7 煤かぶり姫は見た
懲りたのだろうか、エドワードは朝以来静かだった。
小休憩も昼休みも、ベルティアに構うことなく過ごしていた。
授業中も、休み時間も、全ての時間に全力で勉学に取り組むベルティアは、もちろん教室では浮いている。特進クラスとはいえ、ここは貴族学園。
貴族社会ならびに社交界の縮図であるこの学園に本気で勉学をしに来ている生徒なんて、実のところほぼいない。
『将来関わるべき相手を見極めるために、周囲の人間と溶け込む』それがこの学園に通う最も大きな意義であり、意味。
中には、将来のお嫁さん、お婿さん、嫁ぎ先、を探している者もいるが、適齢期真っ只中の16歳、つまり学園卒業間近にはほぼ全ての人が将来の伴侶が決定しているがために、今はもうそういう活動はほとんど見かけなくなった。
若干1名おかしなタイミングで交際を申し込んだ空気読まずがいらっしゃるが、それは賭けの代償であるため無かったこととしておこう。
まあ要するに、現在恋人を作ってチャラチャラしている人間はマズイということだ。
嫁ぎ遅れ真っ只中を意味するし、将来を何にも考えていないとも言える。
(………そもそも、わたくしに嫁ぎたい奇特な人間なんていないだろうけど)
自分を棚に上げようとするベルティアの言い訳はさておき、今思い出したのだが、エドワードには確か婚約者がいなかっただろうか。
隣国の王女殿下で、そう、たった今窓の外で授業をサボってオレンジ色の髪の男とキスをしている女のような綺麗な白金の髪を持つ………、
「っ!?」
驚いたと同時にちょうど6限の終わりを告げる鐘の音が耳に響いた。
(え、ちょ、ま、はあ!?)
飼育していた猫が5匹ぐらい逃げ出した結果、取り繕うこともできなくなったベルティアは、表情も心の中も困惑という泉が大氾濫。
大声をあげて立ち上がらなかっただけ、本当に褒めて欲しいほどだ。
(あ、あれって………、我が国の第3王子殿下と隣国の王女殿下、だよね………?)
確実に見てはいけないものを見てしまった。
見なかったことにしなければならないものを見てしまった。
(第3王子って確か王女殿下の国とは別の隣国の公爵家への婿入りが決まってて………、)
これ、国が傾くのでは?
純粋な疑問が引き攣った笑みと同時に湧き上がる。
「ベルティア?」
「っ!?」
頭上から聞こえた声にビクッと反応してしまう。
「ん?あぁー、あれね?」
冷めた声が響き、そっと顔を上げるとそこには麗しすぎる顔面があった。
「え、エドワードさま。………えっとー、そのー、………………」
何をいっても墓穴を掘ると気がついた賢いベルティアは、何事もなかったかのような笑みを浮かべることとした。
おそらく眼鏡で殆ど何も見えてはいないが。
「ちょうど一昨日婚約解消したんだよね。殿下の婚約者、駆け落ちして現在行方不明だってさ」
なぜ王侯貴族はこんなにも不倫と浮気、そして駆け落ちが大好きなのだろうか。
正直意味がわからない。
「だからさ、僕と安心して付き合ってよ」
満面の笑みに隠された悪感情をついじとっとした目で見たベルティアは、けれど、言い返すわけにはいかないために、おずおずと頷く。
「それじゃあ、デートに行こうか」




