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契約逆転 オーガと魔物使いの主従生活  作者: 山田二郎
第二部

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第四十九章 マリーの想いとツヨシの声

よろしくお願いします

さらに三日が過ぎた。


迷宮への探索は、ラナの武器の訓練を兼ねて時間をかけて進んでいる。ここ二回は、二十階の門番を倒したところで引き返しているが、そのおかげかラナのトンファーの扱いも、少し様になってきていた。ラナ曰く、素手で戦っていた頃と似た感覚で扱えるらしい。


そして、家に入居できる日が来た。宿を引き払い、荷物を新居へと運び込む。


前庭を通り、玄関を開けると、まずブーツルームがあり、その先に広めの居間が広がっている。左手に台所、右手には物置と簡易の作業場があった。二階には寝室が三部屋と、物置が一部屋。レンガ造りのしっかりとした二階建てだった。作業場と台所は、それぞれ勝手口から裏庭に通じている。


「私、こんな立派なおうちに住めるんですね!」


マリーは目を輝かせながら、居間を何度も見回していた。


前の住人が残していった家具が、ある程度揃っている。足りないものを、買い足すことにした。


「何でもいいよ。任せた」


ラナはそう言い残すと、興味深そうに家の中を見て回った。ケリュネは、なぜか作業場が気に入ったらしく、そこで早々に丸くなって寝始めている。


敷地は柵で囲われ、隣近所とも二十メートルほどの間隔がある。人目を気にせず暮らすには、悪くない立地だった。


買い物先では色々と注文し、かさばる物は配達を頼んだ。鎧姿のツヨシとマリーが街をうろつく姿は、今ではすっかり見慣れられている。料理をまともに出来る者はいないが、味にうるさい者もいないので、今後の料理は適当にやっていくことにした。


宿にいた頃より組合までは遠くなったが、迷宮までの距離は近くなった。


夜、荷物の整理も一段落した頃、魔導ランプの照らす部屋の中で、マリーが小さく鼻歌を歌っていた。聞いたことのない曲だ。棚の位置を直しながら、機嫌よく手を動かしている。


(マリー)


念話で声をかけると、マリーは手を止め、こちらを振り返った。


(今は二十階まで進んでいるが、普通に暮らすだけなら、これ以上を目指す必要は無い)


マリーの表情から、笑みが消えた。


(危険を冒してまで、先に進む意味はない。……お前は、どうしたい)


マリーは少しの間黙ってから口を開いた。


ずっと、言いたかったんです。

今まで、ツヨシさんに言えてませんでした。

今の私があるのはツヨシさんのおかげです。

本当にありがとうございました。

あなたに出会わなければ、私はどうなっていたか分かりません。

ただの村娘の私がお貴族様から褒められました。

王子様にお礼も言われました。

こんなに素敵な家にも住めるようになりました。

ケリュネという仲間も出来ました。

ラナさんも仲間になりました。

何も知らなかった小さな私の世界が、広がって行きました。

私は今とても幸せです。

でもここで止まったら、多分、もう世界が広がることはなくなると思うんです。

贅沢かもしれないけれど、もっともっと、色々知って世界を広げたいんです。

それに、私には目標があるんです。もっともっと強くなって、いつかオーガを従魔にするんです。

だからツヨシさん、これからも一緒に居てもいいですか?


マリーの話を聞いて、俺は喉に魔力を込めて、ゆっくりと返事をした。


「好きにしろ」


「えっ、ツヨシさん言葉が…!」


驚くマリーに、俺はそれ以上答えず、明日の予定を伝えた。


(明日からは、少しずつ奥を目指す。早めに休む)


そう告げて、俺はランプの明かりを消した。


暗い部屋のベッドの上で、体の力を抜き魔力を操作する。ラナから聞いた、獣人の体の一部だけを変化させる技――全身の変身は難しくても、一部だけなら、可能かもしれない。そう考え、毎日欠かさず魔力操作の訓練を重ねた。


そして、やっと指一本分ほどの範囲を変身出来るようになった。喉の声帯周囲だけを変質させ、人の声を出す。


まだ、かなりの集中力と魔力を消費するため、今は一言発するのが限界だ。それでも、訓練を重ねればいずれ話せるようになるだろう。


明日からは、迷宮のさらに奥を目指す。当面の目標は、三十階だ。


翌日からのダンジョン探索は、ラナの訓練を主目的とするものから、奥へ進む方針へと切り替えた。マリーの魔力を節約しつつ、最短距離で二十階まで進む。門番も一人一体を担当し、短時間で片付けた。


二十一階からは、相変わらず力技で進む。毎回変わる森の道を無視して、ツヨシが棍で木を薙ぎ倒し、マリーとラナとケリュネが骨狼を倒す。たまに出るトレントはマリーの魔法が良く効いた。


一週間ほどで二十三階への階段を見つけた。


しかし、この進み方には限界を感じる。一つの階層を進むのに時間がかかりすぎる。


その日、帰宅した日の夜にマリーと相談する。


探索時間を伸ばすか。効率を求めるか。時間を伸ばせば集中力は保てるのか。ダンジョン内で夜を明かすべきか。安全に休める場所はあるのか。効率を求めるなら何を変えるべきか。何か他に手はないか。


結論は出ず、夜は更けていった。

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