25 煤かぶり姫と週末の幸せ
次の日は、特に何もせず登校した。
何事もなかったかのように1日を過ごせはしなかったし、エドワードに3食とおやつをしっかり用意されて、無心で食べる羽目になったけれど、無事に終了した。
嫌がらせが悪化したし、陰口は悪化したしで、諸々最悪なはずなのに、ベルティアは学園生活が少しだけ楽しいと感じた。
放課後の勉強も、エドワードが先生方にベルティアの分からなかった点を聞いておいてくれるが為に、今までよりも有意義な時間を過ごせるようになった。
吹っ切れるとこんなにも世界は明るくて、楽だったのだと気がついた。
その次の日とそのまた次の日は、週末で学園が休みだったから、エドワードの屋敷でゆったりとした時間を過ごした。
勉強に浸った色気のない2日間。
けれど、それが意外にも楽しくて幸せだった。
彼の用意した美味しい食事と肌触りの良い服、暖炉をふんだんに使用した暖かな部屋、そして季節外れの花々が咲き誇る贅沢な温室。
そのどれもが、ベルティアには別世界で、夢のようだった。
外聞も気にせず、彼の屋敷に泊まり、優しい時を過ごした。
彼の家の使用人は平民で、しかも焦茶の髪ということもあり、気負わないで済んだのも大きかった。
世界の優しさを初めて知ったかのような感動を覚えた。
領地での当たり前を、久々に体験した。
彼にとっては穢れた煤かぶりと過ごす苦痛の2日間かもしれないと思った休日、けれど、彼はそんな素振りを一切見せず、それどころかまるで愛おしすぎる恋人に見せるかのような溺愛っぷりを披露して見せた。
選んでいる使用人からも感じ取り始めていたが、彼は彼の発言した通り、あまり髪色に対しての執着がないようだった。
不思議な気分だった。
憎悪を隠して近づいてきたエドワードと仲良くなっている自分が。
最低限の義務としてお付き合いしている風に見せようとしていた日からたった5日で週末をずっと共に過ごすような仲になったことが。
向日葵のような無邪気な笑みを浮かべながら悪戯をする彼すら愛おしいと思ってしまう自分は、とても間抜けで、告白される前や、された直後の自分が見たら卒倒するレベルに変だ。
けれど、悪くないと思っている自分もいた。
「好きだよ」
「大好き」
「なんて可愛いんだ!」
ぎゅっと抱きしめられた瞬間の胸の奥底から沸き上がるなんとも言えない仄暗い悦びを、自分自身が許せない。
どのみち3ヶ月後には鉄槌が下される身の上だということが、自分の心を守ってくれる。
週末はあっという間に終わりを告げた。
週明けの朝、ベルティアはくまちゃんをぎゅっと抱きしめて勇気をもらい、器用さを活かしてあっという間に髪とメイクを完成させる。
久々に使ったコテも、化粧品も、とてもいい仕事をしてくれた。
ダッカールとコテでふんわり持ち上げた前髪から覗く顔には、淡く化粧を施したことで、アメジストの瞳も相まって妖艶さと愛らしさが交錯する妖しい雰囲気が漂っている。
彼から貰った髪飾りを活かしてハーフアップをした髪をより複雑に編み込み、くるくると巻いた髪が艶やかなシニヨンを形作り、ほっそりとした項が覗き、情欲を掻き立てる。
鏡に映る異国の姫君と言われて納得する風貌に、ベルティアは満足そうに頷いた。
エドワードから貰った制服は、お洒落をしたベルティアをより輝かせていた。
久々に自分に自信が持てるような気がした。
「………いくら着飾っても煤かぶりなのにね」
自嘲の笑みをこぼしながらも、どこかわくわくしている自分がいた。
(エドワードさまはどんな表情をするのかしら)
くまちゃんに行ってきますの挨拶をしたベルティアは、いつもよりも遥かに軽い足取りで自室を飛び出した。




