15-C.調整
部屋の中に座っていたランドは非常に不服そうな顔をしていた。足を組み、そのイライラを全身で表現している。
僕が腕の拘束を解くと、ランドは勢いよく立ち上がった。
「こんなところさっさと出るぞ」
そう吐き捨てると、ランドは部屋をすたすたと出ていく。僕とリンは慌ててその後ろを追いかける。
廊下には相変わらず誰もいなかった。ここがどんなところかわからないが、警備用のロボットくらいいてもいいようなものだが。
先頭を歩くランドが言った。
「お前らはどうやって出たんだ」
「私はカケルくんに助けてもらったよ」
リンが答えた。
ランドとリンが不思議そうに僕を見て答えを待った。
「僕は」
僕は少し答えに迷ってから本当のことを話すことにした。
「途中から腕の拘束がかかっていなかったんだ」
「扉の鍵はどうした」
「・・・・・・最初から開いてた」
ランドは大きくため息をついた。
「そんなわけないだろう」
「でもこうやって出てこれた」
「マテニはやはり暴走しているようだな。捕まえた人間を閉じ込めることすらできなくなっているとはな。奴の考えが俺にはわからんよ」
「本当に心当たりはないの。パトリオが助けてくれたとか」
「いや、本当に分からないんだ」
「リン、人工知能の考えを推測しようとするな。奴らはしょせん機械だ。人間と違ってエラーを吐くこともあるだろうさ」
おい、と言い返しそうになる自分に僕は気づいた。ランドの言っていることは別に間違っていないはずだ。
マテニとの会話の中で僕は何かに引っかかりを感じるようになっていた。
ずんずんと歩いていると、僕たちは何にも邪魔されることなく、囚われていた建物を出ることができた。できてしまった。
建物を出てすぐにはロータリーがあった。
「おい。知性のコロニーからどうすれば出られるんだ」
ランドが言った。
「カケル君、わかる?」
「まあ、大体はね」
白い部屋のある建物には一切窓がなかったのでコロニー内での位置を知る由もなかったが、出てみればなんのこともない。知性のコロニーの中で最も大きな幹線道路に面していることが分かった。
遠くから大きなバスが走ってくるのが見えた。
「隠れて。誰か来る」
僕がそういうと、三人で手近な茂みに隠れた。
しばらくするとバスがロータリーにやってきた。そこからぞろぞろと人が下りてくる。
リンが何かを言いそうになる口を慌てて押さえていた。
「っ!」
彼らの身なりは今まで見てきたコロニーのどの人よりも整っていた。人によっては上半身裸で過ごしている他のコロニーと比べれ彼らは核戦争前の世界の住人に引けを取らないといってもよいだろう。
しかしその表情は完全に死んでいる。目は落ちくぼみ、完全に光を失っている。常に口を半開きにして、つま先の少し先をぼうと見ながら両足をひきずるようにゆっくりと歩いている。老若男女、見た目はさまざまであるはずなのに全くの例外なく彼らは同じようなありさまだった。
今度は僕が声を出しそうなになる番だった。
それを感じ取ったのかパトリオが言った。
『どうした』
『同級生がいる。知性のコロニーにいたころに知った顔だ』
学校自体、何回か話したことのある顔を見つけてしまった。よく見ればひとりではない。ちらほらと見知った顔が混じっているではないか。
彼らは一様にさっきまで僕たちがいた建物に吸い込まれていく。
それを視線で追って、僕はその建物の名前をようやく知った。
調整局。
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