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20-A.砲火

レイ・ヤンの死は僕からランド・リンに伝えられ、そこから周辺の人類すべてに伝えられた。彼女の死は人類世界を完全に一致団結させた。彼女はマテニとの戦争に殉じた。

同時に彼女の推測も伝えられた。それはまだ真実であると検証されたわけでもないのに、人類はそれがまさにマテニの考えていることだと完全に決めつけ、怒りに燃え上がった。

マテニの企みが成就すれば、もう一度核の冬がやってくる。マテニの企みに対する危機感を人類は共有していた。


レイ・ヤンの死をもって周辺のコロニーに残る指導者は知性のコロニーの後継者、ランド・ジョンソンとリン・ミラーだけとなった。人類はその二人のもとに集った。

ランドは言った。レイ・ヤンの死を無駄にしてはならない。今こそ知性のコロニーを人類のもとに取り戻し、人工知能マテニを止めるべきだ。人類はいかなる犠牲を払ってでもこれを成し遂げなくてはならない。武装のコロニーと医療のコロニーの人類は今ここに究極の団結を見た。

医療のコロニーの最も大きなホールで放たれた演説は残された人類たちを熱狂させた。その燃えあがりをそのままに人類は銃をとった。そうして怒りの中にあった人類は医療のコロニーと人類のコロニーの間に横たわる荒野を突き進んでいった。


知性のコロニーも無抵抗ではなかった。医療のコロニー襲撃時の無害な群体ロボットは姿も形もない。

重厚な巨躯と重砲を備えた巨象のようなロボットたちが列をなして、人類の攻勢を防がんと立ちふさがっていた。

荒野。人類は移動用のピックアップ、土嚢、ロボットの残骸を用いて即席の遮蔽物を作り、この何もない荒野を辛うじて人類が踏みとどまれる戦場としていた。

僕は戦う人類の中に紛れ込んでいた。レイ・ヤンの死を目の前で見ていた僕に対して、人々の関心は意外と大きくなかった。どういうつもりかランドとリンが僕の存在を公表しなかったことが幸いしているようだった。


目の前に立ちふさがるロボットは大きく2つに分けられる。戦車にあたる巨象のようなロボット。ちょうど鼻にあたる部分が巨砲と化しており、砲撃のたびに鼻が真っ赤に発火する。砲塔は柔軟に動くため、側面に回り込めばどうにかなるという希望は早々に打ち砕かれた。

もうひとつはライオンのようないで立ち。知性のコロニーを守る犬型のロボットよりひと周りは大きい。戦車に随伴する歩兵の役割で戦車に食らいつこうとする人類を追い払っていた。

押しつぶす。マテニのその意図がこれ以上ないくらいに強烈に伝わってきた。

それでも彼らの動きは緩慢だった。必要以上にこちらを攻撃せず、彼らの守る前線を超えようとしたものだけをまるで羽虫でも追い払うようにけだるげに射撃した。巨象の主砲が使われたのは最初の数回のみで後の攻撃はすべて象の方に当たる位置に存在する小さなマシンガンだった。小さなというのは巨象の主砲に比しての話であり、一発でも人体に掠めれば当然無事では済まないのだが。


戦線が膠着していたのは人類側の善戦もあった。人類はまず数で圧倒的に優位だった。誰かが前線を退いてもまた別の誰かが戦意十分で補充されてくる。シンプルな数だけで言えば、十倍以上の差があるだろう。

それに医療のコロニーの医療技術もこの善戦に一役買った。傍目に見て明らかに致命傷のような傷であっても医療のコロニーの技術はたちどころに治してしまう。さすがに脳まで完全に元通りとはいかないようだが、逆に言うとそれ以外の部位であれば全く問題ないようだった。それが人類側の士気を明確に高めた。いくらけがを負っても死なない。いや死ねない。であればもう目の前の敵に向かっていくしかないのだ。


人類側にとって最大の問題は圧倒的な火力不足だった。人類が汎用的に運用できるのはせいぜい小銃の類である。巨象どころかその配下のライオンの装甲にすら傷をつけられない。個人携行できる対戦車砲もいくらかあったが、

ライオンたちは目ざとくその持ち主を見つけると簡単に制圧し、対戦車砲を踏み砕いてしまった。

僕は砲火のもとで決意を固めた。今ここを越えなければ、マテニのもとにはたどり着けない。

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