第四十七章 新しい住処
よろしくお願いします
ゾンビ犬との戦闘を終えたラナは慎重さを増した。それ以降の道のりも問題なく進んだ。順調に十階へと降り、門番の部屋の前へと辿り着く。
指輪に魔力を通し、俺は説明を始めた。
「ここで、実力を見る。ラナとケリュネに、それぞれ一体ずつ倒してもらう」
部屋の中に、身長五メートルほどのスケルトンが二体いることを伝える。
「はっ、その鹿が手こずってたら、私が二体とも仕留めてやるよ」
ラナは自信ありげに笑った。
部屋に入り、ケリュネから荷物を外す。広い空間の中央に、二体の巨大なスケルトンが立っていた。片方は槍を、もう片方は剣と盾を構えている。
ラナが左右の拳を打ち合わせて気合を入れた。
「ケリュネは槍を、ラナは剣盾の方をやれ。できるな?」
やる気のラナが一歩踏み出した横を、ケリュネが地を割るような勢いで駆け抜けた。魔力を込めた角が光を放ち、残像を引きながら一筋の光の帯となる。
槍持ちが構える。ケリュネは速度を落とさぬまま、軽く左右にフェイントをかけた。上から突き下ろされる槍を紙一重でかわすと跳び上がり、骨盤の辺りに光る角を叩き込む。
五メートルの巨体が吹き飛び、地面を跳ねて砕け散った。
一瞬で仕留めたケリュネは、鼻を鳴らし、軽やかな足取りでこちらへと戻ってきた。
呆気に取られるラナの前に、剣盾持ちのスケルトンが近づいてきた。ラナは気を取り直し、構えを取る。
スケルトンが間合いを詰め、剣を振り下ろす。ラナはサイドステップでかわし、突きを放った。だが、その一撃は盾に阻まれる。盾と拳がぶつかり、鈍い音が響いた。
何度か攻撃を仕掛けるも、いずれも盾で防がれる。相手の攻撃は当たらないが、こちらにも決定打がない。
「ちっ、らちが明かないね! もう本気でいくよ!」
ラナは相手の盾を足場に、後方へと大きく飛び退いた。ラナの全身に魔力が巡る。
骨格が軋み、輪郭が変わっていく。黄色い毛が全身を覆い、全身が獣のそれへと変わった。
虎となったラナは、門番の周囲を素早く回りながら、隙を見て飛びかかった。四足の速さにスケルトンの盾が間に合わない。相手の膝に一撃を叩き込み、すぐさま離脱する。振り下ろされた剣が、先ほどまでラナのいた地面を叩いた。
素早い動きで翻弄しながら、少しずつ相手にダメージを蓄積させていく。やがて膝の砕けたスケルトンが、崩れるように地面へと倒れ込んだ。ラナはそこへ追撃を加え、骨をバラバラに打ち砕いた。
ラナは元に戻り、座り込むと大きく息を吐いた。
「あー、しんどかった」
それから水を飲み、一息つくとケリュネに向かって頭を下げた。
「ケリュネ、あんたの方が実力が上だったよ。今まで大きな態度をとってすまなかった」
ケリュネはラナに近寄り、軽く角で小突くと、マリーの近くへ戻っていった。
その後、魔石を拾い上げ、部屋の隅にあるサークルへと向かった。ラナは不思議そうな顔をしていたが、特に聞くこともなく輪の中へと入る。サークルが強く光を放ち、視界が晴れると、一階の景色が広がっていた。
出口へと向かう途中、俺はマリーに念話を送った。
(宿を出て、家を借りる。冒険者組合で相談しろ)
マリーは嬉しそうに頷くと、傍らのケリュネの首を撫でた。目を細めたケリュネの様子から、ケリュネに伝えたのだろう。
迷宮を出ると、俺たちはいつもより早い時間に組合へと向かい、家のことを相談することにした。
奥の部屋へ案内されたのは、マリーと俺だけだった。ラナとケリュネは、先に併設の酒場へ行かせている。
しばらくして、見覚えのある職員が入ってきた。
「お待たせしました。家をお探しとのことですが」
職員は、いくつかの物件が記された紙を差し出した。いずれも、組合が保有している物件らしい。
購入は無理だが賃貸物件として貸し出している。
「こちらは、ご都合の良い時にご案内できますが」
(今から行く)
念話を受けたマリーがそのまま口にした。
「今から、お願いできますか?」
「え、今からですか……? わ、分かりました。ご案内します」
職員は少し戸惑いながらも、すぐに立ち上がった。
酒場に顔を出し、留守番を頼む。肉を頬張るラナに声をかけると、彼女は片手を上げて答えた。
「私は住めたら何でもいいよ。任せた」
ケリュネは、当然のようについてくる。
物件を回りながら、俺は場所についての希望を伝えた。
(なるべく頑丈な作りなら良い、後は任せる)
いくつか案内された中からマリーが選んだのはダンジョン寄りの一軒に決めた。そこそこの広さがあり、広めの裏庭に井戸もある。町の外れに近く、人目も気にせず済みそうだった。
家はしばらく使用されていないのか、家の中は薄く埃が積もり、庭に雑草も生えている。
清掃が入ってから入居になるので、住めるのは三、四日後になるそうだ。
組合に戻り、契約の手続きを進める。提示された賃料を見て、マリーは目を丸くした。
「あの、ずいぶん安いんですね」
「マリーさんは最高ランクですから、組合管理の賃貸もかなり安くなるんですよ」
「……ランク?」
マリーが首を傾げた。
「最初にダンジョンの許可証を作る際に、ご説明したと思いますが。特典の一つです」
「へえ……」
マリーは、今になって思い出したように相槌を打った。
契約を終えたところで、ラナも新たに許可証を作ることになった。ラナは字の読み書きが出来なかったのでマリーが代わりに記入する。
ラナは、出来上がった許可証を受け取ると、尻尾の先を小さく揺らしながら、しばらく許可証から目を離さなかった。
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