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14-A.憧憬

自分が夢を見ているというのはすぐに分かった。

知性のコロニーの保育施設。僕たち知性のコロニーで生まれた子供たちがその大半の期間を過ごす場所だ。

床から壁、家具にいたるまでそのすべてが真っ白でふわふわしている。

万が一にもそこで過ごす子供に怪我をさせまいという優しさが垣間見える。

小さな僕はその片隅に座っているのだった。

知性のコロニーで子供が生まれると、すぐさま両親から離されてこの保育施設に運ばれていく。

核戦争で世界が様変わりする前、人間の育成には両親が関わっていたそうだ。知性のコロニーではその方法を不完全な人間にコロニーの宝たる子供を任せるなど言語道断であるとしてまさに前時代的な出来事としてあざ笑いすらしている。とはいえ、コロニー育ちの僕たちにどちらがよいかなど判断することなどできないだろうが。

子どもが生まれるタイミングは当然、両親となるコロニーの成員まかせであるわけだが、どうも一定の周期のようなものが存在するらしく、同時期に保育施設に入ってくる子供たちがそれなりに僕にもいたようだった。

いわば同期とも言うべき子供たちのうちにレン・トキムラとスミコ・ハヤシがいたのだった。

記憶の奥底に眠っていた二人の姿がこうして夢とはいえ僕の目の前に現れている。保育施設の中ということは学校についている寮に入る前だから5歳前後のはずだ。

夢の中の二人は今では考えられないほど屈託のない笑みを浮かべている。


「レン、いくよ。ほら」


スミコがレンに向けて大きめのゴムボールを投げた。レンはそれをキャッチする。

今度はレンが僕に向けてそれを投げる。僕が全身でそれを受け止める。

僕は自分が途方もなく幸福な気持ちに包まれていることに気が付いた。しばらくぶりの感覚であるから、はじめはそれが幸福であることすらわからなかったほどだ。

暖かな気持ち。僕はそれが夢の中の産物であることを知りながらかみしめるように味わっていた。

夢の中のスミコが言った。


「ねえ、大人になってもこうやって三人で仲良く暮らしましょうね」


その言葉を聞いて、僕はこれが夢というよりも古い記憶の再現であることに気付いた。そうだ。彼女はあの時確かにそう言ったのだった。

だから僕は次にレンが話すことだってわかる。


「スミコちゃん。ダメだよ。俺たちは大人になったらこのコロニーのために働く立派な人になるんだ。こんな風に一緒に遊ぶことなんてできないんだぞ」


そうだった。レンは昔、スミコのことをちゃんづけしていたのだった。スミコと呼ぶようになったのは一体いつからなのだろう。

スミコが僕のほうを向いて


「ねえ、カケル。レンが意地悪言うの」


レンも同じようにして


「カケル。お前からも言ってやってくれよ。俺たちはコロニーで働くために大きくなるんだぞ」


と僕の言葉を待つ。

そうか。あの頃から僕たちは何も変わっていなかったのか。最後にレンとスミコの病室に行ったことを思い出す。

僕はこの二人になんて返したのか。夢の中の自分の言葉を待ったが、当の本人は一向に話さない。


思い出しそうともがいているうちに夢の景色はどんどんぼやけていく。


目を覚ました。ゆっくりと広がる視界。そこはまた真っ白な空間だった。目に優しい暖かな光が室内を満たしている。それでも窓はない。間違いない。僕が保育施設にいたときのそれと全く同じものだ。

夢と違うのはそこにいるのは僕一人ということだ。椅子に座らされ、腕を背もたれに縛り付けられている。

目の前にはテーブル。対面には何もない。


いや。違う。


「おはようございます。カケル・ミスミ」


母性を感じさせる深さを湛えた女性の声。


「お話をしましょうか」

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