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肉食番外  作者: つゆのあめ/梅野歩
肉食お嬢様②編
17/21

その王子、危険につき、悪い子につき

リクエスト:アウトギリギリの艶めかしい玲空(になっているか分かりません……)


 俺の婚約者は男嫌いのボクっ子男装少女だ。

 宝塚歌劇団に入れば、見事男役のトップスターになれる美貌とスタイルを備えている。王子と呼ぶに相応しい。

 そして彼女は、本当に男だったら良かったと思う節がある。女の自分を嫌っているわけじゃないけれど、幼少の苦い積み重ねにより男だったら、と羨望を抱いている。


 だからなのか。彼女の攻め方は非常に雄々しい。

 そりゃあもう、男の俺が雄々しいねぇ。イケメンだねぇ。男前だねぇと思うのだから、彼女の恋愛に対する扱いは雄々しい。攻め女と呼ばれる所以でもある。

 女性の部分を兼ね備えていても、なお、男性のように振る舞う。それが俺の婚約者だ。



「ツーペア。豊福の負けだ」



 夜更け、自室として使用させてもらっている和室。

 持っていたトランプカードを放ち、御堂先輩が歪曲に唇を持ち上げた。

 きっかけは何だったのか忘れてしまったけれど、息抜き程度にと始めたカードゲーム。最初は無難にババ抜きから始め、ジジ抜き、戦争、スピードとゲームを楽しんでいた。勝敗は五分五分。勝ったり負けたりを繰り返していた。


 俺は純粋にカードゲームを楽しめればいいや、と思っていたのだけれど、至らんことを思いついた御堂先輩は次のゲームは賭け事をしようと提案。

 ポーカーで互いに体の一部を賭け事に使用し、勝てば負けた者の一部を好きにして良いというもの。


 当然俺は大反対。

 そんなことすれば誰が泣きを見るか、馬鹿でも分かる。勝手も負けても俺に得はない。あるのは絶対的な羞恥だ。


 だがしかし狡い王子はルールを変え、相手の欲しいものを取れることにしようとスマホを起動させ、人を赤面させてしまうとんでも画像を見せつけてくる。

 そんなものを画像に収めていたのか、発狂しかけた俺は自分が勝てば画像は消してしまうが良いかと念を押した。

 勿論だと笑声を零した王子にまんまと乗せられ、ポーカー勝負に挑んだ。が、俺は賭け事にめっぽう弱い男のようだ。


 千行の汗を流しながら持っていたカードを滑り落とす。

 御堂先輩を直視すると、ああ、悪魔がいる。腹の底で何を企んでいるのか分からない、王子様がいらっしゃる。

 お、俺から何を取るつもりなのこの人!


「まずは、そうだね。声が欲しいな」


「え、あ、こ、声?」


 意外なものを指名されてしまった。

 先輩なら、もっと、その、あれだ。変なことをしそうだと思ったんだけど。声なら全然平気だ。


「うん。僕は君の声が欲しい。良いと言うまで喋っちゃ駄目だよ。声は僕の物だから」


「分かりました……あ、」


 こうして声を取られてしまった俺は動作で返事することを努め、よせばいいのに第二ゲームを始めた。弁解すれば心のどこかで勝ちたい気持ちがあったのだと思う。勝てば、あの羞恥心まみれた俺の画像を消せる。淡い期待を寄せていた。

 ツーペアができた。今度は勝てるだろう。にやにやっとしながら、カードを見せれば、スリーカードが返された。嘘だろ。


「ふふ、また僕の勝ちだ。次は君の左手が欲しい」


 今度は左手を使っちゃいけないのか。

 安易なことを思っていると、「左手は使ってもいいよ」ただし、これは僕のだと王子は妖艶に綻ぶ。はて、左手は使ってはいいけれど、僕の物宣言された俺の左手。一体どうしろと。


 御堂先輩が近寄ってきた。

 おもむろに左手を持つと、「綺麗な指だね」人差し指を銜えてしまう。

 飛び上がる俺が口を開けば、彼女の長い指が唇を押し当てた。喋るなという合図。顔を紅潮させる俺に目で笑い、丹念に五本の指を舐めていく。舌を這う生温かい感触、当たる歯に吐息、見ていられなくなって目を背けてしまった。

 ゲームだからと言い訳をして逃げることもできるのに、体が石のように動かない。鼓動だけが忙しなく働いている。



 第三ゲームが始まる。

 もう既に脳みそが沸騰しかけていた俺は、これで仕舞にしようとスマホに文字を打ち込んで意思表明。

 意地の悪い御堂先輩は、ならそれが次のゲームの賭け事だと笑った。


 完全に彼女のペースに呑まれている。

 ワンペアも揃わない俺は敗北を感じながらカードを見せた。対して、ワンペアが出来上がっている御堂先輩は嬉しそうに次の部分を指名。それは鎖骨だった。

 何をされるのか、もう想像しなくとも分かる。


「僕はね。痕を付けることが大好きなんだ。付ける時、豊福は本当に羞恥を噛みしめている顔をする。それが堪らないんだ。ねえ、僕に鎖骨を見せて」


 ゲームで勝ったご褒美を僕に頂戴。

 彼女は飄々とした口振りで頬を撫でた。自分から鎖骨を見せて誘え、遠回しな要求に気付かない俺じゃない。

 声を大にして終わりだと言いたい。

 けど、声は賭け事で取られた。今、此処で声を出せば経験上、彼女はもっと意地の悪いことをしそうだ。


 まじまじと見つめてくる御堂先輩のために、ゆるりと浴衣を掴み、右の鎖骨を見せるために引き下げる。首を食まれたのは直後のことだった。

 そこは対象外だというのに、首筋を舐め上げてくる。

 「は、ぁ」気付けば、小さな吐息が零れた。焦らすように唇が鎖骨に下りた。弾力あるそれが肌に触れると体が微動する。


「ここ、感じるの?」


 そっと吸われる鎖骨の窪みに舌を這わせ、彼女が顔を覗き込んでくる。

 肯定も否定もしない。感触に感じたのは本当だ。けれど性的に感じたかといえば、よく分からない。性感帯ではなさそうだけど。

 「真っ赤だ」髪を愛撫するように触り、「もっと触りたい」王子は男のように、「君の感じる顔を見たい」恥じらいもなく艶のある言葉を送る。


「嫌なら、嫌と言って。今なら止めてあげるから」


 彼女はうそつきだ。

 そのつもりがないから、声を最初に取ったんだ。そしてルールに則って声を出さない俺も俺だ。大概で馬鹿野郎だよ。

 賭け事で取られてしまった左手に目を向け、その手を彼女の後頭部に回した。さらさらの癖っ毛を撫ぜることで、御堂先輩は答えを見出したのだろう。唇を人の耳元に寄せた。


「この勝負も僕の勝ちだね」


 最初から俺に勝ちを与えないつもりだったくせに。

 そうだよ。俺の負けだよ。ゲームに乗った時点で俺の負けだったんだ。途中から自分の負けは見えていた。それでも俺は勝負に乗ってしまった。


 こうして俺と彼女は常にゲームをしている。

 トランプゲームのように、いつも駆け引きをしている。いつか、俺は王子に魅了され、本当の意味で落ちてしまいそうだ。いや、もう、落ちているのかもしれない。でなければ、俺は敢えて負ける選択を取るわけがない。


 たったった、廊下からリズミカルな足音が聞こえる。

 女中の誰かの足音。さと子ちゃんだろうか。障子に目を向けると、御堂先輩が膝立ちとなり、宙に浮いている紐を引っ張って明かりを落としてしまった。

 トランプカードが散らばっている一室、闇とまではいかないものの、間接照明のせいで薄暗いオレンジが部屋を満たす。


 瞠目する間もなく、勢いづいた王子が人の肩を掴んで俺を畳に押し倒した。

 痛みで上がる予定だった小さな悲鳴は彼女の口内に消え、繰り返される軽い口づけはとどまることを知らない。

 仄かな影法師が障子の向こうに浮かぶ。

 夜更けの刻だから就寝しろ、と誰かが言いに来たのだろう。障子に浮かぶ影法師が部屋の前で立ち止まっている。


 和紙を張った一枚壁の向こうに人がいる。

 それにも関わらず御堂先輩は俺の下唇を吸い、上唇を舐め、そろそろーっと舌で唇をノックしてくる。堪えられなくなり、静かに唇を開閉すれば、無遠慮に舌が入ってくる。

 迷うことなく俺の舌と戯れるために、深くなる口づけ。声が漏れそうになる。

 必死に声を呑み込もうとすると余計舌の感触が鮮明となる。生理的な涙が滲んできた。息継ぎの合間に、どうしても声が漏れそうになる。


「僕も君も悪い子だね」


 忙しなく肩を動かし、乱れた呼吸を整えていると御堂先輩が最大の弱点である右耳に吐息をかけた。


「もしも、今のが蘭子やさと子だったとしたら」


 いつの間にか障子の向こうに揺らいでいた影法師が消えている。去ってしまったのだろうか。


「彼女達を媒体に快楽を得ようとしたのだから」


 身近な人物を媒体に、その意味がダイレクトに脳みそに伝わった瞬間、体が熱くなる。芯が熱くなる。

 やばい、俺は興奮している。いけないことをしている、その現実に興奮している。早く冷まさないと空気に呑まる。早く、冷まさないと。


「豊福は今、焦っている。感じ始めている自分に気付いているから」


 歌うように人の感情を見透かす御堂先輩は、確かに優越感に浸っていた。彼女の欲しい立場が、逆転したその関係が此処にある。それが嬉しいのだと思う。

 御堂先輩は男の立ち位置を羨望している。男に攻められたいのではなく、男を攻めたい。それも彼女にとって一つの快楽だ。

 「くっ」性感帯のある右耳を丁寧に舐め始める御堂先輩のせいで、声が漏れ、漏れ、漏れて、それに恥ずかしくなって。


「このまま続けたら、豊福はどうなるんだろうね。いずれ声が我慢できなくなり、理性が崩れていくのかな。それとも理性が優って、逃げることに成功するのかな。けれど君は熱が冷めないまま、悶える夜を過ごすんだろうね」


 だってその未来では僕が隣で寝ているのだから、王子がじりじりと逃げ道を塞いでいく。

 危険を感じ、急いで身を押しのけようとするけれど、「感じている君を見せてよ」その草食ぶった顔を早く取っ払いたい。理性が崩れ、本能で快楽を求めるぐちゃぐちゃな君を見たい。全部ぜんぶ目に焼き付けたい。

 御堂先輩は獲物を捉えたような、細い目つきで俺を見下ろす。


「僕は見たいよ。君が快楽に流されまいと縋って、すべてに負けて流されていく君を。可愛いんだろうな。豊福って一度快楽を覚えたら、多分無意識に求めてしまうタイプなんだと思う」


 覚えてしまったら最後、我慢の飽和点が下がるんだよ。彼女は俺の首筋を舐め、そっと口づけしていく。

 もう体が疼く熱でどうにかなってしまいそうだ。冷ます糸口が見つからない。


「せん、ぱい」


「悪い子。まだ君の声は僕の物なのに。でも、ああ、そんな顔をさせているのは僕なんだね。可愛いよ。本当に可愛い。今、君を狂わせているのは僕だと思うだけで興奮するよ」


 ほら、目を見て、もっと狂わせて。僕の手で狂わせて。


 骨張った長い指が生えている手の甲が両頬を触れる。

 抵抗、常識、学生、それらの二文字が霞んだ。

 「はっ、ぅ」熱っぽい吐息が零れる。長い脚で何処を触っているんっすか。やめて下さいよ。本当に、もう、狂いますから。熱が冷めないじゃないっすか。熱が冷めなかったら、俺は。



「焦らすのも一興。僕は好きだよ。じりじり追い詰められていく君の顔を見るのも。流されまいと縋って、縋って、そしてすべてに流されてしまったら。君の負けだよ。豊福。この勝負、どっちが勝つだろう、ね?」



 追い詰められる俺を見て愉しむ王子も大概で悪い子だ。



 このまま最後まで書いてやろうかと思いました。が、取り敢えずはギリギリで。

 以前、尋ねられたのですが玲は鈴理より、攻め方が意地悪です。快楽に落とすのではなく、快楽で追い詰めます。焦らしが大変お好きな意地悪令嬢です。本番は多分、やばいと思います。彼女と結ばれたら、空は羞恥と焦らしに苛む情事となることでしょうね(意味深)

 勝負の行方は皆さまのご想像にお任せです。

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