23 煤かぶり姫と王女と光の貴公子
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エドワードの家で朝食を食べて、学園に彼の馬車で登校して、いつも通りの生活に戻れると思っていた頭の中がお花畑だった頃の自分の頭を殴り倒したい衝動に駆られながら、憔悴しきったベルティアは昼休みの裏庭で複数の生徒から囲まれていた。
「あなた、何様のつもり?」
先頭に立つのはエドワードの元婚約者の隣国の王女。
遠目で見た時にも感じていたが、………デカい。
何がとは言わないが、すごく大きい。
エロス大好きな第3王子お好みの王女と言われて納得な身体つき、ぽってりとした唇と唇下の黒子、襟ぐりが思いっきり開いており、谷間全開に改造している制服。
(………真冬の屋外で、夜会でも常識では着ないほど開いている襟ぐりの服か………。おしゃれは我慢と聞くけれど、………いっそ可哀想ね)
無言が気に入らなかったのか、王女の怒りが目に見えて大きくなった。
「聞いているの!?」
「………何様というのは、わたくしのどの行動についてでしょうか」
「はあ!?煤かぶり如きが、エドワードと一緒に登校してることについてに決まってるでしょ!?それになによ、その制服!色気づいて気持ち悪い!!」
「………………」
似合わないことぐらい分かっているのに、人から言われると胸が重たくなるこの現象は一体何なのだろうか。
頷きあって下品な笑みを浮かべる王女の取り巻き4名と、言ってやったと言わんばかりに高笑いをしている王女からどう逃げようか思案するが、どう転んでも全ては自分が悪くなる結末しか見えず、すぐに思考を手放した。
昨日も休んでしまったのに、今日も昼から学園を早退する羽目になるとは思いもしなかった。
ベルティアは王女たちのように、暇ではないのに。
どうしてこうも突っかかられなければならないのだろうか。
暇人は暇人同士でつるんでよろしくやっていて欲しいものだ。
お願いだから、忙しい人間を巻き込まないで欲しい。
わちゃわちゃとした丸聞こえな話し合いの末、王女の扇子がベルティアに向けて振り翳される。
ゆったりとした動きのように見えるそれは、ベルティアに当たることなく捩じ伏せられる。
「………どうして出てきたのですか、――エドワードさま」
黄金の髪を揺らし、優美な微笑みを浮かべた美丈夫のその太陽のような瞳には、激しい怒りが燃えていた。
「逆に聞くけど、何で避けないわけ?」
「面倒だからですが、なにか?」
わなわなと震える王女を横目に、ベルティアは溜め息を吐く。
「ずっと陰で聞いていらっしゃったのならば、そのまま出てこなければ平和でしたのに」
「………――恋人を傷つけんとする害虫が目の前にいて、止めに入らない男の方がおかしくないか?」
「別に?変じゃないと思いますけど」
「………………変だよ」
気安いやり取りに、王女の取り巻きが慌てふためく。
「エドワード、貴方、どうしてこんな煤かぶりと関わりを持っているの?穢らわしい」
王女の言葉に、ベルティアは目を見開く。
「王女殿下には、僕が誰とどう関わろうとも、一切の関係がないかと存じますが」
「婚約者の動向を確認するのは当然のことでしょう?」
「あなたとの婚約関係は終了しておりますよ。僕と貴方は全く関係のない無関係の人間です。これは本国と貴国の王族を交えて行った会議による決定であり、覆ることのない事実です」
淡々と冷たいエドワードの言葉に、王女は勝気な表情を浮かべる。
「可哀想なエドワード。大好きな私との婚約が白紙になっちゃって」
それが痩せ我慢によって発せられた言葉であると、ピクピクした王女のくちびるから読み取ることができるのに、ベルティアは、彼女の言葉こそが彼の本当の心のように思えてしまった。
普段なら、表情を何も変えず、ただ淡々と処理できただろう。
けれど、今日は、今日だけは、ダメだった。
できなかった。
ベルティアが固く手を握りしめた瞬間、王女がエドワードに抱きついた。
「愛してる、エドワード」
眼鏡の奥で目を見開いたベルティアに、王女はにやっとした笑みを浮かべる。
「私は貴方とまた、愛人関係もやぶさかではないと思っているの。ふふっ、優しいでしょう?」
蛇のように絡みつく王女の視線、仕草、全てがベルティアの心を深く抉った。
付き合ってたったの4日。
罰ゲームの告白で始まった恋物語。
たった数回優しくされて、秘密を明かされただけの関係。
好きになってはいけないと、心を許してはいけないと、自らを戒め、心を閉ざしたばかりなのに、1度開いてしまった心の扉は、どうやらうまく閉じることができなかったらしい。
(あぁ、何でわたくしは、――煤かぶり姫なの………)




