#12 大喜利タイム
「かんぱーい!」
木製のジョッキを掲げる三人。ノンタとキリオ、そしてクライフ。
街の中心地にある、古びた食堂。仕事帰りの職人や冒険者たちで、店内は賑わっている。
祝杯を交わす三人のテーブルには、次々と料理が並べられていく。どうやらここは、クライフの馴染みの店らしい。ドワーフの女亭主──マルタが、たくましい腕で鍋を振るっていた。注文するまでもなく、次から次へと美味そうな品が運ばれてくる。
こんがり焼かれた骨付き肉に、香草を巻いた「ロックバードの炙り焼き」。きのこの香りが溶け込んだ「森きのこのクリーム煮」。そして、厚切りにされた「岩塩漬けボアハムの炙り」。
「うわ~」
目を輝かせるノンタ。早速、口いっぱいに頬張る。
「く~、うま~!」
「だろー」
得意げな顔のクライフを横目に、キリオも皿に手を伸ばした。
ダンジョンで、特大サイズのギガント・オオトカゲを退治した後、三人はそのままダンジョン・セーフエリアの係員へ報告に向かった。
知らせを聞いて地上から降りてきたランドンが、現場に立ち会ってくれた。その彼曰く、あのオオトカゲは数十年に一度、出没するかしないかの「主」なのだという。
倒したオオトカゲの肉をどうするかと聞かれ、あの屋台の店主の顔が一瞬頭に浮かんだ。だが、あまりの巨体に持ち帰るのは難しい。結局、買い取りを申し出てくれたランドンに任せることにした。
また、採取した輝晶石も無事に買い取ってもらうことができ、三人はかなりまとまった金を手にすることができた。
「あんたら、じゃんじゃん食べなさーい」
新たな湯気を立てた料理を運んでくる女亭主。
「この子とは長い付き合いだけど、仲間を連れてくるなんて、珍しいからね~」
彼女は、嬉しそうにそう言った。
「余計なことは言わなくていいんだよ、マルタ」
拗ねたような顔でクライフが言った。
「いやでも、彼には助けられたんで……本当にすごい活躍だったよ」
助け舟を出すように、キリオがクライフの働きを称える。
「いや~、本当にね〜。一度も攻略本を使わずに済んだしね~」
ジョッキを手に赤ら顔のノンタが言った。
「攻略本?」
驚いた顔のクライフに、キリオがリュックから『ダンジョンの歩き方(VIP用)』を取り出すと、テーブルの上に広げて見せた。
「ほおー、こんな便利な本が存在してたとはね……」
感嘆の声を上げ、熱心にページをめくるクライフ。
「いやでも、この本があっても、あのオオトカゲのピンチは、切り抜けられなかったよ」
キリオが感謝のこもった目をクライフに向けると、
「ほんと~、ほんと~」
ノンタも調子を合わせる。
「いや、まあ、それほどでもないが……」
謙遜の言葉を吐きながら、誇らしげに髪をかき上げるクライフ。
「今日は、大いに飲もう!」
そう言うと、ジョッキを傾け、中身をぐびぐびと流し込んだ。酒が入り、勢いづいた彼は、ビアの泡を口の端につけたまま話を続ける。
「まー、ダンジョンの魔物など、恐るるに足らんのさ」
そこから、修業時代に戦った相手や魔物がどれほど手ごわかったか、それをいかにして打ち倒してきたか──とうとうと語り出す。
ノンタとキリオは、次第に引き気味になり、あいづちもおざなりに。ノンタに至っては、呆れたようなジト目を浮かべ「この話、いつまで続くの~」とでも言いたげな顔でキリオを見た。
二人の様子に、さすがにクライフも気づいたらしい。
「どうした、大人しくして。もっと楽しもうじゃないか! なんか面白い話とかないのかい?」
と、二人に話を振って来た。
「面白い話ね~」
そう言って、思案顔を浮かべたノンタ、すぐに意地悪そうに目を光らせると、
「大喜利タイ~ム!」
突然、高らかに宣言した。
芸人にはお馴染みの大喜利、飲みの場でやることも珍しくは無いが、
(なぜ今それを……?)
いぶかし気にノンタに目を向けるキリオ。だが、構わずノンタが続ける。
「それじゃ~、お題は~、『こんな冒険者は嫌だ~!』」
陽気な顔でお題を読み上げると、そのまま自ら答えた。
「すぐに嘘つく冒険者~!」
「ぶっ!」
思わず飲んでいた酒を吐き出すキリオ。
(こいつ、何ぶっこんでるんだぁ!?)
クライフの顔から、笑顔が消えた。
気にする様子もなく、ノンタがキリオに向かって手を差し出す。
「はいどうぞ~」
次はキリオの番、とばかりに振られて。
「常に二択を間違う冒険者ー!」
(やべっ!)
流れでつい、大喜利に答えてしまうキリオ。
笑顔が消えたクライフ、今度は血の気が失せ灰色の顔色に。
容赦なく、ノンタが続ける。
「わざわざ罠を発動させる冒険者~!」
さらに続けようとするノンタ。
「はいどうぞ~」
「いや、もういいだろう!」
見ていられず、さすがにキリオが止めに入った。
がっくりと首を垂れるクライフ。今にも、料理に顔をうずめそうなほどだった。
さすがに心配になり、キリオが声をかける。
「クライフ、大丈夫か?」
消え入りそうな声が返ってきた。
「ハハハ……すごいな、君たち。なんというか、いっそすがすがしいくらいの気分だよ」
弱々しい笑みを浮かべ、顔を上げたクライフ。すっかり大人しくなっていた。
神妙な顔のクライフに、キリオが小さく尋ねる。
「剣の実力だけでも十分なのに、なぜ嘘なんかを?」
考えるように黙り込むクライフ。しばらくして、ようやく口を開いた。
「ふー……私が目指すのは、ガルドだからね」
テーブルの上のジョッキに目を落とし、静かに答える。
伝説の冒険者・ガルド。それは、彼にとって、あまりにも大きな存在なのだろう。とはいえ、
「でも、このままだと……」
「わかってる。こんなことを続けても、信頼を失う一方だ……。それは、ガルドの名を汚すことにもなる」
そして、クライフはジョッキの縁に口をつけ、ぐびりと一口。
「今後は、慎むよ……」
最後に、そうぽつりとつぶやいた。
店の喧騒は相変わらずで、客足も途切れる様子はなかった。
隣のテーブルで飲んでいた職人風のドワーフが席を立つと、そこへ入れ替わるように、冒険者姿の若い女性が二人、その席に着いた。




