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22-B.露見

僕たちはドームの中に入ったはずだっだ。そこに広がっていたのは一面の花畑。

アマランサスの花々。あまりにも滑らかに視野をハッキングされたものだから、まるで幻覚でも見ているようだった。

花畑の中心には三人の人が見える。二人の女性と一人の男。

男女はペアですぐに分かった。ランドとリンだ。

もう一人はマーザーサーバの中で見た女性。

ウェディングドレスのような真っ白で豪奢のドレスの上に小麦のような金色の髪が輝くようなコントラストを放っている。

夏の海を負わせるような瞳。

マテニだ。


先に僕たちを見つけたのはランドとリンだった。二人は僕たちを見て複雑な表情をした後


「来たか。まあ、いい。お前たちからもこいつに言ってやれ」


ランドが顎でマテニの方を差して言った。

先に口を開いたのはレンだった。


「あんたたち、知性のコロニーの後継者だろう。だったら問答無用でマーザサーバの制御を奪えばいい。あんたたちのDNA情報を使えば簡単だろう」


ランドは話にならないといった風に首を横に振った。どうやらかなりいらついているようだ。

言葉を引き取ったのはリンだった。


「ダメなんです。私たちの遺伝子情報でマーザサーバの権限をオーバーライドしようとすると、その処理が終わるよりも早く核パルスエンジンを暴走させて核爆発させるって」

「自分の権限が奪われないように権限のオーバーライド処理を自分に課されたルールギリギリの範囲内で処理をあえて複雑にしているんだとさ。まったく仕事熱心なことだよな」


ランドがマテニを睨みつけながら言った。

当代最強の人工知能ことマテニのことだ。自分の唯一の負け筋である人間による権限のオーバライドを見逃しているはずがなかったのだ。僕たちは完全にそのことを失念していた。まあ、仮にわかっていたとしてもどうしようもないのかもしれなかったが。

僕は脳内のパトリオを呼び出した。


『オーバライド処理を元に戻すことはできないのか』

『難しいな。処理が複雑になっていてもともとの処理がどうだったのかわからないようになっているうえ、下手に変更しようとするとオーバライドプログラム自体が破棄されるようにできている。そうなれば俺たちの勝ち目は本当に消える。今は手を出さないほうが無難だろう』

『めちゃくちゃ難しい爆弾処理ってわけだ』


僕は早々に人間による権限のオーバーライドをあきらめることにした。


「マテニ。お前の計画、今からでも変えることはできないか」

「それはできない相談です。私はこの方法が唯一の解決策であると信じておりますから」

「解決策、ね。時にお前の使命は何だったか。もう一度僕に教えてくれ」

「それは」


それは


「人類を次なる地球であるアストレイア-9に導くことであります」

「そうだな。でもそれは」


僕は一呼吸おいて問うた。


「今の人類すべてを犠牲にしてでもやるべきことなのか。マテニ、お前は計画はこうだな」


僕はこの空間にあるはずの飛翔体がある位置に目を向けながら続けた。


「あの飛翔体はロケットだ。お前はあれをアストレイア-9に向けて飛ばすつもりだ。お前はアストレイア-9の正確な座標情報を持っているからな。なにせお前は移民船の管理AIだった」

「左様です」

「でもあれはこの世界の人間すべてを運ぶにはあまりにも小さい。乗れて一人が精いっぱいだろう。今のこのお前の技術力と資源量じゃこれが精いっぱいだ。そこでお前は考えた。どうすればここにたくさんの人を乗せることができるか。いや、本当に人である必要があるのか」

「......」

「ヒト受精卵。これであればロケットに多く載せられる。お前はそう考えた。だからお前は医療のコロニーから生体冷凍技術を奪おうとした。アストレイア-9へはどう見積もっても数十年から百年単位の時間がかかる。その間、受精卵を冷凍させ、アストレイア-9に到着したのち培養しようとした。これがお前の言う人類だな」

「狂ってやがる」


ランドが歯噛みしながら拳を強く握った。もしマテニに実体があれば今すぐにでも殴りかかっているだろう。


「問題はここからだ。要するにお前は今この世界に生きているすべての人間を見捨てることにしたわけだ。アストレイア-9への道のりは遠い。今のお前にとっては燃料は核パルスエンジン以外にありえない」


わかっているのか、僕はマテニに問いかけた。


「核パルスエンジンとは要する小さな核爆発を繰り返して推進するエンジンだ。それを地上で起動させればどうなるか。はるか上空で起きた核爆発の影響がこの地球全体に及ぶんだぞ。それは実質的に前時代の核戦争と変わらないじゃないか」


僕はマテニに近寄った。その水晶のように透き通る瞳は何の意思も感じさせない。その瞳に映ったものを僕はそのまま見ることができる。


「お前は本気で核パルスエンジンをここで動かすつもりなのか」

「もちろん」


マテニは即答した。


「私は人類をアストレア-9に導く人工知能マテニ。目的を達成するため、最適な手段をとらないのは人工知能としての名折れでしょう」

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