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6.サンタクロースっていると思う?

「母さんはさ、サンタクロースっていると思う?」


 ぼくがたずねると、母は目をぱちくりとさせた。


「え、サンタ?」


 クリスマス・イヴが翌日に迫っていた。

 冬休み初日のその日、ぼくと母は街を歩いていた。

 午前中に、父を見舞いに行った帰りだった。


 父は相変わらず元気そうだった。

 母がお見舞いのたびに持っていっていたたくさんの本がベッドの横のテーブルに積まれていた。

 他にやることもないからなあ、と父は何でもなさそうにつぶやいて頬をかいていた。


「父さん、まだ帰ってこれないの?」


 ぼくがそうたずねると、父はにっこりと笑い、それから残念そうな顔をしてみせた。


「もうすぐ帰れるそうだ。まあ、お正月までには間違いなく。だけどな、今日とか明日とかには無理だ。……ごめんな、今年のサンタクロースはお休みだ」


 父はぼくの肩に手を置きながらそういった。

 ぼくは、構わないや、と思った。

 父がちゃんと帰ってきてくれるなら。


「お前の欲しがってたものは、今日の帰りにでも母さんと一緒に買いに行くといい。クリスマスプレゼントには少し早いけど、まあ、お前も早いほうがいいだろう?」


 ぼくは笑ってうなずいてみせた。

 だけど、早くプレゼントがもらえるのが嬉しかったわけじゃない。

 そうした方が父が喜ぶだろうから、そうしたまでだ。


 そしていま、母は駅前通りのおもちゃ屋の前で足をとめ、ぼくをまじまじと見ていた。

 それから、にっこりと笑ってこう続けた。


「ああ、サンタね。いるんじゃないかな」

「……何で? 母さんは、見たことがあるの」

「ううん。でも、なぜだろうね、そう思うの」


 母はそういったあと、とぼけたような顔でぼくに言った。


「だからさ、今年のあなたのクリスマスプレゼントも、サンタさんに買ってもらえばいいんじゃないかな」


 今度はぼくが戸惑う番だった。

 しかしすぐに、いたずらっぽい表情に変わった母の顔を見て、それが冗談だと気がついた。


「ほら、妙なこと言ってないで、早く行きましょう。早くしないと、母さん本当に、今年はサンタさんに任せちゃうんだから」


 母はそう言って、おもちゃ屋の中へ入るようにぼくを急かした。

 店内はクリスマスの雰囲気に満たされていた。

 赤と白、雪とサンタカラーの装飾。

 緑色のリース。

 ぼくと同年代や、ぼくよりももっと小さな子どもたちが店内を歩き回っていた。

 そしてそれに寄り添うように歩く大人たち。


 その店の中で、ぼくは欲しかったゲームソフトを買ってもらった。

 昨年までのクリスマスプレゼントはちゃんと包装されており、端にリボンがついていた。

 ぼくはその包み紙をきれいにはがすのが苦手で、いつもびりびりと乱暴に破って開けていた。

 そんなぼくを見ていたせいか、母はその日、店員さんにクリスマス用の包装を断っていた。

 ビニール袋にパッケージのまま入ったゲームソフトを大事に抱えて、ぼくは店を出た。


 帰り道の途中で母が言った。


「明日、どうする? 父さんはいないけど、飾りつけはしておかない? クリスマスなんだし」

 母の申し出に、ぼくはあまり気が乗らなかったけれど、それでもうなずいておいた。




 新しく買ってもらったゲームソフトはとにかく楽しいものだ。

 その日の夕方から翌日までぼくは、一昨年に買ってもらっていた携帯ゲーム機を一時も離さなかった。

 あまりに一生懸命だったぼくを母は心配したのか、あるいは本当に人手が必要だったのか、ぼくに無理やりお手伝いを命じたりした。


 お風呂の掃除とお湯を張っておくよう指示されたぼくは、手早く掃除を終えるとイスに腰かけ、バスタブにお湯がたまるまでずっとその場でゲームをしていた。

 静かすぎたせいか、見回りにきた母がぼくの姿を見つけてあきれたように口にした。


「その集中力をもっと他のことに活かせばいいのに……勉強とか」


 いまのぼくなら、ゲームのおかげでこの集中力が身についたんだ、と反論するところだったけれど、当時のぼくにはこんなことしか言えなかった。


「だって勉強は面白くないんだもん」

「……そんなこと言ってると、将来苦労するんだから。いい加減にしないと、ゲーム禁止にするからね」


 そうやって母が不機嫌になった後も、目を盗んでゲームをやり続けた。

 冬休みだったし、他に友達と遊ぶ約束もなかったし、他にやることも見つからなかったから。

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