14 光の貴公子
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エドの母は、誰よりも美しい人だった。
妖精のようにふわふわしていて、綺麗で、雪みたいに儚い人だった。
不倫相手が主人の屋敷でメイドとして働きながら、不倫相手との子であるエドを育て上げるくらいに肝が据わった女性でもあった。
そんな母も、病には勝てなかった。
4歳の時、流行り病になす術もなく命を落とした。
小さい身体で一生懸命に行った看病、必死になってありとあらゆることを試した1ヶ月は、今でもエドの記憶に深く刻み付けられている。
母が死んですぐ、公爵夫人が自分を引き取ると宣言した。
この時まで、自分が間違いでできた子供だったなんて知らなかったし、思ってもみなかった。
エドからエドワードに名を改めたエドは、公爵夫人からは虐められるわけでもなく、思いの外大事に育てられた。
ご飯も、服も、玩具も、教育も、全部しっかりと与えてもらえた。
愛情もそれなりにもらった。
恋人との火遊びの間にふらっと帰宅しては、兄と自分を死ぬほど可愛がっていた。
今思えば、公爵夫人は自分は子供を持てないと理解しながらも、子供が好きなのだろう。
公務嫌いにも拘わらず孤児院慰問だけは昔から積極的だったらしいし、そうでなければ、自分の夫が他の人と儲けた子供を可愛がれるわけがない。
でも、自分にはそれが逆に辛くて、子供ながらに申し訳なかった。
元々社交的だった性格は引っ込み思案になり、外に出るのも、人に挨拶をするのも苦痛になった。
でも、ある時出会ったのだ。
―――天使に。
その子は自分と同い年のはずなのに自分よりもずっと落ち着いた空気を纏っていて、凛と真っ直ぐで、まるで黒百合のような美しさを纏っていた。
黒薔薇のように華やかな容姿なのに、百合のように静謐で、神秘的で、そんな彼女に、エドは一目で恋に落ちた。
もじもじする自分に、公爵夫人は楽しそうだった。
話しかけたらと揶揄われて、背中を押されて、一生懸命話しかけて、ほんの少しだけ浮かべてくれた笑顔が、今でも忘れられない。
いつからか煤かぶりと呼ばれ始めた彼女からは、笑みが消えた。
2度目に会ったときには、もう面影もないほどに憔悴してしまっていた。
理知の輝きはなりを潜め、ただ静かな水面のように息を潜めていた。
話しかけたかった。
守りたかった。
彼女と話す為に、賢くより難しい討論を望む彼女のために、必死に勉強をした。
教師たちも兄も、父も、母も驚く程に、彼女の為だけに、努力を重ねた。
けれど、容姿のせいで『光の貴公子』だなんて大層な綽名のついたエドワードは、彼女に近づくことさえもできなくなってしまった。
何度も機会を窺っては、挫折して、弱っていく彼女を遠目に見つめては、帰宅後に布団の中で反省会。
そうやって月日は流れて、学園に入学して、彼女と同じクラスに入れたことを喜び、恋人生活を夢見て、夢見て………、そして、何も起きないまま卒業間近になってしまった。
元婚約者とは元々上手くいっていなかったし、彼女に一途な自分を知っていた良い意味で自分に無関心な両親は、元婚約者である王女と適当に婚約破棄をするなり、愛しの彼女と愛人関係になるなり好きにしろというスタンスだったが為に、元婚約者とは一切の関わりを絶っていた。
第3王子が元婚約者と恋人関係になってくれたとき、エドワードは歓喜した。
当たり障りなく別れられる口実を見つけたからだ。
エドワードは努力した。
実家の庭師と付き合っていることが有名だった第3王子の婚約者が駆け落ちするよう、様々なものを用意した。
無事、自分と第3王子の婚約破棄が実現したときには、相当に歓喜した。
けれど、事件は起こったのだ。




