第四十二章 護衛任務
よろしくお願いします
伯爵軍の陣営が見えてくると、周囲がにわかにざわつき始めた。見張りの兵士に素性を明かし、伯爵への取り次ぎを求める。
引き連れてきた元捕虜と馬たちを、近くにいた兵士に任せた。しばらくすると、監督役の兵士がこちらへとやってきた。
「首尾はどうだった」
マリーは順を追って報告した。奇襲によって二つ目の補給部隊を壊滅させたこと、後方へ捕虜を輸送していた馬車を見つけて解放したこと、そして馬を新たに三十四頭連れ帰ったこと。
監督役の兵士は、報告を聞き驚いたように眉を上げた。
「……よくやった。詳しくは、伯爵様に直接お伝えするといい」
一通りの報告を終えると、俺たちは冒険者に割り当てられた区画へと向かった。ケインたちが焚き火の傍らで待っており、こちらに気づくと勢いよく駆け寄ってきた。
「姐御、無事だったんですね!」
疲れを労らわれながら、そのまま夕方まで休息を取った。
日が傾いた頃、伯爵の天幕へと呼ばれた。中へ通されると、見覚えのある顔があった。捕虜の中にいた、あの若い兵士だ。傍らには、伯爵ハインリヒ・バロメアが立っている。
「よく来てくれた」
伯爵はそう切り出すと、まずは労うように頷いた。
「此度の働き、見事だった。王子、改めて紹介します。我が軍が誇る特別遊撃隊――その隊長と副隊長です」
マリーが戸惑った顔をこちらに向けた。
(とりあえず、合わせとけ)
念話でそう伝えると、マリーは僅かに頷き、姿勢を正した。
伯爵は続けて、傍らの若い兵士を手で示した。
「こちらは、第五王子――セドリック殿下だ。作戦中、敵の攻撃を受け囚われていたところだった」
若い兵士――セドリックは、顎を軽く引いた。捕虜として見た時よりも、幾分か血色が良くなっている。
伯爵が続けた。
「よくぞ助け出してくれた」
セドリックも、静かに口を開いた。
「礼を言う」
「次の任務として、特別遊撃隊には王子殿下の護衛を任せる。詳しくは追って指示する。それまでは待機するように」
伯爵がそう締めくくった。傍らに控えていた従者が、セドリックを促す。
「殿下、お部屋の準備が整いました。こちらへ」
用意された個人用の天幕へと、セドリックは案内されていった。旅と捕囚の疲れが出たのか、その足取りは僅かに重かった。
天幕を出ると、日はすっかり暮れかけていた。
(厄介な事になったな)
念話でそう伝えると、マリーは短く息を吐いた。
「本当ですね……」
それからさほど時を置かず、俺たちだけが再び伯爵の天幕へと呼び戻された。先ほどとは違い、天幕の中には伯爵一人だけが待っていた。
「まずは、良くやった。想定以上の働きだ」
伯爵は開口一番、そう切り出した。
「特に、馬を六十頭以上手に入れたのが良かった。急遽集められた部隊で、前線には馬が足りず、供出するようにという書状が来たばかりのところだった。こちらにも余裕がなかったからな。よくぞ、個性の強い冒険者たちをここまでまとめ上げた」
労いの言葉は続いたが、王子の護衛についての話は一向に出てこない。
(護衛の件、聞いてみろ)
念話でそう伝えると、マリーは小さく頷いた。
「あの、護衛のことは……」
伯爵の表情が、僅かに苦いものへと変わった。
「王子からの要望だ。囚われたことが、よほど堪えたのだろう。敵を蹴散らして助け出したお前たちに、護衛を頼みたいと仰せでな」
伯爵は一度、言葉を切った。
「我が軍の特別遊撃隊の隊長ということにして任務中の身であると伝えたが、聞き入れてはもらえなかった。王家には、後で苦情を入れるつもりだ。だが、今回はどうにもならん。……受けてくれ」
護衛の依頼を、俺たちは受けることにした。
その後、伯爵と細かな段取りを詰めた。王国軍本隊への物資と馬を輸送する部隊に合流し、兵士と冒険者たちが護衛として同行する形になるという。マリーは冒険者たちを集め、事の次第を説明した。
翌朝、隊列は野営地を発った。
道中、マリーとツヨシは王子の傍らに呼ばれた。セドリックは馬に騎乗し、マリーはケリュネの背に乗って並ぶ。俺は徒歩でその後ろに続いた。
「先の戦いでは、随分と派手にやったそうだな」
セドリックが、こちらへと声をかけてきた。俺は特に応じず、黙って歩みを続けた。
「あ……はい。ツヨシが、ほとんど……」
マリーが慌てて答えた。セドリックは怪訝そうに眉をひそめた。
「私は、副隊長ではなく、隊長のツヨシ殿と話したいのだが」
「え……」
マリーが戸惑った声を上げた。傍らを歩いていた、王子付きの兵士――伯爵が同行させた護衛の一人が、すかさず口を挟んだ。
「殿下、恐れながら。隊長はこちらのマリー殿でございます」
セドリックの目が、僅かに見開かれた。
「……隊長が、彼女だと?」
疑わしげな視線が、マリーへと向けられた。
「では聞くが、隊長というのは、副隊長より強いという意味なのか?」
「い、いえ……そういうわけでは……」
マリーが口ごもると、セドリックはさらに問いを重ねた。
「歳は、いくつだ」
「十六です」
「私と同い年か」
セドリックは少し意外そうに呟くと、今度はケリュネへと目を向けた。
「その従魔は、随分と大人しいものだな。名は?」
「ケリュネといいます」
「ほう。よく懐いているようだ」
部隊は進み、やがて木々の切れ間の先に無数の天幕と旗が広がっているのが見えてきた。風にはためく軍旗の数だけでも、これまで見てきたどの陣営よりも規模が大きい。王国軍の本隊が、目の前に姿を現した。
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