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ポップコーンちゃんとつまみ食い男  作者: 朝霧


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出会った頃の話(裏)

 世界を滅ぼす災いを殺すために身を捧げろと、生まれながらにそんな運命を決めつけられた人生だった。

 冗談じゃないと思ったので、剣の腕を磨いた。

 災い、終末の災と呼ばれるそれを殺すための生贄にならぬために。

 自分の力で殺すことができれば、自分は生贄にならずに済む。

 だからただひたすら戦って戦って、自分が殺す災いを探し続けた。

 そんなことを続けているうちに同族と出会った。

 同族は自分が生贄となり殺すべき存在と定められた災いをあえて殺していない者達だった。

 そいつら曰く、現代の災いそしてそれに対応する同族の数が多すぎるらしい。

 一つの時代に多くても一人か二人程度なのに、自分で四人目だと言う。

 きっと世界ってやつが滅びたがっているんだ、とそいつらの長を名乗る女はそう言った。

 けれども、滅んでほしくないから、死にたくないから生き続けると、そのために仲間を集めている、と。

 これだけ多くの災いが生まれているというのなら、いつか自分達の同族が失敗する時もあるだろう。

 その時のために、その時みんなで世界を終わらせる災いを止めるために、生きて足掻くと。

 馬鹿馬鹿しい、そんなことはどうでもいいと思ったが、無理矢理仲間に引き入れられた。

 それで初めて、本物の終末の災に遭遇した。

 いつかのための戦力として生かされているそいつらは、確かに世界を滅ぼす災いに相応しい性悪で、邪悪な存在だった。

 これと同じものをいつか自分は殺すのだ。

 長を自称する女からは殺すなと再三言われたが、構うものか。

 あんな邪悪を生かす必要などない、長を含む自分の同族はすでにその邪悪と命を共有してしまったので簡単にそうすることができないのだろうが、自分はそうなる前に殺してやる。

 そういうわけで協力する気など全くなかったが、奴らは情報を集める上で有益だったので、一方的に利用してやることにした。

 奴らは自分の同族を探していた、魔術師と終末の災、その両方を。

 終末の災は世界を滅ぼす力を持つ存在、だから強者を探せばいずれ。

 ただ、そうやって探し続けてみたものの、実際はその方法で終末の災が見つかったことなどないらしかった。

 それでも奴らが見つけた『強者』の元に赴いて、自分が殺すべき存在かどうかを確かめ続けた。

 自分の同族、ボサボサ頭で眼鏡の男はそんな自分を鼻で笑った。

 探さずとも、たとえどれだけ会いたくなくとも、自分達魔術師は絶対に終末の災と遭遇する運命なのだから、と。

 そう笑った男は自分の災いに会いたくないがあまり長年引きこもり生活を続けていたが、そんな努力も無駄に終わったということを随分後になって聞いた。


 とある荒野に隠れるように存在する実験施設で、途轍もなく強力な能力者を使った実験が行われているらしい、という話を長からされた。

 なんでも、成長しきればこの星全てのエネルギーをたった一人で賄える、そんな可能性のある者がそこにいると。

「ただ、その子はかなり非人道的な目に遭わされているみたいで。……だからさ、終末の災とかそういうのじゃなくても助けてあげたいんだよね」

 長はそう言った、普段は呆れるほど騒がしい彼女にしては珍しく暗い表情で。

「つまり、どうしろと?」

「その実験施設に行って、実験体にされてる子を助け出してほしい。なんか滅茶苦茶セキュリティがやばいっぽいけど、君ならそんなのへっちゃらでしょう?」

 両手を合わせた長に見上げられる、ようはいつものお人よしの助けたがりからの人助けの協力要請だった。

「……俺になんの利がある?」

「報酬は弾むよ。いつもの三倍でどう?」

 普段の依頼料もそこそこ破格だが、その三倍か。

 金に目が眩んだわけではないが、それなら受けてやってもいいかと思った。

 それにその実験体とやらが自分の災いである可能性がないとも言い切れない。

「……了解した、引き受けよう。ただしその実験体とやらが俺の災いだったら、その時は」

「だから殺さないでって言ってんじゃん!! ほんと頭かたいな……けど、言っても仕方ないっぽいし……極力殺さないで、とだけ」

 長は諦めたような顔でそう言って、小さく項垂れた。


 その実験施設とやらがある荒野に赴いた、セキュリティがやばいという話は本当だったようで、荒野に近付こうとしただけで執拗な妨害を受けたが、全て切り伏せた。

 共有された地図を端末で確認して目的の実験施設とやらに向かう。

 先程、妨害をいなしている途中で遠くの方から凄まじい轟音が聞こえてきた、察するにおそらく例の実験施設がある方向から。

 きっと何かが起こった。

 足を急がせる、妨害は先程までのが全てだったようで、もう邪魔するものはいなかった。

 遠くに目的の施設が見え、そこから少し歩いたところで『それ』を発見した。

 白く小さい何か、俯く小さな人影が。

 薄汚れた白衣のようなものを着込んでいる、何故か裸足だった

 その白い素足は土で汚れ血が滲んでいる。

 顔は見えなかったが、おそらく自分とそう年が変わらない少女。

 ひどく弱々しげなその姿を一目見て、すぐにそうだと気付いた。

 遭遇すればすぐにわかると聞いていたが、事実だったらしい。

 終末の災。

 自分が殺すべき災い、殺したくて殺したくて仕方がなかったそれが、今、自分の目の前にいる。

 心が歓喜で震えた、ようやく巡り会えたのだ、自分の運命というやつに。

 殺してやる、殺せるのだと証明してやる。

 世界を滅ぼす災い、それを殺すだけの力があるのだという、その証明を。

「こんな世界、ぶっこわしてやる」

 怨嗟と憎悪が籠った声が聞こえてきた。

 こちらに全く気付いていないらしい少女が、終末の災がそう言ったらしい。

 あまりにもそれらしいことを口にしたその終末の災にほんのわずかに感謝を。

 そうか、壊すのか、ならその前に殺してやる。

 躊躇いも容赦も不要だ、問答無用で殺してやる。

「滅ぼしてやる、こんな世界あっという間に……はは、ははは……止められるものだったら止めてみなさいよ、ねえ、誰か……ここに世界を滅ぼそうとしてる化物がいるわよ、止めなくていいの? …………いいわ、わかった、今すぐ滅ぼしてあげる。一瞬……は無理でもそれほど時間はかけずに、はは、止められるやつなんてどうせ」

「いない、とでも思ったか?」

 狂気か、それ以外の何かか、笑い声を立てながらそう口にした災いに向かってそう言ってやると、その少女は勢いよく顔を上げて呆然とこちらを見上げた。

 その顔を見て、随分と愛らしい見た目をしていると思った。

 いくら可愛らしくとも終末の災である以上、殺す以外に何もないが。


 こちらの剣が終末の災の首を切り落とすのが先か、それとも終末の災いの能力による光がこちらを貫くのが先か、そんな命のやり取りの真っ最中、その終末の災は攻撃の手を止めた。

 少女の指先に集められていた光が完全に霧散して、だらりとその腕が下ろされた。

 こちらが剣を振り切ればその細首を完全に落とせる、そんな時に。

 そんなことをすれば死ぬだけだと理解しているだろうに、何故。

 能力に限界が来たのか、いや違う、この少女は自分の意思で攻撃の手を止めた。

 何故。

 だから、咄嗟に剣を止めた。

 そのまま剣を止めずにその首を落としてしまっても良かった、けれども、そうすれば後悔することになる気がした。

 止めきれずに少女の首が少し切れたが、それでもどうにか。

「何故、攻撃を止めた」

 そう問うと、少女はぼんやりとした顔でこちらを見上げてくる。

「ともだちがいるの」

 意味のわからないことを言い出した、何を言っているんだこれは。

「世界なんて滅んでしまえって、滅ばないなら滅ぼしてやるって、そう思ったけど……あたしが世界を滅ぼした時にあのこが死んじゃうのなら、それは駄目だって思っただけ」

 嘘だ。

 嘘に決まっている、終末の災にそんなまともな感性があるわけが。

 これまで遭遇した終末の災の言動を思い浮かべた、邪悪だった、醜悪だった、世界を滅ぼす存在、終末の災の名が相応しい外道だった。

 これも同じはずだ、これは自分の災いだ、間違いではない、間違えようがない、自分の本能がそうだと叫んでいる。

 だからこの少女も他と同じであるはずだった、そうでなければおかしい。

「……だから、もういい。殺したいのなら好きにして」

 信じられない、この少女は今、自分の命を手放した。

 終末の災のくせに、友を殺すくらいなら死んでいいと。

 ふざけるな、そんな善性が終末の災にあるわけがない、あっていいわけがない。

 目の前にいるこれは邪悪で、世界を滅ぼす存在で、生贄を使ってでも殺すべき存在だ。

 生贄になるのなんざごめんだからと、自分がこの手で殺そうと長年追い求めた絶対悪であるはずだ。

 ……ああ、違う、本心な訳がない。

 こちらを油断させるための言動に違いない、きっと今にその牙をむくに違いない。

 愛らしい少女の姿をしているから、きっとこちらを惑わすような言動をすれば仕留められるとでも思ったのだろう。

 ああ、危なかった!! 自分としたことがこんなわかりやすい嘘に騙されかけるなんて。

 だから剣を振りかぶる、何を躊躇う必要がある、これは殺すべき悪だ。

「……ありがとう」

 囁くような声は柔らかな笑みと共に。

 あっけなく首を差し出した少女の顔を呆然と見下ろした。

 しっかり握りしめていたはずの剣は、終末の災の首を落とす前に地に落ちてひどく惨めな音を立てた。

「何故」

 微笑みながら目を閉じた少女の顔を見下ろす、返事はない。

 先程切りつけた細い首から流れる血は止まらず、力尽きたのか少女の体は仰向けに倒れていく。

「何故だ、答えろ」

 倒れ切る前に抱き止めて、少女の再度問いかける。

 答えはなかった、まだ息はあったが、意識はない。

「ふざけるな……!! 何故、何故、感謝など口にした!!」

 叫んでも答えはない、閉じた瞼が開くことも。

 首から溢れる血は少女が身に纏う白衣を真っ赤に染め上げていた、そこで初めて、奇妙なことに気付いた。

 裸足であることには気付いていたが、少女はその白衣一枚しか身に纏っていなかった。

 小柄な少女でかつ白衣が大きめなものであるため今まで気付いていなかったが。

 何故こんな格好をしているのだろうか。

 そんなことを考えているうちに、血は流れ続ける。

 このまま見殺しにするべきか、それともとどめを刺すべきか。

 このままこの少女を殺して、果たして自分は平気でいられるだろうか。

 最期に感謝を口にしたその理由を聞く前に、これを死なせていいのだろうか。

 答えは出ない、けれども迷っている時間はない。

 血が止まる気配はない、このまま放置すれば自分が手を下さずともじきに失血死するだろう。

 もう一度少女の顔を見た、血の気を失った白い顔を、終末の災というにはあまりにも弱々しい、その顔を。

 血が流れ続ける首の傷に手を当てて、魔力を流し込んだ。

 斬る以外の才能がないから、壊してばかりだからとせめてと思って唯一自分が習得した魔術、それによって自分が壊した少女の首を直す。

 人相手に魔術を使うのは初めてだったが、傷はどうにか塞がって、血も止まった。

 ただ、傷跡は消せなかった、そこまでの実力は自分にはなかった。

 ひとまず、これですぐに死ぬことはないだろう。

 目を覚ましたその時にもう一度何故感謝など口にしたのかを問おう、この少女をどうするのかはその時に決めればいい。

 少女の生気のない顔を眺める、改めて見ると、本当に愛らしい顔をしている。

 純粋に顔の作りそのものが可憐なのだが、それだけじゃない。

 自分が知っている終末の災、それらはその顔からも邪悪さが滲み出ている。

 だが、この少女にはそれがない。

 これは自分が知っている終末の災とは何かが違う、少なくとも他の者が持つ邪悪さは感じられなかった。

 思えば世界を滅ぼしてやると叫んだ声も、まるで救いを求めるかのような悲痛さが込められていた気がする。

 気付かなかった、気付くわけがない、これを滅ぼすために死ねとそう定義付けられた存在と出会ったばかりだったのだから。

 そういえばこの少女はどこの何者なんだろうか、長の依頼に関係があるのか、それとも──

 などと考えているうちに複数の気配が。

 少女の身体を抱えたまま待ち構えていると、物々しい武装集団が現れた。

 何者だ、と問いかけるとこちらが抱える少女を引き渡せと。

 この少女は一体何者なのかと問うと、知る必要はない、と。

 それでもと睨みつけると、集団の中のうちの一人が笑いながら説明し始めた。

 邪悪な笑顔のその男曰く、この少女はとある実験の被験体で、世界を救う夢のようなエネルギーを持っているらしい。

 そして、そのエネルギーとやらを引き出すための実験を続けるために、こちらに引き渡せと。

 実験の内容はどういったものなのか聞いてみた、答えなんて返ってこないと思っていたのに、そいつは笑いながらこう答えた。

「甚振るんだよ。痛みは人間が持つ力を引き出すために最も有効なスパイスだからね。だからただひたすらに、痛めつけて痛めつけて、ただそれだけ。刻んで焼いて溶かして腐らせて、犯す。僕みたいなとびきり趣味の悪い連中が涎を垂らして絶頂するような、普通の人がみたら泣き叫ぶような、残酷な目にあわせてあげるのさ」

 そういえばと思い出す、長から助けてくれと依頼された実験とやらの被害者は、かなり非人道的な目に遭わされているらしいと。

 こんな世界、ぶっこわしてやると叫んだ少女の声を思い出す。

「ああそうか、あれらがお前を災いに仕立て上げたのか」

 少女の身体をゆっくりと地におろす、地に落ちたままだった剣を拾い上げて、そこから先はすぐに済ませた。

 武装しているとはいえ、相手は全てただの人間だった。

 終末の災でもないただの人間の首を狩ることなど造作ない。

 全部殺し終わった後、地に横たわらせた少女を抱え上げて呟いた。

「契約を」

 ただ、その一言だけで少女と自分の命が繋がったのがわかった。

 自分のような魔術師は契約によって自分が担当する災いを隷属させ、その自由と命を奪う。

 契約を行う方法は魔術師が災いに触れている状態でどちらか一方がそう望むだけ、という酷く簡単なもの。

 そうして契約を交わした魔術師が災いに自害を命じることで、世界を救う生贄としての役目は全うされる。

 契約を行えば魔術師は災いと命を共有することになる、どちらか一方が死ねばもう片方も死ぬ、そういう仕組みになっている。

 自分達魔術師は災いを無理心中で殺すための、世界の終わりを防ぐ生贄だった。

 大昔に存在した古の魔術師達が、後世に生まれる魔術師がそうなるように調整して生まれてきた生贄。

 だから自分はそうならぬように、そうなる前に自分の災いを自分の手で殺すつもりだった。

 それができて当たり前になるくらい、剣の腕を磨いた。

 契約なんてする必要はなかった、ただこの首を落とせばそれで済む。

 けれども友を殺したくないと、そうなるくらいなら死んでいいと、そんな後ろ向きの善性を持つこの少女を殺す必要があると思えなかった。

 殺す必要がないのなら、生かそう。

 生かすのならばそれ相応の責任を。

 これが終末の災の名に相応しくないという理由で生かすのならば、これが終末の災に相応しい存在にならぬように。

 そのために何をすべきか。

 自分にできることなど、一つしか思いつかなかった。

「お前の可愛い首を落とす代わりに、お前を終末の災に貶めた、そして今後貶めようとする全ての首を落とそう。いいだろう、終末を防ぐ魔術師としての役目、果たしてやる」

 そんな自分の決意は意識を失った少女には聞こえていないだろう。

 そもそも少女が知る必要もない、これは自分が一方的にそうすると決めただけのことなのだから。

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