燃えよカオスな気持ち
【Chapter1 王子系攻め女】
≪14.御堂家の吉報≫直後。
まだ玲が自分の気持ちを受け入れられない、つーんでれ王子な頃なお話です(笑)
〔三人称/ギャグ〕
御堂玲。
御堂財閥の一人娘、齢17で現在高校二年生。演劇部に所属している。財閥界でも有名な男嫌いでその容姿端麗な美貌も持ち前の性格によって、寄り付く男は少ない。
反面、無類の女性好きで女の子にはとても優しい、まるでプリンスのような女性である。一人称が僕なため余計プリンスオーラが醸し出されている。そう、まさしく彼女は男に厳しく、女には優しい、女性のための女性プリンスなのである。
「うわぁああああ! 僕は女の子が大好きなのにっ、どーして男が脳裏を過ぎるんだぁあああ!」
頭を抱えて机上に沈む玲は唸り声を上げて身悶えていた。
何故このような状況に陥っているのかというと、昨夜行われた財閥交流会の騒動のせいである。玲は財閥交流会で大失態を犯したのだ。簡潔に説明すると好敵手と見定めている竹之内鈴理の彼氏を口説いてしまったのだ。しかも無意識のうちに。
それどころかお誘いしてしまった。
皆の目がある中で「僕と一晩過ごせ!」などと言ってしまったのだ。あるまじきことである。おかげで財閥界ではすっかり噂だってしまった。
「と、豊福にあんなことをっ。クッ、僕は血迷ったか! あんなヘボイ貧相な男に口説いてしまうなんてっ」
上体を起こしてブツクサと文句垂れる。
あんな男を口説いてしまうなんて自分はおかしくなったのではないだろうか。精神科にでも行くべきだろう。
「大体」あんな男を口説いて僕に何の得がある。まーったくないぞ。寧ろ損しか出ないさ。確かに彼の腰は触っている内に癖になってしまいそうだったし、唇だってそのまま重ね………、ガンッ!
故意的に机上の表面に頭をぶつけ撃沈。
むくりと上体を起こし、「僕は女の子とキスした方が嬉しいんだ」誰があーんな男とキスなんて。キスなんてしたら興奮してしま……、本気で病院に行くべきだろうか?
うーうー唸って身悶えていると、障子が開かれた。
視線を流せば茶菓子を持って中に入ってくるお目付けが。
会釈してくる蘭子は自分の様子を見るや否や、微笑ましそうに綻んでテーブルにお盆を置く。次いで、「豊福さまのことを想っていたのですか?」と茶化してくる。体温を急上昇させつつ、そんなわけないじゃないかと玲は声音を張った。
「しかし玲お嬢様は会場にあの方を置いて来ましたし、気にしているのではないかと」
「きっ、気にしているわけないだろ! あんな奴を気にしてどうするんだい? 鈴理の彼氏かなんだか知らないが、あんな男、滅んでしまえばいいんだ」
フンと鼻を鳴らして蘭子にそっぽ向くと、「まあお嬢様」そのようなことを仰ったら嫌われてしまいますよ。彼女から注意を受けてしまう。
嫌われる?
上等だと腕を組む玲だったが、ちょっと脳内で妄想してみた。彼に嫌われてしまう光景を。
『滅べ? あーそうっすか。なら御堂先輩なんて大嫌いっす!』
……、……、……。
じょ、上等だ。
僕だって、僕だってきら、きらっ……、玲は再び机上に撃沈した。
嗚呼、何故どうしてWHY?
妄想で傷付く自分がいるのですが。べつにどってことねぇ筈なのにいじける自分がいるのですが。べっこべこになっている自分がいるのですが。べ、べつに言葉のあやじゃないか。嫌いの頭に大を付けなくたっていいじゃない。傷付いたなら謝らないでも、ない、し。
ズーンと落ち込む玲に蘭子が笑声を噛み殺していたことなど知る由もない。
「気持ちに素直な女性は好かれますよ」
さり気ない助言に玲は唇を尖らせる。
「素直に滅べと言っているぞ」
ごにょごにょと反論した直後、脳内の彼がツーンとそっぽを向いてしまう。
うぐっと言葉を詰まらせ、玲は訂正を入れた。
「男は滅んでもいいが……、豊福は滅んではいけない気も、する」
あ、脳内妄想の彼がちょっと照れた。よし、此処でお得意の口説きを! ……彼を口説いてどうするんだい僕。いや励ましのために口説くだけで。所詮は建前だけの口説きで、本音では。本音じゃ。ちょっと本音も入っているかもしれない。
てことは僕は彼に好意を?
あ、有り得ないではないかそれ!
元気になったかと思えば、また撃沈する玲の奇妙奇怪な行動にも、蘭子はニコニコと見守っている。
すっかり気持ちは≪恋する乙女≫を見守っている気分である。
(お嬢様が男の方に恋するなんて。嗚呼、喜ばしいこと極まりません)
まさか感激されているなんて露一つ知らず、玲は小声で「豊福は怒っているだろうか?」と話題を切り出す。
会場で大騒動を起こした玲は少しならず、騒動の当事者の片割れを置いてきてしまったことに気掛かりを覚えていた。
もしも怒っていたら謝罪するべきなのだろうけれど……、いやいやいや、どうして自分が謝らなければならないのだろうか! 無駄な行為ではないか!
「そうですね。蘭子なら怒り心頭していると思います」
ギクリッ。
心臓を高鳴らせる玲に、「真摯に謝ってもらいたいものです」と蘭子。まさか蘭子が例の彼ともう一度会う機会を設けようとしているなんて、今の玲が気付く由もない。
「だって置いていかれたんですもの。さぞかし心細かったでしょうね。鈴理令嬢に誤解までされて、今頃は叱られて泣いているかもしれません」
別の意味で鈴理に鳴かされていたなどと、蘭子も知る由はないだろう。
さて泣いているかもしれないと聞かされてしまった玲は、「だったら情けないね」男のくせに泣いているなんて、と毒言。直後、また妄想をしてみる。
『誤解をされた挙句、御堂先輩に置いて行かれるなんて。俺、どうすればっ……、皆、酷っ、ひどっ。情けない男なんてっ、誰も、助けてくれっ……うっ……う゛っ』
!!!
大変である。妄想の彼がボロボロ泣き始めた!
「な、泣くな」
情けないなんて思っていないから! それとその顔は欲情されてもおかしくないぞ!
わたわたと慌てる玲は蘭子を呼んで今すぐ謝罪をしに行くと言いそうになったが、持ち前の自尊心が邪魔してそれが言えず、本日何度目かの撃沈をしてしまう。
結局その時は何も言えずに終わってしまったが、玲は夕食時、睦まじい仲である両親を観察しながら一件について考えていた。
仮に自分が謝罪したとしよう。多分、彼の性格上、許してはくれるだろう。許してくれた後はまずお友達から。
ぬぬっ、お友達なんて馴れ馴れしい。
まずは知人として仕方がなくアドレスを交換してやって。メールのやり取りを始めて親密度を徐々に上げて。友人にランクアップしたら電話でも。
……鈴理はそれを許すだろうか?
待て待てあいつの許可なんてまず不要だろう。
随分と彼に入れ込んでいるようだが、自分は友人として接しているだけで。べっつに羨ましいとか思っていない!
(フン、僕は男よりも女の子が好きなんだ。鈴理だってゾッコンだったし、僕が狙う理由も見当たらない。あの首筋から鎖骨にかけてのキスマークとか見ただろ? 鈴理は随分と彼のことを好いて……)
もやもやっとした感情が襲ってくる。
(大体豊福は男だぞ。男! 僕の範囲外だ! き、キスマークを僕も付けたいとか思っているわけないだろ!)
つい、煮物の里芋を箸で刺してしまうが、彼女の両親が注意することはなかった。
何故なら彼女の気持ちがすべて口に出ているからである。
頃合を見計らったかのように一子が、「そういえば玲」財閥界で噂を作ったようね、と話題を振ってきた。
一番触れられたくない内容に硬直する玲は、「な。なんのお話でしょう?」と上擦り声で返事するが動揺しているのは一目瞭然である。
「蘭子から聞いたわ。貴方と共に噂になった子、とても感心できる子だそうね。なんでも御両親のために奨学生になっているとか。ご家庭に苦労があるようですね」
「今時珍しい子もいるもんだな。芯が強そうだ。財閥界に欲しいよ」
「へえ」それは僕も知りませんでした。玲は答を返して、物思いに耽る。
両親が誰かに感心を寄せるなんて珍しい。これはもし彼と付き合うことになっても苦労は無さそうで……、ッハ!
ブンブンと頭を横に振って玲は赤面した顔を冷ます。
(ななななななななにを思っているんだ僕は! 付き合うだと? 付き合えるわけないだろう! あいつは鈴理の彼氏でっ、こ、これではまるで僕が付き合いたいようではないか!)
まったくもってそのとおりではないか。
向かい側に座っている両親が無意識の内に気持ちを零している玲に心中でツッコミを入れる。
(つ、付き合うにしても……、なんにしてもっ……、ま、まずは謝罪……しないと。豊福も僕に好印象は持っていない、だ、ろ、う、し。……き、きぃーすとか、したいわけじゃないぞ? た、ただ、悪く思われるのは嫌ってだけで。キス、ね)
豊福とキスか……。
『ちょっ、食事中になんて妄想してるんっすか! 妄想空は貴方のキス妄想なんて破廉恥なものは想わせませんよ! 大体俺には彼女がいますし』
彼とキス……。
『ゲッ。なんかっ、き、キスをさせる妄想に入りましたね! おっ、俺はキスなんてしませんっ! き、キスなんてっ、ぎゃぁああ! どうして押し倒すんっすか! いや、妄想だからなんでもありでしょうけど!』
キス……。
『だ、だから俺にはっ、か、彼女が! え? 妄想だから関係ない? あるっすー! 妄想であろうと俺はキスをされるわけにはっ、ちょ、何処触ってッ…?!!』
ちゅーっ……。
『んっー! んーんーっ…! ―――…ッ!』
ぽわっ。
頬を紅潮させた玲は、「いいかもしれない」と呟いた。刹那、よくないと悲鳴を上げて箸と茶碗を置き、身悶える。
「僕はやっぱり病院に行くべきなんだぁああああああ! ごちそうさまでしたぁあああああ!」
ぎゃーぎゃーと悲鳴を上げながら玲が大間を飛び出す。
「青春ですね貴方様」
「まったくだな一子」
始終微笑ましく見守っている両親は早く彼氏を作って欲しいと願っていたりいなかったり。
一方、自室に飛び込んだ玲はドッドッドと鼓動を鳴らして発狂していた。
「僕はなんて妄想を!」
一度脳みそを医師に隅々まで調べてもらう必要がある。絶対に!
泣き言を漏らし、畳上に撃沈。いつもの勝気紳士プリンスの面影など一抹も見当たらなかった。
「キスされたいじゃなくてしたいとか思った僕乙。相手に触れられたいじゃなくて触れたいとか思った僕、もっと乙。男を鳴かせたいとか思った僕、地獄に落ちればいいのに。大体、僕は豊福を置いて行ったんだぞ? 怒って嫌っていても」
……怒って?
『御堂先輩なんて知らないっす。もう口利きません』
……嫌って?
『御堂先輩なんてだーい嫌いっす!』
………。
がばっと身を起こした玲は、急いで廊下に出ると蘭子を呼んでくれと通りかかった女中に命令する。
お目付けがやって来ると某プリンスは恥を忍んで彼女に尋ねたのだ。
「ら、ら、ら蘭子! 僕は豊福に嫌われっ……、ごほん、豊福に少しばかり悪い事をしたと思ったから、その、なんだ……、しゃ、謝罪っ……、何をどうすればいいんだ!」
申し出た夜、玲は非常に刺激的な夢を見て朝っぱらから発狂する羽目になるのだが、これは余談としておこう。
Fin.
玲の空に対する形態は三段階。
第一形態:豊福? 男だろ? シッシ! あっちにいけ!
⇒初対面の玲
第二形態:豊福は男だから滅べばっ……、滅んで欲しくない僕がいる。
⇒財閥交流騒動後の玲
第三形態:豊福は僕の姫だ。男だろうと関係ないさ。
⇒現在の玲
どの玲がお好きですか?(笑)




