#10 パーティーメンバーとの再会
湿地のようにぬかるんだダンジョン十層。そこでノンタとキリオ、クライフたちの目に飛び込んできたのは、クライフの元冒険者仲間、リガードたち三人。
荒い息を吐きながら、木の根元に身を寄せ合うようにうずくまっていた。皆傷を負っているようで、中でもリガードの傷はひどく、あちこちから血が流れていた。
「リガード」
クライフが心配そうに声を上げ駆け寄ると、リガードのそばに片膝をついた。
「……お前か」
つれない態度で返すリガード。残る二人も、クライフと目を合わせようとせず、気まずい空気が漂う。
「一体これは……?」
キリオが口を開く。
「襲われた」
短く答えるリガード。
「襲われた? 何に?」
「わからん」
首を振りながらリガードが答える。
「何か、でかいやつだった」
付け足すように言ったのは、エルガーと名乗る槍を手にした男。
その横で、魔法使いらしきローブ姿の女──エリスが、怯えた顔でつぶやいた。
「あんなの、見たことない……」
彼女の話によると、十層で乾燥肉を食べながら休憩をとっていたところ、突然、大きな魔物に襲われたのだという。松明の火が消えてしまい、敵がよく見えず、正体はわからなかったらしい。
「リガードが盾となって、私たちを庇って……こんなことに」
エリスが、震える声でそう言った。
「先へ行くなら、お前らも気を付けるんだな」
ぶっきらぼうながら警告を伝える、リガード。
「ああ」
短く答えたクライフ、荷物から小瓶を取り出し、リガードへと差し出した。
「ポーション? なんのマネだ。お前を追い出した俺に」
「困ったときはお互い様だ。それに、私たちなら大丈夫だ」
自信ありげにクライフが微笑んだ。
差し出されたポーションを黙って見つめていたリガード、急に声を荒げた。
「うんざりなんだよ!」
顔をゆがめ、吐きすてるように言葉を続ける。
「お前のそのなんでも知ってる、なんでもできる、そういう自信満々な態度、それと虚言癖もな!」
リガードが強い拒絶のこもった目で、クライフを見返す。そしてすぐに、苦しげに咳き込んだ。
沈黙が流れる。
(やっぱり……)
心の中で、キリオはそっとつぶやいた。一日ともに行動しただけで、キリオたちも、クライフの本性に気づいていた。
何か言い返すかと思われたクライフ。だが彼は、厳しい言葉を受けても何も言わず、静かに立ち上がった。
(さすがに傷ついたか……)
気になってクライフに目を向けるキリオ。
だが、松明の灯りに浮かび上がるクライフの顔からは、表情が消えていた。怒りも、悲しみも見えず、感情の一切を読み取れない、ただの無表情だった。
そのままクライフは、手にしていたポーションをエリスへと渡す。
「彼に使ってくれ」
リガードへと目をやりながら、そう言った。
「クライフ……なんで?」
戸惑うエリス。
「『全ての冒険者は仲間』──冒険者・ガルドの言葉だ」
エリスの目をまっすぐに見つめながら、クライフが言う。
「それは、パーティーが違えど変わらない」
そう言って、にこりと笑った。
そのまま一人、先に向かって歩き出すクライフ。
(え? 進むの……マジで?)
顔を見合わせる、ノンタとキリオ。それでも慌ててクライフの背中を追う。
湿地のぬかるんだ道をためらうことなく進むクライフの横に並ぶ。
「僕のこと失望したかい?」
つぶやくようにクライフが聞いた。
「いや……」
答えに詰まるノンタとキリオ。
それでも、キリオは確認せずにはいられなかった。
「リガードたちのあの傷を見て、それでも先へ行くと?」
「ああ」
前を見据えたまま、クライフが頷く。
「『挑戦する前から、あきらめるな』──冒険者・ガルドの言葉だ」
疑うまでもないとばかりに、確信した顔でクライフが言った。
「その冒険者・ガルドって~?」
ノンタがクライフに尋ねる。
「伝説の冒険者・ガルド。全ての冒険者の憧れと言われている男だ」
振り返ることなく、クライフが続ける。
「そして……私の父だ」
「え!」
松明に照らされたクライフの横顔は、どこか誇りに満ちていた。
「君は、その父を追いかけて冒険者になったと?」
キリオが尋ねる。
頷きながら、クライフが答えた。
「ああ。だが、追いつけるかどうか……」
「?」
「私が子供のころに、亡くなったのでね」
彼の返事を聞き、言葉を失うノンタとキリオ。水たまりの多い道に、バシャバシャという足音だけが響いた。
湿地は奥へ進むにつれ、ますます足場が悪くなった。踏み出すたびに足が沈む。三人は、要所要所に渡された板張りの木道の上を進んでいく。
だが、不思議と危険な気配は感じられなかった。
やがて、
「見ろ」
クライフが、前方を指さした。
湿地の中に、ごつごつとした岩場が盛り上がっている。その中に、何かキラキラとしたものが見えた。




