代償
「主様・・・美波さまは復讐心をとられたらどうなってしまうのかを知っていらっしゃるのですか?」
「いや、知らないな。だがこれ以外に美波が助かる手立てはない。そうだろう?」
「確かにそうですが・・・仕方がありませんね」
私は復讐心を抜き取っている主様をだまってみていた。
復讐心は心の真っ黒なところのひとつ。そしてそれを抜き取られてしまうということは、心の一部を抜き取られてしまうことに等しい。
錯乱し、もしくは心のバランスを崩し、人間として生きていくのが苦しいと自ら命を絶つ人間も少なくない。
それでも、一時の心の迷いで自分の復讐心を他人に差し出してしまうのだ。その後の自分がどうなってしまうのかを想像もしないで・・・
この復讐屋は復讐が達成できると同時に、自分の大事な部分を失ってしまう。
だが、主様はそんな人間の脆い部分を見るのが好きだ。復讐に燃えている人間の心を見るのが好きだ。悪趣味、としか言いようがない。
「こいつは・・・心が尽きない」
「?・・・心が尽きないといいますと?」
「美波は普通の人間が抜かれると錯乱するような量を抜き取っても、平然としてるんだ。こんな人間は初めてだ」
主様がにやりと笑った。きっと美波さまの限界値を知ろうと報酬より多く抜き取っているのだろう。まったく、自分が気に入った人間が関わると加減というものを忘れてしまわれる。
「・・・・・・だめだ。僕もこれ以上は本に書ききれない」
復讐心は主様の能力で抜き取って、文字にして本に書き記される。ここの本はすべてそうして増えていったものだ。
「随分分厚い本になりましたね。美波さまのご容態はいかがですか」
「変わりない。周りに関心が薄いとはいえ、この量を抜き取られても錯乱しないか・・・面白いな」
美波さまはこれから主様に苦労させられるだろうとおもった。きっとこの方は、美波さまのことを離しはしないだろう。私のように。
しばらくすると、美波さまが目を覚まし始めた。起きたときにすぐ飲めるように、温かい紅茶を用意しておこう。
私は部屋の奥にあるキッチンへと向かったのだった。




