彼女は指を口内から引きずり出した。銀糸が指と繋がり、一層卑猥に見える。
「空。おねだりをして見せろ。あたしが教えたんだ。できるよな?」
半ば強制的に仕込まれたと言っても過言ではない台詞に俯きたくなる。
けれど俺は先輩の笑顔が見たくて、結局言ってしまうのだ。
「先輩、ちょーだい」
「何を?」
「貴方をちょーだい」
間。
そして、再び漏れる吐息は俺のものなのか、それとも彼女のものなのか。土曜の昼下がり、俺はあたし様の所有物となる。
玲空があるなら、鈴空も書かないといけない気がしまして。
けれどこの二人だと、あんまりナマメカシイ空気は醸し出すことができないようです。どちらかといえばラブというか、イチャコラが強いカップリングです。
ちなみに玲とは対照的に鈴理は、本能で空を貪るワイルドなところがあるので言葉より、体で攻めまくります。相手がアップアップしても無視です。シカトです。それこそ泣き叫んでも自分が満足するまでやめません。
結ばれたら多分、隅々まで搾り取られるのではないかと思いますはい(意味深)
実は攻め女の攻め方がマンネリ化しているので、こっそり好きな攻め方を募集中だったりします。私の脳内では似たような攻めしか思いつかず(…)




