第九章 買い物
よろしくお願いします
組合に戻り、討伐の証と採取した薬草、キノコ、そしてイノシシの魔物を査定台に並べると、受付の職員が目を丸くした。
「これは……綺麗な状態ですね」
イノシシの毛皮を検分しながら、職員は感心したような声を漏らした。
「傷がほとんどないので、加工用に高値で引き取れます。牙も大きく立派で折れずに残っていますし、これは武器の柄材として需要がありますよ」
「可食部も多いですね。こちらも良い値がつくと思います」
傷の少ない皮は加工用に高値で引き取れると言われ、マリーは嬉しそうに頷いた。
続いて薬草とキノコが査定台に並べられる。職員は一つずつ手に取り、慣れた手つきで選別していった。
「止血草は、いつも安定して買い取ってますが、今日は特に鮮度がいい。解毒草の方は……これはいいですね。ここ最近、討伐依頼で毒持ちの魔物が増えているので、需要が高くなっているんです」
そう言って、職員は薬草の束を丁寧に紙で包み直した。
「キノコは、食用の方はそのまま酒場に卸せる質です。薬用のは、量がまとまれば錬金術師の工房に持ち込むと、もう少し値がつくかもしれません」
マリーは頷きながら、職員の説明を一つ一つメモに書き留めていた。
「正式な代金のお渡しは、明日以降になります。買い取り品の最終確認が必要なので。代わりに、これをお持ちください」
職員は木製の小さな札を差し出した。表面に数字と印が刻まれている。
「明日、これを窓口に出していただければ、査定額をお支払いします」
マリーはその札を大事そうに両手で受け取った。久しぶりの戦闘に疲れていたので、その日はそのまま宿に戻り休んだ。
翌日、組合の窓口で札を差し出すと、マリーの手に硬貨の詰まった袋が渡された。中身を確かめたマリーの表情が、これまでにないほど明るくなった。
「思ったより、貰えました……」
念話越しに伝わってくる声にも、僅かな高揚が混じっていた。俺はその様子を見ながら、ふと自分の格好に思い至った。
(その金で、俺の服を買え)
以前買った大きな布と丈夫な紐は、正直なところ、いつまでも同じものというわけにもいかない。多少はまともな見た目のものが欲しくなっていた。
マリーは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに頷いた。
「わかりました……お店、探しましょう」
だが、実際に商店を回り始めると、これがなかなかの難題だった。
一軒目の服屋に足を踏み入れると、店主は俺の巨躯にぎょっとした様子を見せた後、すぐさまマリーの方へと視線を移した。
「従魔用の服、ってことですかい? 申し訳ないがうちは扱ってないですねえ」
マリーが慌てて「い、いえ、これは……」と言いかけたが、店主は既に興味を失ったように奥へと引っ込んでしまった。
二軒目も似たような対応だった。マリーが「何かありませんか」と尋ねても、店主は困惑した顔で並ぶ服を見回すばかりで、要領を得ない。
三軒目でようやく、大柄な鍛冶職人や力仕事の労働者相手にも対応している、古着を扱う店に辿り着いた。
「うちの商品じゃこれでどうだい?」
年配の職人がそう言いながら、いくつか大きめの古着を並べてみせた。だが並べた端から、俺の肩幅にも腕回りにも到底足りないことが、店主自身にもすぐに分かったようだった。
「……いや、こりゃ無理だ。うちにゃそんな図体に合う古着なんて置いてないよ」
職人はそう言って古着を仕舞い直すと、代わりに店の奥から丈夫そうな麻布の反物を引っ張り出してきた。
「仕立てるしかないね。装飾もクソもない、頭と腕通す穴空けただけのもんでいいなら、すぐ出来る」
職人は巻尺代わりの紐で、腕の太さ、肩幅、胴回りを次々と測っていく。それから手早く布を裁断し、簡素な貫頭衣を仕上げていった。端切れ同然の布を使った簡易な代物で、値段も拍子抜けするほど安く済んだ。
(どうだ)
俺は出来上がったそれを頭から被り、腰の部分を紐で縛りながら、マリーに向けて念話を飛ばした。マリーはこちらを一瞥し、小さく頷いた。
「……大丈夫そうです」
布一枚を適当に巻いただけだった以前に比べれば、格段にまともな格好だった。俺はそれを着込み、動くたびに布が体に沿う感触を確かめる。
(悪くないな)
思ったより早く済んだうえ、費用も予想より安く上がった。手元にはまだ余裕がある。俺はふと、マリーの格好に目を向けた。村を出た時のままの、粗末な衣服。武器らしい武器も持たず、呪符と多少の道具だけで戦ってきていた。改めて思えば、心許ない装備だった。
(お前の分も揃えるぞ。角兎くらいは、自分一人で相手できる装備をだ)
念話でそう伝えると、マリーは驚いた様子で目を見開いた。
「私の……ですか」
(金はまだ残ってる。無駄にする理由もない)
マリーはしばらく戸惑ったように立ち尽くしていたが、やがて小さく頷いた。
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