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15-A.脱獄

真っ白な部屋からふっと何か大きな存在が消えたような感じがした。

脳内でパトリオが言った。


『マテニが通信を切った』

『やっぱりそうか』

『わかるのか』

『なんとなく、ね』


ランドとリンが心配だ。今すぐここから出ないと。

それには障害が二つある。ひとつは手首の拘束だ。どうあがいてもひとりでこれを外すことは難しそうだ。電子ロックならパトリオのハッキングで外せるかもしれないが、それはまだ試していない。マテニにそれがばれれば、何が起きるかわからないからだ。

もうひとつはここから出るための扉だ。僕の目の前には真っ白な扉がある。黄金で瀟洒なドアノブが静かに誰かに回されるのを待っている。


ここはマテニの領域だ。気配がないとはいえ、センサーの類で僕たちの行動はすべて監視されているといっていいだろう。当然手錠を解除したり、扉を開けた段階でそれがばれてしまう。


パトリオにハッキングを仕掛けるようにお願いするのもダメだ。さっきまでの会話でマテニがこちらの通信を傍受できることもわかっている。そんなことをすれば、今から脱獄しますと大声で言っているようなものだ。


脱獄、か。そもそもここは牢獄なのだろうか。確かに真っ白で無味乾燥の場所であるが、埃一つない清潔ではある。コロニーを裏切ったものを閉じ込めておくには少し待遇がよすぎる気もするが。

それでもこの部屋には窓も人間が通れそうな幅のダクトなどもない。明確に何かを閉じ込める意図があってのことだろう。

今のところ良い案が思い浮かばない。今は別の話をするしかないか。

僕はパトリオに尋ねた。


『最終的にマテニは何を目指しているんだ』

『わからない。その手の情報は完全に秘匿されている。俺としては』


パトリオは何か言いよどんだ。


『なんだよ』

『カケル・ミスミ。お前のほうが奴と通じ合っていたように見えたが』

『そんなわけないだろ。僕は人間、奴は人工知能だ。君みたいに記憶領域を共有しているわけでもない』

『今の奴のことはもう俺にはわからない。奴はお前に質問に答えなかった。どうやって移住先のアストレイア-9に行くのかって質問だ。そんなことはありえない。人工知能は人を助けるための存在だ。そのような存在が人の質問に答えないことはあり得ないんだ。今のやつはむしろ』

『むしろ?』

『むしろ人間に近い。非合理的であいまいな言動はまさしく人間のそれだ』

『マテニが人に近づいているってこと? そんなまさか。それこそありえるのか』

『奴のプライベート領域に何かしらの異変が起きているのは確かだ。だがやはりそれ以上はわからない』


マテニの考えもわからない。ここから出ることもできない。手詰まりだ、だと僕は無意識で伸びをした。

あれ?

僕は自分の手をじっと見る。

自分の手を見ることができる。どういうことだ。


『手錠が外れてる?』

『気が付かなかったのか? とっくの昔に外れてたぞ』

『早く言えよ』

『黙っていたのはそっちじゃないか』


ゆっくりと立ち上がる。室内を見て回る。やはり扉以外にここから出る方法はないことがわかった。

僕は扉に改めて向き合う。旧式で豪華な見た目をしているが、しっかりとした電子ロックがついているのが見える。

試しにドアノブに手をかける。


「え」


ドアノブが回った。

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