4 嘘の告白
放課後はあっという間にやってきた。
国王陛下と王妃陛下の思い出の庭園は、今なお純白の薔薇が美しく咲き誇り、生徒たちを楽しませている。
奥にある噴水の前には、この庭園に負けず劣らずの美しさを持つ1人の青年が佇んでいた。
その腕には淡いピンクで包まれた大輪の薔薇の花束。
なんとロマンチックな光景なのだろうか。
―――これが、
「ベルティア・ローレル。僕の恋人になってくれないかい?」
“煤かぶり”と呼ばれる自分への告白でなく、麗しい令嬢への告白であったのならば。
罰ゲームによる苦痛に満ちた告白でなければ。
あぁ、本当に―――、
(罰ゲームで告白なんて、最低の極みね)
心を支配するは諦観。
初めての恋人に夢を見ない少女なんて、この世界には存在していない。
煤かぶり姫だなんて蔑称をつけられてなお夢見ることは、悪いことだったのだろうか。
悪い子だったから、神さまはベルティアにこんな意地悪をするのだろうか。
ベルティアの生まれ持った罪は、生まれて間もなく母を奪わねばならぬほど重いものだったのだろうか、愛し愛されることさえも許されぬほど憎まれなければならないものだったのだろうか。
ベルティアには分からない。
分かりたくもないし、一生理解できないのだろう。
ベルティアに今残された選択肢は、
(………実家の没落か、罰ゲームの景品か………………、)
ならばもう、迷うまでもない。
悩む必要さえもない。
ベルティアの唯一を守らねばならない。
1番に愛し、守ってくれる父を、父が守る領地と、そこに住まう、自分を虐げないでいてくれる心の広い領民を、―――ベルティアはなんとしても守らなければならないのだ。
そのためなら、なんだってできる。
「―――えぇ、喜んで」
心なんて一切動かない。
感情も置いてけぼりのままでできた、自分に対して嫌悪感を抱いている、初めての恋人。
人の人生をなんの躊躇いもなく踏み躙る、見た目だけは優れたクズな恋人。
彼に割く感情も、時間も、全てが無駄。
彼の目的は達成された。
罰ゲームである、“煤かぶり姫”へ跪いて告白し、恋人になるという任務は達成された。
ならば、彼は刻一刻も早く自分のことなど視界にも入れたくないだろう。
「………わたくし、これから勉強の時間ですので、失礼致します」
やるべきは1つ。
勉強だ。
今日は分からないところが2つもあった。
図書館で調べなければならない。
学費はタダじゃない。
凶作によって税収が乏しく、住民の負担を減らすために備蓄をも開放している貧しい我が家にとって、ベルティアの学費は正直、非常に苦しいものである。
そんな状態下で、半ば強制であるとはいえ通わせてもらっている身であるベルティアは、全てを完璧に学び上げ、領地ならびに領民へと還元しなければならない。
たとえ無駄に思われることであっても、学んだことは全てベルティアの財産であり、かけがえのない宝物。
ベルティアには立ち止まるなんて選択肢は、初めから与えられていない。
目の前のことに対し、一生懸命に取り組むのみである。
「え?あ、ちょ、ま、」
だから、背後で呆然と何かしらを言っている男なんて見向きをする必要もないし、それどころか顧みる必要もない。
義務は果たした。
彼の踏み台になってあげた。
初めての恋人という地位を捧げてあげた。
―――これ以上は、奪わせない。踏み躙らせない。
だから、薔薇の花束は受け取らない。
それが、ベルティアのせめてもの矜持だった―――、




