15 光の貴公子と告白
高位貴族の、筆頭公爵家の子息としての付き合いの一環で参加していたサロンでの出来事だった。
発端はいつもの馬鹿王子。
子育ての天才と謳われるあの王妃ですらも困り果てるほどの問題児、第3王子の安易な提案によるものだった。
『賭けの罰ゲームは、煤かぶり姫に告白して付き合うことな』
いつも通りのチェスが、瞬間、怒りに染まったものへと変化する。
視界が真っ赤になる程の怒りを、憎悪を、エドワードは初めて抱いた。
この中で最も強いエドワードにとって、負けることは至極簡単だった。
ギリギリの勝負に見えるよう調節し、どんどん負けていく。
第3王子の笑みがどんどん深くなり、嘲りがエドワードに向けられる。
痛くも痒くもないそれを流しつつ、飛び出しそうになる拳を必死になって押さえ込み、笑顔の裏に隠し込む。
エドワードが罰ゲームを行う事が決まり、何度も王子には釘を刺された。
そんなにエドワードが周囲から見れば屈辱とも言える行為をする事が面白いのだろうか。
第3王子の悪趣味極まりない腐った性根は、いっそのこと賛辞を送りたいほどだ。
彼女に自然と近寄る口実を得たエドワードは、正直あまりの興奮から告白の前日は眠れなかったし、なんなら自分で純白の薔薇を摘み取って包装したし、告白場所と言葉は数時間悩みに悩み、巷で流行っているラブロマンスと言われる分野の本を買い漁り、部屋中に撒き散らすほどに読み込んだ。
そして、最高のプロポーズを作り上げたのだ。
指輪まで用意してしまった自分にいっそのこと苦笑を浮かべながら、深夜ハイテンションのまま学園に向かったエドワードは、そこではたっと気がつく。
(僕、最低すぎないか………?)
何故自分は今の状況をこんなにも喜んでいるのか。
彼女が馬鹿にされて、罰ゲームの景品にされて、なのに、告白する勇気すら出なくてうじうじ悩んでいた自分を棚に上げて、どうすれば喜んでもらえるかなんて考えておる自分に、いっそ怖気を抱いてしまう。
それどころか、見せ物みたいな告白と恋人付き合いを行うことが決定している事態に、自分が持ってきた状況に、それを行った自分に、憎悪を抱かざるを得ない。
けれど、もう引き返せない。
引き返したら、彼女にどんな仕打ちが待っているか分からない。
愛しのベルティア。
我が天使ベルティア。
我が最愛の女神ベルティア。
彼女を守る為ならば、自分はなんだってできる。
学園に入って初めて話しかけると、案の定彼女は冷たかった。
それどころか、無表情の奥に敵意を隠していた。
………心の奥底では分かっていた。
彼女が自分のことを覚えていないってことぐらい。
あの日、初めて会ったあの瞬間の事など、彼女にとっては何の変哲もない一幕であり、記憶するに値しない事だったと。
告白に頷いた瞬間の、絶望と苦悩、そして決意に満ちた冷たい彼女の表情を、エドワードは一生忘れないだろう。
身分を盾に交際を申し込んだと取られてもおかしくない行いをしたのは他ならぬエドワードだ。
実際、この告白と交際は自分以外にとっては罰ゲームの一環。
10年来の壮絶な初恋をこんなところで終わらせたくない。
終わらせられたらたまったものではない。
ここからがスタートラインだ。
彼女に好かれる自分になるんだ。
彼女の興味を引く自分になるんだ。
花束さえも受け取ってもらえなかった現実を受け止め、隠していた指輪を握りしめたエドワードは、図書館に向かう彼女の背中を必死で追いかけた。




