声
家に帰してもらった私は、次回あの部屋に行ったとき用にバイトの雇用に必要そうな書類(いままでバイトを色々してきた経験を生かして必要だったものを常に揃えている)を持ち歩くことにした。
いつあの部屋に行くことになるかわからないからだ。必要になったら呼び出すといわれたため、自分からはあえていかないようにしている。
そして月日がたち、私自身も忘れかけていたころ。私はふいにKとエルドのことを思い出していた。
なぜなら、あの時と同じ状況にいるからだ。また懲りずに屋上に呼び出され、今度こそ殺されかけていた。
私の背後には金具がぐらぐらしていて、数日前からコーンで囲われていたフェンス。
もちろん屋上も立ち入り禁止にはなっていたが、こいつらには意味がないらしい。当たり前のように職員室から屋上のカギを取りに行った。
教師たちは誰も、何も見ていないというふうにこちらを見もしなかった。むしろ顔を背けたり、急に話し込んだりし始めるのだ。
ひとりの生徒が髪の毛を引っ張られながら引きずられているというのに、誰も何も言わない。
屋上のカギを取りに来たということが、どれほどの危険をもっているか考えもしないで、自分たちは知りませんでしたと白を切るつもりだろう。
「・・・最悪」
心の中で思っただけだが、口から漏れてしまったようだ。
「あれ?ブス子ちゃんがなんか喋った?」
「ほーんとだ!でも今さらーって感じ。もうブス子ちゃんいじめるの飽きちゃったんだよねー」
「そこ、フェンスの老朽化で壊れる直前なんだって。だから生徒が入らないようにしてあったんだけど。ブス子ちゃん目障りだから、消してあげようとおもってさ」
全員ニヤニヤとしながら私を見ていた。落とすぞと脅しているつもりなのだろう。そんな勇気もないだろう、とおもって無視をした。
すると私の髪の毛を掴んでいた男が、思いっきり私を背後のフェンスに叩きつけた。そして・・・
ふわり、と体が浮いた感覚がした。そう、本当に落ちてしまったのだ。
脅すだけだったのだろうが、手は完全に私から離れてしまっている。私を叩き付けた男が焦ったような顔で上から見下ろしていた。
「・・・さすがに、あいつらのせいで死ぬのは腹が立つな」
私はあの部屋の紅茶を思い浮かべた。もう1度、あの紅茶を飲んでいればよかった。
「本当・・・最悪だ」
落ちる、とは意外と長い時間空中を漂うんだなと思い、私は意識を手放した。
「こんな状況になってから呼び出すとは、本当に雇い主思いだな」
その声は、私には聞こえていなかった。




