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契約逆転 オーガと魔物使いの主従生活  作者: 山田二郎
第二部

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第四十章 奇襲

よろしくお願いします

天幕に着くと、案内役の兵士が伯爵側の兵に何事かを告げ、俺たちだけが中へと通された。案内役自身は、そのままバロメア領軍本体へ加わるようにと指示を受けたらしい。


天幕の中には、伯爵の側近らしき初老の兵士が地図を広げて待っていた。


「マリー殿とお見受けします。まず、地図は読めますか」


「はい、大丈夫です」


側近は頷き、広げた地図の一点を指し示した。


「主戦場はここより少し北。小さな砦が一つ、敵に奪われました」


指先が、砦を中心とした一帯をなぞる。


「バロメア伯爵様はこの周辺のまとめ役として、回り込んでくる敵兵を防ぎつつ、王子殿下率いる本体との一斉反攻の機会を窺っておられます」


マリーは真剣な顔で地図を見つめていた。


「そこで、冒険者部隊の皆さんには、敵後方の攪乱を頼みたい」


側近はそう切り出すと、地図の別の一点――砦から敵国側へと延びる道を指した。


「特に、補給物資への攻撃を。監督役として、こちらから一人お付けします。働き次第では、報酬の増額もございます。期待しております」


マリーは頷き、俺と共に天幕を出た。


「どうしましょう」


(森を拠点に動く。いざとなれば逃げやすい)


念話でそう伝えると、マリーは地図を思い返しながら考え込んだ。


「一日ほど進んだ先……森の近くの道が良さそうです。補給部隊を攻撃するなら、開けた場所より、身を隠せる場所がある方が動きやすいので」


俺も同じ考えだった。


冒険者たちを集め、マリーは持ってきたメモに簡易な地図を描きながら、作戦を説明していった。目的地、進軍のおおよその経路、現地での動き方――順を追って話す様子には、以前より迷いが少なくなっていた。


「伯爵様側にも、この作戦は伝えておきます」


マリーはそう締めくくり、監督役の兵士にも同じ内容を報告した。経験豊富な壮年の兵士で、何かあれば相談に乗ってくれるようだ。


夕方、荷駄用の馬を二頭借り、物資を積んで一行は出発した。ツヨシたちの分の物資はケリュネに背負わせた。


目的地へは、あえてやや遠回りの道を選ぶ。各パーティから二人ずつ斥候を出し、周囲を確認しながら進む手筈になっていた。


「もし敵を見つけても、無理に近づかないようにしてください。物資の運搬や敵の斥候に関わらず、こちらが気づかれる前に引き返して。詳細よりも見つからない事を優先してください」


マリーの指示に、斥候役の冒険者たちは頷いた。ケインたち三人組は、マリーとツヨシの組と合流し、一つのパーティとして扱われることになった。


野営を一度挟み、翌日の夕方頃、一行は目的地に到着した。


到着してすぐ、マリーは全員を集めて情報をまとめた。


「昼頃、馬車十台以上の補給部隊を見たという報告がありました。この道を使うのは間違いないと思います」


冒険者たちの間に、緊張が走る。


「今夜から、補給部隊への攻撃を始めます。まず、この拠点からの方向や距離、敵の規模の報告方法を統一しておきましょう」


マリーは北を砦の方角、南を敵国の方角と定め、距離はおおよその徒歩換算で報告するよう決めた。


作戦の骨子も固まった。マリーたちを除く三パーティを、それぞれ砦側、中間方面、敵国側の三方向へ斥候として放つ。定めた時間までに戻り、補給部隊を発見次第、報告する。それ以上は、あまり詳しくは決めずに、何かあれば臨機応変に対応することとした。


日が落ち、薄闇が辺りを包み始めた頃、三パーティが散っていった。


約二時間後、全員が戻ってきた。


敵国方面を見に行ったパーティが、森に入る手前の広場で野営する補給部隊を発見していた。


「馬車が、輪になるように並べられてました」


報告に来た冒険者が、地面に簡単な図を描きながら説明する。


「台数は十五台前後。周囲を兵が見回っていて、円の内側にも、結構な数の兵がいるように見えました。ただ、遠目だったので、詳しいことは分かりません」


監督役の兵士が、その図を覗き込みながら口を開いた。


「敵国補給部隊に間違いないだろう。馬車の並びは円陣形。防衛に優れた、いわば移動する簡易砦のようなものだ」


兵士はそこで言葉を切り、マリーを見た。


「どうする?」


(魔法はなるべく使うな。貴族側に目をつけられるかもしれん)


念話でそう伝えると、マリーは頷いた。


「夜襲をかけます」


マリーはそう告げると、集まった冒険者たちに向けて続けた。


「弓矢で遠距離から攻撃して、敵を釣り出します。人数が少なければ殲滅、多ければ森へ退避。これを繰り返しましょう」


「姉御、俺、石投げは得意です! 村で一番でした!」


ケインが胸を張って言った。傍らの二人も、ケインの石投げの腕には保証をつけるように頷いた。


「なら、油壺を投げる役、お願いします」


火をつけた油壺の役目は、ケインに任されることになった。


(俺は反対側から一人で行く)


念話でそう伝える。マリーが「ツヨシさんは円陣の反対側から攻撃を仕掛けて下さい」と言うと周囲からざわめきが起きた。


「ツヨシさん一人で? 無茶じゃないか?」


冒険者の一人が不安げに言った。


「ツヨシさんなら大丈夫です」


マリーが即答すると、それ以上異論は出なかった。


すぐに作戦を始めることになった。


月明かりのみの薄暗いなか、敵の野営地を目指して進む。


目的地に近づくと、敵に気づかれない距離――およそ百五十メートルほどの地点で一度足を止めた。ここでツヨシは別行動を取り、単独で回り込むことになった。


始まりは、ケインの投擲だった。


握りこぶし大の焼き物の壺に油を入れ、布で蓋をしたものに火をつける。投擲紐を振り回し放たれた壺は山なりの軌道を描いて夜空を横切った。目算で百五十メートルほどある距離を越え、馬車に命中する。炎が瞬く間に燃え広がった。


遠くで燃え上がる馬車を横目に、俺は暗闇の中を素早く駆けた。マリーたちとは馬車を挟んで反対側へと回り込み、燃え上がる積荷に視線と注意が集まったところを見計らって、馬車を飛び越え、円陣形の内側へと着地した。


内部は直径二十メートルほど。馬や兵士、御者を合わせて五十人ほどがいる。戦力になるのは、そのうち半数といったところか。何人かの敵がこちらを振り向いたが、すぐには反応できずにいた。数瞬前まで誰もいなかったはずの場所に、身長二メートルを超える全身金属鎧の人影が現れているのだ。無理もない。


俺はまっすぐ中心へと歩を進めた。燃え上がる積荷の方を向いて指示を飛ばしている、少し良い鎧を着た兵士に近づき、棍を横に薙いだ。体がくの字に折れ曲がって飛び、馬車へと叩きつけられる。


「て、敵襲――!」


こちらを見て固まっていた兵が、ようやく声を上げた。


剣を抜いて斬りかかってくる兵士を、そのまま薙ぎ払う。剣で受ければ剣ごと折れ、盾で防げば盾ごと吹き飛んだ。囲まれないように立ち回り突然の襲撃に浮き足だった敵を倒して回る。短い時間で、向かってくる敵はいなくなった。残ったのは、震える御者と荷運びの人夫が二十人ほど、馬が三十頭ほどだった。


俺はマリーへと念話を飛ばした。


(こっちは終わった。聞こえたら返事をしろ)


従魔の念話は、声の届く範囲であれば繋がる。近くにいれば、応答があるはずだった。


「ツヨシさん、外の敵は終わりました!」


燃える馬車の向こうから、声が返ってきた。俺は燃えていない馬車の連結を外し、円陣形の外へと出た。二言三言のやり取りを交わした後、全員が円陣形の中へと入ってくる。


中の様子を見て、ケインが小さく呟いた。


「すげぇ……」


監督役の兵士とマリーが相談し、震えるだけの御者たち二十人は、砦の方角へと歩かせることにした。どのみち今夜の出来事は伝わるだろう。であれば、少しでも砦側の物資を消費させる足しになる。


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