12.特別な夜
……そしてその夜にはもう、特別なことは何もなかった。
夕食を終え、ケーキを食べ、テレビを見て、おしゃべりをした。
ぼくは二人に、それまでのことを話した。
はじめにサンタクロースの袋を拾ったこと。
それと知らずに捨ててしまったこと。
あの妙なサンタとの出会い。
と、そこでふと思い出したのは、父が入院をしたあの日、街路樹の飾り付けをしていたのも青い作業着を着た男の人だったことだ。
ぼくは自分の記憶を怪しみながらも、それでもなぜサンタがそんなことをしていたのだろう? という疑問を二人に話した。
両親はあれこれ推測したあげく、そんなのわかりっこない、という身もふたもない結論にたどり着いていた。
父は病院の部屋に突然サンタが現れた話をしてくれた。
父はそのときちょうど本を読んでいて、突然見知らぬ人間の声がして、顔をあげるとそこにサンタがいたそうだ。
そしてサンタは、ぼくと知り合いであること、もしよかったらぼくへのプレゼントとして父を病室から連れ出したいのだと話した。
妙な話だと思ったそうだけれど、それでもその提案を快諾した。
ありえないことだとは思ったものの、そんなことが出来るのならばぜひともやってもらいたいと父は考えたらしい。
それから父は、どうして自分のことがわかったのか、サンタにたずねてみたそうだ。
彼は父の手の中にあった本を指さしながら、こう答えた。
「だってその本、あの子のものでしょう?」
そういってから、サンタは普通に歩いて部屋から出て行った。
確かにそのとき父が読んでいたのは、ぼくの持っていたシートン動物記だった。
その話をしてから父は少しでも飲みたいと母にお酒をねだったが、母は断固として許さなかった。
父は不満そうだったけれど、それでも上機嫌で、どこかから古いギターを持ち出してきてクリスマス・ソングを一人で歌いはじめた。
父は入院しているうちに酒を飲まなくても酔っ払う方法を得たのだろうか、なんてぼくは考えたけれど、その日そんな父を見るのは不快ではなかった。
最初母はあきれていたけれど、そのうち知っている曲が出てくると、一緒になって歌っていた。
そんなのんきな二人の様子を見るのはなんだか久しぶりで、ぼくはうれしかった。
やがてぼくは眠くなってうつらうつらしていると、時計の針が十二時に迫っていた。
父が身支度をしていたとき、再び玄関でチャイムがなった。
ぼくらは三人で玄関に出て行った。
扉を開けると、そこにはやはり、サンタクロースが待っていた。
彼は特段何もいわず、にっこりと笑ってうなずいただけで袋の口を広げ、父の病室へと空間をつなげた。
じゃあな、と父はぼくらに言い、袋の中のへ消えた。
袋の口はいったん閉じられ、それからまた開かれた。どこかへ行こうとする彼に、ぼくはまた声をかけた。
「ねえサンタさん、来年もまた会えるの?」
「ううん。今年は特別」
その返事は、ぼくにとってはショックだった。
会えるよ、と言ってくれると思っていた。
サンタクロースはこうして現実に存在している。
それなら、毎年、プレゼントを配りにきてくれるんじゃないか。
なぜだか、そう思い込んでいたから。
「……どうして?」
そう聞かれて、彼は不思議そうな顔をした。
「え? だって、別にぼくと会わなくたって、君たちはクリスマスプレゼントをもらってるじゃないか」
「でも、それは、プレゼントをくれるのはお父さんとかだし、……サンタさんじゃないじゃないか」
彼はちょっと首を捻り、それから人差し指をぴんと空に向けて立てた。
「サンタクロースは、子どもたちがプレゼントをもらいさえすればそれでいいのさ」
そうとだけ言い残して、彼は袋の中へと消えていった。
それ以来、ぼくは彼とは出会っていない。
彼以外のサンタクロースも見たことがない。




