#06 街の名物料理
”笑うことを忘れた”この国の王である、大魔王・ガルボン。その子、王子チルロから「父を笑わせてほしい!」と頼まれた芸人コンビのノンタとキリオ。まずはこの地を見て回ろうと、乗り合い馬車に揺られ、旅を続けていた。
二人を乗せ街道を進む馬車が速度を落とし、とある地方都市の停車場で止まった。
「オーギィリー、オーギィリー」
馬車を操る御者が街の名前を知らせる。
大きな街らしく数名の乗客が馬車から降りていく。顔を見合わせたノンタとキリオ、誘われるようにその後に続いた。
石畳の通りに降り立つと、二人目の前に広がっていたのは、賑やかな街並み。交通の要所らしく、飲食店に土産屋、宿屋が軒を連ね、行き交う人々の数も多い。人間とともに、獣人やエルフ、ゴブリンの姿も混じり、活気に満ちていた。
物珍しげにキョロキョロしながら周囲を散策する二人。
「くんくん……」
とある路地の一角で、ノンタが鼻を鳴らした。
「なんの匂いだろう~」
誘われるように、ふらふらと歩き出す。
匂いの先にあったのは、一軒の屋台。何かの肉を焼いているらしく、香ばしい煙がもうもうと立ち上っている。
「へい、らっしゃい!」
威勢のいい声を上げたのは、頭に鉢巻をした店主のリザードマン。鱗に覆われた太い腕を伸ばし、大きな手で何かの串刺し肉を器用に返しながら焼いている。
「お腹空いた~、ちょっと食べていこうよ~」
ジュウジュウと脂を滴らせる肉に、目を輝かせるノンタ。確かにその光景は魅惑的に映る。だが、
(こんな、観光気分でいいのかな……)
ふとキリオの頭をよぎる不安。二人の旅の軍資金は、王子であるチルロが捻出してくれたものだ。いや正確には、王子が差し出した小遣いを、「さすがにそれは」と受け取るのをためらっていたところ、
『では、私からの依頼ということで』
執事のザパスが助け舟を出してくれたのだった。
『どうか、我が国王の笑顔を取り戻してください』
そう言って、ザパスは包んだ路銀を手渡してくれた。ありがたい話ではあるが、このお金に頼りきりというわけにはいかない。どこかで何か仕事を探さなくては──。
そんなことを考えるキリオをよそに、ノンタは屋台の前から一向に離れる気配がない。今にもよだれを垂らしそうな顔で、じっと串焼き肉を見つめている。
「はー……」
小さくため息をつき、キリオは観念して串焼き肉を注文した。
差し出された焼き立てを、キリオがかぶりつく。
(うまい!)
香ばしいうまみが、口いっぱいに広がる。味付けは塩と香草のみとシンプルだが、さっぱりとした肉の脂と絶妙に絡み合い、絶品だった。あっという間に平らげたノンタが、二本目に手を伸ばす。
「高級焼き鳥みたいだね~」
すっかりご満悦のノンタ。
「どうだい、気に入ったかい?」
店主が声をかけてくる。
「もう最高~、でもこれ何の肉だろ~?」
ノンタの疑問に店主が答えた。
「ギガント・オオトカゲの肉さ」
「「オオトカゲ?」」
思わず声を揃える二人。
「ここ、オーギィリーの名物でさー」
自慢げに胸を張るトカゲ男、じゃない、リザードマン。
「へー……」
なんとも複雑な心境で、リアクションに困る二人。あれほど美味かった串焼き肉が、急に味を失ったような気がした。
そんな二人に構うことなく店主は話を続ける。
「あんたら見ない顔だが、旅の人かい?」
「え~、あちこちのんびり見て回ろうかと~」
のほほんとした顔で答えるノンタ。
「いえ、仕事を探しながら旅をしてます」
お気楽なノンタをひと睨みして、キリオが慌てて訂正する。
「ほー仕事探しかい、それならダンジョンに行くといいんじゃないか」
「ダンジョン?」
「町はずれに点在するダンジョンさ。ダンジョン深層で採れる希少な鉱石は、高値で買い取るって話だし──ついでに、こいつを狩ってきてくれるとありがたいね」
店主が、手にした肉の塊を掲げて見せる。
「「?」」
「ギガント・オオトカゲさ」
二人のキョトンとした顔をよそに、店主が続ける。
「こいつはダンジョンに巣くってるトカゲでね。やっつけて持ってきてくれりゃ、うちで買い取ってやるぜ!」
任せろとばかりに、たくましい腕を組み二人を見るトカゲ男、じゃない、リザードマン。
相変わらず、リアクションに困るノンタとキリオ。
「「はあー」」
なんとも間の抜けた返事を返すしかなかった。
とはいえ、金になるかもしれない話ではある。とりあえず──と、二人はダンジョンへと向かうことにした。
リザードマンの店主に聞くと、一番近いダンジョンは、東の山のふもとにあるらしい。教えられた道を歩き始め、しばらく進むと次第に山影が迫ってくる。
周囲を行き交う人々も、剣を腰に差す者、大きな盾を担ぐ者、いつしか冒険者らしき身なりに変わっていた。
「異世界来たからにはやっぱり、ダンジョンだよね~」
嬉しそうに、足取りも軽く進むノンタ。その緊張感のない様に、一抹の不安を感じながら肩を並べるキリオ。
やがて道沿いに一軒の店が見えてきた。掲げられた看板に「武具屋」と書かれている。
その文字を見て、キリオはふと足を止めた。改めて自分たちの荷物を確認する。手にしているのは、身の回りの物を詰め込んだリュックひとつ。武器はおろか、防具の類も持っていない。
「ちょっと待て……俺たち、丸腰じゃないか!」
「あ~、確かに~」
のんびり頷くノンタの腕を引き、慌てて武具屋へと駆け込んだ。
店内には、大小さまざまな剣、斧、ハンマーなどが所狭しと並んでいる。冒険者気分を掻き立てられ、キリオは思わず目を輝かせながら店内を見て回る。
「ボクはこの剣にしようかな~」
ノンタが、店の入口に立てかけられた一本の剣を手にして言った。よく見ると、柄の部分に何か文字が彫り込まれていた。
『ダンジョン記念』
「お前それ、土産用の木刀じゃねーか!」
思わず声を上げるキリオ。
「あれ、バレた~?」
悪びれもせず、ノンタは笑いながら木刀を元の場所へ戻した。
結局二人は、それぞれ手頃な値段の剣と胸当てを求め、店を出る。
「よかったよ~、木刀ボケに気づいてくれて」
いたずらっぽい顔で言うノンタ。
「こんな時に、俺のツッコミ試すようなことすんな。だいたい緊張感なさすぎなんだよ!」
キリオの返しはツッコミというより文句に近い。
二人がそんな言い合いを続けるうち、視界の先に大きな石の柱が二本、並んで立っているのが見えてきた。
どうやら、その先に目指すダンジョンがあるらしかった。




