#02 冒険者ギルドのクエスト
事故に遭い、異世界へ飛ばされた芸人コンビ、ノンタとキリオ。草原の上で、いまだ状況に戸惑うキリオが、困惑ぎみに尋ねる。
「で? どうすんだよ。これから」
一方のノンタは焦った様子もなく、おっとりした調子で答える。
「まずは、あそこの街を目指そうよ~」
そう言って、前方に見える城壁に囲まれた、石造りの建物が並ぶ街を指差し言葉を続ける。
「まあ、セオリー通りなら、こういう場合は王様に会うか、冒険者ギルドに行くと決まってるし~」
「セオリー……、どこまでもベタだな」
キリオがジト目でツッコミを返した。
そのまま二人は街へ向かって歩き始める。大きな門をくぐり街の中へ。すると、ノンタが何かを見つけた。
「あっ! 見てみてあそこ~」
指さす先、街の入り口近くに建つ大きな建物。木製の看板が掲げられ、そこにこう書かれていた。
『冒険者ギルド』
「都合良すぎだろ!」
思わず声を上げるキリオ。さらに、あることに気が付いた。
「てか、文字読めるんだな?」
彼の疑問に、ノンタはひらひらと手を振り答える。
「ノンノン、そこに疑問を持っちゃいけないよ~。異世界って、そういうものだから。文字も読めるし、会話だって、きっと普通に通じるんだよ~」
「まじか……ある意味、海外行くよりハードル低いな、異世界」
半ば呆れたようにキリオはつぶやいた。
そのまま二人は、その建物へ足を向ける。建物正面、丈夫そうな扉の前に立つ。
「やっぱりあれかな……中には屈強な冒険者であふれてたり?」
キリオが扉を見上げながら言う。
「壁には依頼書がペタペタ貼ってあって~」
とノンタが続ける。
「制服を着た受付嬢がお出迎え、みたいな……」
「でも、気をつけないとね~。荒くれ者の冒険者に絡まれたりするかもしれないから~」
「いや、そっちのパターンはいらないんだけど」
キリオが即座に否定すると、ノンタが鼻の下を伸ばしながら言った。
「まあね~。どうせなら、可愛い猫耳娘と鉢合わせとかってパターンがいいな~」
「相変わらず、お気楽なやつ……」
そう言ってキリオはノンタをひと睨みしてから、
「いいか開けるぞ」
緊張した声でそう言うと、一度眼鏡の中央を押し上げた後、扉の取っ手に手をかけた。ゆっくりと開いていく扉、すぐに、二人の耳に喧騒が届いた。
室内は石造りの壁に囲まれた広い空間。使い込まれた木のテーブルがいくつも並び、その上には酒や食事が乱雑に置かれている。壁際には剣や槍などの武器が立てかけられ、掲示板には無数の依頼書が貼られていた。
そして多くの人、ざわめき、怒号、笑い声。活気に満ちた、まさに“冒険者ギルド”そのものの光景が広がっていた。
「ベタだ……」
「ベタだね~」
喧騒を前に立ち尽くす二人、それ以外の言葉が見つからなかった。
キリオはゆっくり周囲を見渡し、安堵の声をあげる。
「見る限り、絡んできそうな荒くれ者は見当たらないな……。てか、なんかスゲー顔色悪いやつがいるけど!」
テーブルに頬杖をつき、気難しい顔で、木製ジョッキをあおる一人の男。ノンタもちらりと視線を向ける。
「よく見て~。悪いのは顔色だけじゃなくて、全身だよ。きっと、あれはゴブリンだね~」
「マジか! さすが異世界! 亜人とかもいるんだな」
改めてよく見ると、あちこちに人間以外の種族が混じっている。
獣の耳や尾を持つ者。ずんぐりとした体格の小柄な男。筋骨隆々で牙を持つ者──知識通りなら獣人、ドワーフ、オークだろうか……様々な種族が、同じ空間で肩を並べていた。
「てことは、あそこにいる耳がとがった男は……」
キリオの視線の先。長身で、すらりとした体躯。そして特徴的な、とがった耳。
男に目を向けたノンタ、うなずきながら答える。
「そうだね……あれはきっとエルフだね~」
「おお、あれがエルフか……。しかし、よく見ると──」
そこで言葉を止めたキリオ、だがノンタが容赦なく続ける。
「しょぼくれた顔してるね~」
「言葉に気をつけろよ……でも確かに、エルフってだいたいシュッとした顔してるイメージだけどな」
キリオの言葉にノンタは肩をすくめて言った。
「ま~、全てがベタだと思うなってことだね~」
「それ、誰が誰に言ってるセリフだよ?」
キリオの言葉を、ノンタはとぼけた顔で受け流した。
その時、カウンターの奥から一人の女性が姿を見せた。制服を着た受付係──ヒロイン登場! かと心躍らせる二人。
カウンター越しに立つ彼女は、制服の上からでもわかるスタイルの良さ……? はち切れんばかりに筋肉が盛り上がった二の腕。がっしりとした広い肩幅。別の意味で大きく厚い胸板。
そのへんの男どもを圧倒する筋骨隆々で恰幅のいい女性だった。
「……あの人が、冒険者ギルドの受付嬢〜?」
悲し気な声をもらすノンタ。
「みたいだな……」
「なんか違う~、もっとこう──」
そう言いかけたノンタの口を、キリオが慌てて、手で押さえる。
「言いたいことはわかるが、それ以上言うなよ」
「どうゆうこと~?」
「こっちの世界のコンプラが、元いた世界より緩いとは限らないからな」
諫めるような目でノンタを見ながらキリオが注意した。
「面倒くさ~」
小さな声でノンタがぼやいた。
その時受付嬢が、ぎろりと鋭い目でこちらを見た。刺すような視線、思わず目を伏せるノンタとキリオ。
「……どうする? 受付する~?」
「いや……今日は止めとこうか」
キリオが下を見ながら言葉を返した。
出直そうかと扉へ向かうノンタとキリオ。近くのテーブルで話し込んでいた冒険者たちの声が、耳に入る。
「なんか今日、誰でも参加できる、スペシャルクエストがあるらしいよ~」
話を聞きつけたノンタがすぐに反応する。
「スペシャルクエスト? どんな内容だ?」
「なんかね~、魔王の何かを崩壊させれば、金貨1000枚が貰えるらしいよ~」
「え? 魔王?」
目を見開き、キリオは思わず聞き返した。




