エピローグ.サンタクロースになるんだからさ
息子にこの話を聞かせると、彼の最初の反応は、「絶対ウソだ。そうでしょ」だった。
強いて信じさせようとしたわけでもないけれど、ぼくはこう答えた。
「そう思うなら、おじいちゃんとおばあちゃんに聞いてみろ」
ぼくの両親は依然として健在だった。
父の病気は悪質なものではなかったらしい。
あのクリスマスイブから三日後に家に帰ってきて以降、入院した経験もなく、未だにぴんぴんとしている。
息子は真偽を確かめるべく電話をかけたものの、ウソだという期待通りの答えが返ってこず、不満顔をしていた。
そしてこうつぶやいていた。
「おじいちゃんも、おばあちゃんも、父さんも、みんなぼくをだまそうとしているんだ」
「お前な、いつからそんな意地の悪い性格になったんだ?」
「だって。サンタなんかいるはずがないもの」
ぼくは肩をすくめてみせ、去年までの態度はやっぱり演技だったんだな、などと考えた。
まあそんなものだろう。
純真だったのは、息子じゃなくてこっちだったか。
だけど、見抜けなくても仕方がない。
ぼく自身はサンタを信じているのだし、実際に会ったこともあるのだから。
「でも、どうしてサンタクロースはみんなにクリスマスプレゼントを配らないの? あなたの話なら、十分に出来そうなことだけど。それで、そうしてくれたら、我が家の出費だって減るのに」
話を横で聞いていた妻が、そんな感想を口にした。
昔ぼくは母から夢がないといわれたけれど、実際のところ、家庭の中にいる女性の方がよっぽど夢がない。
というより、夢なんかにかまけてられないんだろう。
「そうだよ。みんな、プレゼントが欲しいんだから。サンタだって、いるんなら出てきたっていいじゃないか」
息子も口を尖らせて、妻の主張に乗ってくる。
ぼくはため息をつき、お前たち、本当に夢がないんだな、といつか自分が言われたことを思う。
そうして、あの日以来、ずっと考えていたことを口にする。
「サンタクロースがいる、っていうのは、どういうことだと思う? たぶん、ただプレゼントを配る人がいる、ってことじゃないんだ。子どもがクリスマスにプレゼントをもらえること、大人がプレゼントを渡すこと、それこそがきっと、サンタクロースがいるってことなんだ。そう、お前も言ったろ? お父さんだって、サンタクロースなんだ」
息子はなんだか納得できない様子だったものの、その手には今日彼にプレゼントとして渡したゲームがある。
本は、どうやら部屋にしまいこまれてしまったらしいが。
まあ、すぐにわかるさ、とぼくは思った。
お前が大人になったころ、自分の子どもが産まれたら。
お前もサンタクロースになるんだからさ。




