#08 優秀な冒険者?
なんとか七層のセーフエリアにたどり着いたノンタとキリオ。慣れないダンジョン探索で、体はくたくた。その日はそのまま、崩れ落ちるように眠りについた。
翌日目を覚ますと、そこはセーフエリアの一角、平らに削られた石の床上。毛布にくるまった二人が、もぞもぞと体を起こす。
周囲を見渡すと、同じように雑魚寝している冒険者たちの姿がチラホラと見えた。
空間は思いのほか広く、そして明るい。ダンジョンの中とは思えないほど光が隅々に行き届いていた。
「この明るさは一体……?」
眼鏡をかけ、上空を見回しながらつぶやくキリオ。近くで身支度をしていた冒険者に聞くと、魔石を使って外光に近い明かりを実現しているのだという。
「へえ、魔石……そんなものまであるのか」
感心しながら、ノンタと共に水汲み場へと向かった。噴水のように水が湧き出る場所で、顔を洗い、ノンタの水筒に水を補充していく。
その時だった。
「いい加減、うんざりなんだよ!」
野太い声が、静かなセーフエリアの空気を切り裂いた。
声のした方を見ると、四人組の男女が向き合っている。冒険者風の男が三人、そして魔法使いらしきローブをまとった女が一人。
大剣を背負った大柄な男、オールバックに整えた髪に太い眉、鋭い視線でもう一人の男を見据えていた。
「お前という男が、どういう奴かハッキリと分かった」
言われているのは、ブルーのマントを羽織り、腰に剣を差した茶髪の男だった。整った顔立ちに、困惑の色が浮かんでいる。
「どうしたんだリガード、話し合おうじゃないか」
だが、リガードと呼ばれた大柄な男は、何度か首を横に振ると、
「ここでリーダーとして申し渡す!」
そう言って、人差し指を、茶髪の男へまっすぐに突き立てる。
「クライフ、お前はパーティー追放だ!」
セーフエリアの空間に、その声が大きく響いた。周囲の冒険者たちも、固唾をのんで見守っている。
しばらくして、
「あとは、勝手にするがいい」
そう言い残すと、リガードは残りの二人と共にその場を去っていった。
その様子を見ていたノンタ、キリオの腕を肘で軽く小突くと、小さくつぶやいた。
「これってさ~、あれだよね~?」
「あれだな……」
キリオも小声で返す。
「いや~、まさか生で見られるとはね~、追放冒険者」
珍しいものが見れたとばかりに、その声に嬉しさが滲むノンタ。
「だな……」
なかば呆れ気味に言葉を返すキリオ、その内心では……。
(そうだった。ダンジョンのドタバタで忘れてたけど、この世界、いろいろベタな異世界だったよな……)
騒動が収まると、周囲の冒険者たちも、それぞれ探索の準備に取りかかり始めた。ただ一人、取り残された追放冒険者──クライフだけが、その場に立ち尽くしている。
「俺たちも準備して出かけよう」
キリオがノンタに声をかける。
「しめしめな展開だよ~」
にやりと笑うノンタ。
「え? どうゆうこと」
言ってることがわからずキリオが聞き返す。
「だってボクたち、このダンジョンを攻略本なしで進むんだろ~?」
ノンタの言う攻略本とは、昨日キリオがノンタから取り上げた『ダンジョンの歩き方(VIP用)』。
「もちろん」と頷くキリオ、ノンタが続ける。
「でもここには魔物や罠が待ち構えてるんだよ~、だったら優秀な冒険者のパートナーが必要じゃない~?」
「まー、そう言われれば……」
眼鏡に手をやり考え込むキリオ、そしてこちらに背を向け、一人たたずむクライフにチラリと目をやる。
「でも、彼が優秀とは限らないんじゃ……」
キリオがそう言いかけると、
「何言ってるんだよ~」
両手を腰にあて、自信ありげにキリオを見るノンタ。
「追放された者は、優秀って決まってるじゃないか~」
そう言って、キリオに暑苦しいほどのドヤ顔を見せつけた。
「決まってる……?」
半信半疑なキリオに対し、その後も自ら提唱する異世界ベタ理論を自信ありげに押し付けてくるノンタ。さらに、追い打ちをかけるように質問を切り出した。
「この旅の目的は~?」
「えっ?」
「あちこち旅して、この世界の人たちと触れ合うんだろ~」
ノンタの放ったその一言が決め手となった。
不承不承といった面持ちで首を縦に振るキリオ。それを見てノンタは、いそいそと一人立ち尽くす男──クライフの元へと向かった。
「あの~」
マントをまとった男の背へノンタが声をかける。
「……」
だが、うつむいたままの男から、反応は返ってこない。
顔を見合わせるノンタとキリオ。
(ショックで泣いてるとか……?)
もう一度声をかけようとした、その瞬間。
男は袖でさっと顔を拭うような仕草をしたあと、勢いよくこちらを振り向いた。
「やあ、君たち。何かお困りかい」
白い歯が光るさわやかな笑顔。茶髪をかき上げながら、そう問いかけてきた。
「え?」
(お困り? いや、お困りはどちらかというと……)
予想外の反応に、二人は思わず言葉を失う。
気を取り直しノンタが、尋ねる。
「え~と、なんか揉めてたみたいだから~」
「いや、お見苦しいところをお見せしたようで、失礼した」
落ち込んでいるかと思いきや、あくまでひょうひょうとした口ぶり。
「さっきのは?」
キリオが尋ねる。
「彼らとパーティーを組んでいたんだが、何やら誤解があったようでね」
ため息をつきながら、クライフは続けた。
「あの男、リガードというんだが……気っぷのいい男なのだが、少々短気なところがあってね」
「誤解というと?」
気になって再び質問するキリオ。
「まあ、誤解というか……」
言いにくそうに、顔を曇らせるクライフ。
「なんというか、私の能力の高さに、やっかみを覚えているのかも。彼もなかなか優秀なのに──惜しいことだよ」
その口ぶりは、リガードという男に同情をしてるようでもあり、同時に、どこか軽んじているようにも聞こえた。”残念”とばかりに芝居がかった仕草で額に手をやるクライフ。
その、いかにも憂いを帯びた表情を見つめながら、キリオは考える。
(自分で言うくらいだから、このクライフ、確かに優秀なのかもしれない……)
だが、激昂していたリガード、さらにクライフの擁護をすることなく、リガードに従った他のパーティーメンバー、そのことを考えると、どこか釈然としない思いが残った。
一方、ノンタはといえば──
「やっぱり~、一目見て優秀な冒険者だと思ったよ~」
持論が裏付けられたとばかりに、嬉しそうに何度も頷いていた。
「いやまあ、それほどでも」
ノンタの言葉を受けクライフ、謙遜する言葉とは裏腹に、髪をかき上げまんざらでもない表情を浮かべている。
「それで、君たちは?」
クライフが尋ねてくる。
二人は、あちこちを旅しながら国を見て回っていること、ダンジョンは初心者ながらなんとか七層までたどり着き、さらに下層の十層を目指していることを説明する。
実際は七層までショートカットして来たことは、伝えるのが憚られ黙っていた。
「そういうことなら──君たちに、同行しようじゃないか」
話を聞き終えたクライフは、こちらが頼むより先に、参加を申し出た。白い歯を見せ、任せておけ、とでも言うように、親指をぐいと突き出した。
「困っている人を見過ごすわけにはいかないからね」
(いやー、別に困ってるって、一言も言ってないけど……)
キリオは、心の中でそっとつぶやいた。




