16 光の貴公子はストーカー
放課後、いつもひっそり見守っていた彼女のお気に入りの場所に座った彼女の目の前に腰掛けた、腰掛ける権利を得た自分が信じられなかった。
天にも昇れそうなほどの幸福に、胸がいっぱいになった。
目の前に座る彼女は、鮮やかな橙の煌めきを受けて勉強をする彼女は、神々しいまでに美しかった。
彼女のアメジストを隠す眼鏡を外し、凛とした空気を纏い、学び続けるベルティアを、膝に乗せてベッタベタに撫で回したかった。
試験で成績を得るためではなく、知識を得るために勉強するのだと言い切った彼女は、愛らしいと同時に、高潔で、もう女神も勝てないんじゃないかってぐらいに素晴らしかった。
彼女が分からないと言ってひとりで勉強をする姿は美しかったが、何故ひとりで努力するのかエドワードには分からなかった。
先生に聞けば早いではないかと思った。
その謎は次の日には解けた。
彼女と登校できるのが楽しみすぎて朝の3時には目覚めたエドワードは、いつもよりも念入りに髪の毛をセットし、持ち物を確認し、5時から彼女が寮から出てくるのを待った。
途中、『これではストーカーではないか』と気がつき自己嫌悪に陥ったが、彼女の出てきた瞬間に自分を見つけてゲンナリしている表情を見て、エドワードはまた自分が間違ってしまったことに気付き、自身に対して憎悪を抱いた。
いつもならば、これが社交の場であったならば、エドワードは絶対に正解の選択肢を選ぶことができるのに、ベルティア相手にはそれができない。
もどかしいほどの彼女への想いが、募り募って変な方向に自分を突き動かしてしまう。
嫌われたくない、好きになって欲しい、そんな思いばかりに支配されて、気がつけば彼女を振り回してしまう。
付き合って2日目なのに、もう何度彼女に嫌われるような行動をとってしまったか分からない。
眼鏡で愛らしい顔が隠れてしまっているのもやりづらい理由のひとつだ。
まさか、辺境伯家の財政難がここまで酷いものだとは思いもしていなかった。
自分の目算の甘さに、嫌気がさした。
結局、朝食は共に食べられなかった。
どうしたら彼女の喜んだ顔が見られるのかと思考を巡らせていたところ、目の前に第3王子が現れた。
本来持ち込み厳禁の侍従を食堂に持ち込んだ挙句、食器を運ばせるとは本当にいいご身分だ。
「煤かぶり姫と食事をとるのではなかったのか?」
ニヤニヤした顔で尋ねられ、つい顔面に拳をめり込ませそうになったが、グッと我慢して微笑みを返す。
「彼女は学食を利用しておりませんでしたので………、」
(明日からは僕がご飯を作るんだ。家事メンは女性に好かれると本に書いてあったしな。よかった、プロポーズ全集と一緒に料理本も買い集めておいて)
彼女の胃袋を掴まんとする為に、付き合ってもいない相手の為に、古今東西の料理本を手に入れたのを見た幼馴染の従僕は呆れ返っていたが、エドワードはやると決めたことは徹底的にやる主義なのだ。
エドワードを馬鹿にする言葉をひとしきり吐き出して満足した第3王子が、授業をサボるべく中庭へと繰り出すのを横目に、エドワードは彼女の食の好みを知る為に、魅惑の笑顔全開で食堂で働く夫人に話しかけに向かい、彼女が甘いものや甘辛い味付け好きで、苦味のある野菜が嫌いで、煮込んだ野菜が大好物であるという素晴らしい情報を手に入れたのだった。
頭の中にひょこっと現れたイマジナリー従僕が、『さっさとくたばれストーカー野郎。お前みたいな顔のいい変態が1番たちが悪いんだよ』と言ってきたし、実際昨日言われたが、そんなものは関係ないし、どうでもいい。
エドワードには、あと3ヶ月以内にベルティアに惚れてもらい結婚してもらえるほどの信頼と愛情を手に入れなければならないという、無茶を達成しなければならないのだから………。




