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16-A.分離

心理調整局から知性のコロニーの内外を仕切る扉までたどり着くのはわけもなかった。まがいなりにも18年近く住んだ場所だ。どこを歩けば安全かは手に取るように分かる。

真っ白な壁の間に佇む少し灰色がかった両開きの扉。背丈は僕たちの何倍もあり、侵入者と脱出者の両方を決して許さないという威圧感を感じる。


扉の近くには開閉のための端末がある。当然普通の構成員には開けられないようになっているはずだ。

ただし、知性のコロニーの後継者がいるのであれば問題ない。

パトリオのナビゲーションをもとに端末を操作し、承認画面を呼び出す。あとは二人のうちのどちらかが画面に手をかざすだけでよいはずだ。


僕は意を決して考えていたことを二人に告げた。


「二人は先に帰っていてくれ。医療のコロニーからの迎えがそろそろ来ているはずだ」


その言葉に二人は目を丸めた。

先に言葉を発したのはランドだった。


「何を言っている。脱出できるチャンスは今この時しかないぞ」

「そうだよ。また知性のコロニーの人たちがいつ襲ってくるかわからないんだよ」

「そうだね。でも、またいつここに帰ってこれるかはわからない。だから今ここでどうしてもやりたいことがあるんだ」


僕たちは自分から知性のコロニーに踏み入ったわけではない。レンに捕まることで連れ込まれた形なのだ。次に自分たちで入ろうとしたらとんでもない手間と時間がかかるだろう。


「やりたいことってなに」

「スミコを連れ出す」

「スミコってあの、お前の幼馴染か」

「そうだ。今いかないと間に合わないかもしれない」

「ダメだ。よく考えろ。ここでお前に何かがあれば、知性のコロニーを人の手に戻せる可能性は一気に下がる」

「それに私たちカケル君に何かあったら心配だよ」

「そこについては問題ないよ。多分スミコを助ける程度だったら知性のコロニーは僕のことを邪魔しないはずだ」


一応用心していくけどね、と僕は付け足した。

不服そうな顔でランドが言い返してくる。


「どうしてそう言える」

「証拠はないよ。ただ、そうだろうなって思うだけ」


これは僕の偽らざる気持ちだった。坂の上にある病院に向かうとどうしても目立つ。きっと次のタイミングではあそこまでたどり着けないだろうなという予感もあった。


「カケル・ミスミ。お前、心理調整局とやらでマテニと何を話した」

「なにって。別に大したことはないよ。君たちは?」

「知性のコロニーに恭順しろの一点張りだ。会話にすらなりゃしない。やはり所詮は機械だ。暴走しちまったらどうしようもない」


リンの方に視線をやると、彼女も同じだと言わんばかりに大きく何度も頷いた。

ランドがまた言った。


「カケル・ミスミ。お前とは違う話をしたようだな」

「そうみたいだね。でも、あんまり中身はなかったよ。彼女は是が非でも人類に宇宙に飛ばしたいようだ。で、今の人類にはその気がないと逆に怒られたよ」

「そうなんだ。どうして私たちとは別の話をしたんだろ」

「機械の気持ちが俺たち人間に分かるか。とにかく、カケル・ミスミ。マテニはお前にだけ何かするつもりだ。一刻も早くここを離れるべきだ」

「悪いけど、無理だ。スミコは今ここで必ず助ける。ここを逃せば間に合わないかもしれないからね」


僕はもう一度言い切った。僕たちの間に重たい沈黙がしばらく流れた。

先に折れたのはランドだった。彼は大きくため息をつくと


「もう好きにしろ。リン、行くぞ」

「え」


リンの腕をグイっとつかむと、承認画面に手のひらを押し付けた。

重厚な音とともに扉が開く。二人は一瞬だけ僕に目をやると、そのままするっと扉を抜けていった。

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