17-A.告知
知性のコロニーから僕が連れ出したスミコは医療のコロニーが運営する病院にすぐさま担ぎ込まれた。僕は生まれて初めて人間が人間を診察しているのを見た。
それから見たこともないような機器の中に放り込まれて、次々と検査されていった。
僕はそれをただただ見ていることしかできなかった。
検査は丸一日かかった。そののち、スミコはとある病棟の個室におさまった。
病室は穏やかな光に包まれている。消毒液のほかにわずかにフローラルな芳香剤の匂いもする。
ベッドの上のスミコは驚くほど安らかな表情をして眠っている。顔からこわばりが抜けて、全身から力が抜けているのが分かる。リラックスしていると言っていいだろう。
少しして、看護師が点滴を入れ替えるためにやってきた。点滴。そんなものすら知性のコロニーの病室にはなかった。医療のコロニーとの差は千年は離れているといってもいいだろう。
スミコが目を覚まし、看護師と何かを話している。落ち着いた様子だ。
看護師がにこやかに部屋を後にした。
僕はスミコに語り掛けた。
「スミコ、調子はどう?」
「ええ。おかげさまでかなり良くなったわ。さすがは医療のコロニーね」
「それはよかった。これからきっとどんどん良くなる。結核なんて前時代では簡単に治る病気でそもそかかりようもないくらいだったんだから」
「そうね」
スミコはにこやかに答えて、少しせき込んだ。
「こういうとき、マテニみたいな人工知能が少しうらやましくなるわ」
「どういうこと?」
「だって人工知能には体がないじゃない。だからもともと病気にもならない。ずっと元気でいられる」
「でもその代わり、心だってないんだ。スミコは今こうしてここで生きているからこそスミコなんだ」
僕がすかさずそう言うと、スミコはそうね、あたしなにいってるんだろう、と照れくさく笑った。
また病室の扉が開いた。看護師が今度は僕を呼んでいる。
僕は健康体であるはずだが、なぜか診察室に通された。そこには沈痛な面持ちの男性の医師が一人、僕を待っていた。
僕が対面の丸椅子に座ると、医師は切り出した。
「スミコ・ハヤシさんの親類の方ですか」
「いえ。ただ彼女をここに連れてきたのは僕です。彼女には親類がいないから何かあれば僕が聞きます」
そうですか、と医師が言うと、彼の背後にあったホワイトボードが薄く光りだした。そこにはレントゲン写真やらなにやらが一気に浮かび上がった。僕にはそれが何を占めているのか皆目見当がつかなかった。
医師がそれらを見ながら説明を始めた。
結核は肺の病気であるが、末期状態となれば全身に菌が回り、肺以外の臓器不全も引き起こしてしまう。スミコの病状はそれに近いものとなっており、知性のコロニーよりもはるかに設備が整っている医療のコロニーでも完治するのは難しいということ。
僕は率直に尋ねた。
「スミコは、彼女は助かるんですか」
「結核は早期発見できればそれほど怖い病気ではありません。でもここまで進行してしまうと厳しいものがあります。主に投薬治療を進めていくことになりますが、結核菌が耐性を持っている場合、その確率はぐっと低くなってしまう」
医師は続けた。
「今後の見通しですが、今後は治療を続けて病気を完治させるだけではなく、ご本人にいかにリラックスして過ごしていただくかということも視野に入れていく必要があります。こちらについても一緒に考えさせてください」
視界が真っ白になっていく。まるで自分が巨大な泡の中にとらわれてしまったかのようにすべてが一枚の何かを隔てて手触りがない。
医師の口が動いているのが見えるが、その言葉は僕には届かない。
時間の感覚が失われてしまっていて、どれくらい経ったかわからなくなってから僕は診察室から出た。うすうすわかっていた。
スミコは助からないかもしれない。スミコ、レン、僕の三人で過ごすこと。それが彼女のたった一つの望みだ。それをかなえようと思えば、今のやり方じゃ時間が足りない。
このままじゃダメだ。
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