14-B.対話
マテニがこの部屋にいる。僕は確かにそう感じていた。
マテニは人工知能だ。本当の彼女はこの知性のコロニーのどこかにあるマザーサーバ上で実行されているはずだ。
それはよくわかっている。
それでも僕は今この空間にマテニが満ちていると直感していた。パトリオによって拡張された感覚。それが僕にそう感じさせているのか。ここは彼女が支配する知性のコロニーのどこかだ。知性のコロニーの内部にはマテニの目や耳であふれている。この感覚はあながち間違ってもいないだろう。
全身が痛む。どうやらかなり手荒な方法で僕はここに運ばれてきたようだった。
僕は声を振り絞って言葉にした。
「二人は、ランドとリンはどこにいる」
マテニの声が天から降り注ぐようにして聞こえてくる。
「二人とも無事ですよ。今も同時並行でお話をしている最中です」
空中にモニタのようなものが表示される。実際にモニタが存在しているわけではない。おそらく僕のデバイスを完全にハックし、その視覚情報に割り込ませているのだ。その映像が本当であれば、確かに二人とも無事で、僕と同じように真っ白な空間に一人、椅子に拘束されていた。見たところ、二人とも黙り込んでいて何かを話している様子はない。
『パトリオ、この映像は本当か』
『おそらくはな。あと、この会話は奴には筒抜けだ。それを覚悟しておけ』
マテニが言った。
「そうですね。内緒話に混ぜていただけないのは寂しいですから」
「あんまりいい趣味とは言えないな。それで話、というのはなんだ?」
瞬間、僕はその音に耳を疑った。マテニはその言葉に息をのんだように聞こえたのだ。まさか。人間でもあるまいに。
知性のコロニーの主はゆっくりと話し始めた。
「カケル・ミスミ。あなたはどうして私と戦うのですか」
その言葉に自分の全身が沸騰するように熱くなるのを感じた。
こうなったのは誰のせいだと思っているのか。スミコが病を得たまま放置され、レンが人殺したのも誰のせいだと思っているんだ。拘束されてなければ、そこらじゅうのものに当たり散らしそうだった。
吐く息がだんだんと荒くなっていく。
僕は慌てて大きく息を吐いた。
マテニがいくら知性のコロニーを統べるほどの存在だとしても結局は人工知能だ。機械だ。
彼女に僕を煽る意図があるはずがない。単純に分からないのだ。だとしたらわざわざ彼女の言葉に怒ってやる必要などない。落ち着け。
パトリオは言った。マテニは暴走している。合理的な判断から外れて、傍目には理解できない行動をとっている。仕える対象であるはずの人間を過度に管理し、あまつさえ殺した。
知らなくてはならない。この当代最強の人工知能が何を考えているのか。これから先何をしようとしているのか
それを知らない限り、僕たちの勝利はない。
『カケル・ミスミ、大丈夫か。メンタルヘルスがかなり荒れているが』
『ああ。問題ない』
僕はマテニに言ってやった。
「そうだな。話をしよう。幸い時間はたっぷりありそうだしな」
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