第十章 マリーの装備
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マリーの装備を整えるにあたって、防具屋へと向かった。少しの武器と防具を専門に扱う店で、壁には剣や盾がずらりと並んでいる。店主は白髪交じりの初老の男で、片腕に古い傷跡が残っていた。かつては冒険者だったのかもしれない。
店主にマリーが予算と用途を伝えると、店の奥から丈夫な仕立て直しの服を何着か引っ張り出してきた。元々は職人の作業着だったらしく、生地はしっかりしており、動きやすさも考えられており、さらに多少の補強が加えられている。マリーはその中から一着を選び、試着室で着替えてから出てきた。
「動きやすいです……」
小さくそう呟きながら、腕を軽く振ってみせる。続いて、丈夫な革のブーツも中古で見つかった。今まで履いていた靴よりも足首がしっかりと固定される作りで、走ったり跳んだりする際の安定感が違うらしい。
店主は続けて、壁に並んだ盾をいくつか下ろしてきた。マリーの体格と、呪符を扱う都合を聞いた上で、小さな円形の盾を勧めてくる。
「軽めのバックラーだ。片手で扱えて、身のこなしを邪魔しない。魔物使いの護身にはちょうどいいだろう」
古着や靴とは違い、盾だけは新品を選んだ。マリーが実際に手に取って構えを確認すると、店員が装着の仕方や、腕への固定方法を丁寧に教えてくれた。
最後に、荷物を入れるための袋も新調した。これまでは腰にぶら下げた小さな革袋一つと、安い麻の袋だけで、討伐証や採取物をやり繰りしていたが、今回買ったのは一回り大きく、仕切りのついた丈夫なものだった。
出来上がった一式を身につけたマリーは、以前とは見違えるほど、様になっていた。
(いいんじゃないか)
念話でそう伝えると、マリーは僅かに頬を緩めた。
宿に戻ると、待合スペースにエルザの姿があった。傍らのケットシーが、こちらを見て小さく鳴いた。
「あら、いいところに。ちょっと相談があるんだけど」
エルザはそう切り出した。
「実は、明日森に行く予定なんだけど、うちのパーティの荷物持ちが、足を怪我しちゃって。代わりになる人を探してるの」
マリーが戸惑ったように視線を動かすと、エルザはこちらへと目を向けた。
「あなたの従魔、力もありそうだし……もしよければ、明日一緒に来てもらえない? オーガなら、相当な量を運べるでしょうし、報酬は弾むわ」
他の冒険者の実力を見るいい機会だ、と俺は思った。
(受けろ)
念話でそう伝えると、マリーは頷き、エルザに向き直った。
「はい、お願いします」
「よかった。じゃあ、明日の朝、早めに集合ね」
その夜、部屋に戻ると、マリーはいつものように水を張った桶と布を用意した。
「体、拭きますね……」
湿らせた布で腕を拭いながら、マリーがふと口を開いた。
「良かったのですか? 他の人のパーティに、付いていくの」
(他の冒険者の強さ、見ておきたかった)
念話でそう答えると、マリーは手を止めて、少し考えるような間を置いた。
「そうですね……他の人の実力を見るのは必要ですよね…」
小さく呟くように言うと、また作業を再開した。俺はその手つきを感じながら、明日の森行きに思いを馳せていた。
翌朝、指定された場所に向かうと、既にエルザと更に二人が待っていた。一人は短く刈り込んだ赤毛の男で、腰に剣を提げている。もう一人は黒髪を後ろで束ねた、それよりもさらに一回り大きな体格の男で、背に大盾を担いでいた。
「初めまして。剣士のガレンだ」
「盾役のバルドだ、よろしく」
二人が軽く手を上げて挨拶してきた。バルドがマリーの装備を一瞥すると、感心したように声を上げた。
「ほう、駆け出しにしては、なかなかしっかりした装備だな」
マリーは少し照れたように会釈した。俺はその様子を見ながら、昨日の買い物が無駄ではなかったことを実感した。
「メンバーは私たちと、この子含めて四人ね。ガレンが前衛、バルドが盾、私は索敵と補助。今日はいつもより少し奥まで行くから、遅れないでね」
エルザの号令で、パーティは森へと向かって歩き出した。
森に入ると、流石に森に慣れたパーティだからか、普段の俺達より少し速い足取りで進んでいった。浅い場所に出る角兎などは、エルザが小石を投げて追い払うだけで、足を止めることさえしない。
「浅場のものは、今日は拾わないわよ。奥の方が実入りがいいから」
エルザの説明に、マリーは真剣な面持ちで頷いていた。
しばらく進んだところで、ケットシーが不意に足を止め、耳をぴんと立てて低く唸った。毛を逆立て、頭上の木々を睨みつけている。
エルザが素早く視線を巡らせ、それから短く言った。
「二匹、緑猿」
木々の合間、緑がかった毛並みの猿に似た魔物が二匹、枝から枝へと飛び移りながらこちらを窺っているのが見えた。ガレンとバルドは声を発することなく、目配せと軽い手の動きだけで位置を確認し合う。
一匹が枝を蹴って飛びかかってきた。バルドが大盾を構え、その一撃を正面から受け止める。衝撃で盾が僅かに軋んだが、体勢は崩れない。
もう一匹は側面から回り込もうとしていた。だがその進路に、突如として二体目のケットシーが現れた。本物と寸分違わぬ姿の、幻影だった。猿の魔物はその幻に気を取られ、一瞬動きを止め威嚇をする。
その隙にエルザが矢をつがえ、動きの止まった猿の首筋へと正確に射抜いた。声を出さぬまま、それだけで一匹が木から落ち地に沈む。
盾で受け止めていたもう一匹には、バルドが押し込みながら体勢を崩させ、ガレンが素早く踏み込んで剣を一閃させた。確実に胴を捉え、猿はそのまま崩れ落ちた。
一連の流れるような連携に、マリーが小さく息を呑んだ。
「……すごい」
ぽつりと呟いたその声には、素直な驚きが滲んでいた。俺もまた、その連携を興味深く眺めていた。単独で力押しする自分のやり方とは、また違う戦い方だった。
「こいつはロクな部位が無いから、放っておいて先に進むぞ」
ガレンが猿の亡骸を一瞥してそう言うと、パーティは特に回収作業もせず、そのまま奥へと歩みを進めた。
さらにしばらく歩くと、木々の合間から水音が聞こえてきた。開けた場所に出ると、澄んだ小川が流れている。
「ここが目的地よ」
エルザが満足げにそう言った。川底には、光を反射する鉱石らしきものが点々と沈んでいるのが見えた。周囲の岸辺には、見慣れない色をした植物が群生している。
水面には、時折魚影がよぎるのも見えた。マリーが興味を惹かれたように川辺に近づこうとすると、エルザが軽く手を上げて制した。
「不用意に手を入れないでね。この辺りの魚、結構噛みつくから」
「さあ、今日は頼りになる荷物持ちがいるんだから、たくさん持って帰るわよ!」
エルザが声を弾ませながら、そう宣言した。
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